一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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どうしてですか?

質問者:   その他   あきひと
登録番号0518   登録日:2006-02-14
3倍体ってどうして不妊になったり、種子ができなくなるんですか?
あきひと さん

 3倍体の不稔に関する質問ですが、植物の染色体を細胞遺伝学的に詳しく研究しておられる京都大学大学院・農学研究科・植物遺伝学分野の遠藤隆教授から次のような回答をいただきました。ご質問とは直接は関連しませんが、3倍体スイカの作成に関する質問と回答は、登録番号0352にあります。


 この問題を理解するためには、減数分裂をしらないといけません。そこで、減数分裂は分かっているものとして回答いたします。配偶子(卵や花粉)ができるときに起こる減数分裂は、染色体が倍加した後、続いて2回核分裂をしますので、配偶子は元(体細胞)の半分の染色体を持つことになります。第一減数分裂の中期という次期に、相同染色体(普通の生物には同じ染色体が2本ずつある:一方は母親(めしべ)からもう一方は父親(おしべ))が対合します(対合したものを2価染色体というが、染色体は倍加しているので4本の染色体分体からできている)。その後、相同染色体はそれぞれ別の方向に分かれて行きます。例えば、スイカは2n=22の染色体を持ちますので、2価染色体が11でき、配偶子はn=11の染色体を持つことになります。ところが、3倍体のスイカ2n=33:4倍体に2倍体を交配して作る)は相同染色体を3本持つことになり、それらが第一減数分裂の中期に対合した3価染色体を11形成します。この3という奇数が問題で、分かれるときに2:1に分かれますので、配偶子に入る染色体数は、n=11~22のいろいろな数が入ります。生物の遺伝子はきわめて精密にバランスが取れているので、遺伝子が座乗している染色体の数の過不足は致命的になります。スイカの場合は、11の染色体が基本のセット(これをゲノムという)で、これが、そっくり2,3,4倍となればバランスが取れていて生存できるのですが、それ以外はちゃんと発育できません。ですから、3倍体の配偶子で正常なものはn=11とn=22だけで(1/2の11乗ずつ)で、それ以外発育途中で死んでしまいます。花粉も不稔になってしまいます。3倍体はそのままでは不稔で、われわれが食べているバナナは3倍体で種がありませんし、彼岸花も3倍体で、種ができません。では、どうして3倍体のスイカはできるのでしょうか。3倍体のスイカの種を買うと、普通の2倍体の種が入っています。この2倍体の正常な花粉を3倍体のめしべに受粉することによって、後に種子になる胚珠の周りの子房という組織が発達してスイカの果実になりますが、正常な種子は発達しません。理論的には、スイカ一つ当り1,2個の普通の黒い種ができますが、ほとんどは「しいな」とういう白っぽい種の痕跡になってしまいます。3倍体の種無しスイカの研究は、京都大学農学部実験遺伝学研究室(現、農学研究科植物遺伝学研究室)の木原均博士が、第二次世界大戦の前に研究を完成させています。その経緯は、同博士の著書「小麦の合成 木原均随想集」(講談社)に記されています。ちなみに、動物では3倍体を初めとして倍数体は基本的には存在しませんが、魚類では人為的に作成できるようになっています。3倍体は不妊になるのでいつまでも成熟せず、鮎のような年魚も1年で産卵して死なず、発達続けて大型化するそうです。

 遠藤 隆(京都大学)
JSPP広報委員
 河内孝之
回答日:2006-02-20
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