一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ゴムの木の葉挿し

質問者:   会社員   SSSSS
登録番号5182   登録日:2021-08-04
以前にゴムの木の葉挿しを試みたところ、葉柄から根が出てきたものの、芽が出ることなく枯れてしまいました。
 葉挿しは切断面にカルス誘導が起き、芽や根が発生するようですが、根しか出ないということもあるのでしょうか。
 芽を出すには何か工夫が必要だったのでしょうか。
SSSSS様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。植物は動物と違って再生能力が高く、一般に植物体のどの器官の部分もその一部から完全な個体を新しく形成することができます。植物の細胞は全能性です。いったん分化した動物の細胞は受精卵のような全能な機能を失いますが、植物は分化したどんな細胞も条件さえ揃えば受精卵細胞のように別の細胞へと分化する事ができます。また、植物は生殖活動がなくても繁殖が可能です。このような繁殖法を栄養繁殖といいます。挿し木、葉挿し、芽挿しなどは人為的な栄養繁殖の方法です。しかしこれらの栄養繁殖の方法がすべて全能性によるものとは限りません。
挿し木や芽挿しではすでに形成されている芽の成長を促してやる方法です。芽は植物体の茎(主軸や枝)の先端(茎頂)では生長を続けますが、茎と葉柄基部との間に形成される腋芽(側芽)は普通形成されてもすぐ成長を始めることはなく休眠状態にあります。特に茎頂に近いほど休眠は強いです。これは頂芽優勢と言い、植物ホルモンが関係しています(「みんなのひろば」のQ&Aコーナーで「頂芽優勢」を検索してください。)。これらの腋芽は、頂芽を切除すると成長を開始できます。ご質問のゴムの木は普通挿し木で行われます。この場合は腋芽のある葉付きの茎の切片を使い、その芽を成長させてやるのです。芽は形成されても他の組織の中に埋もれてしまうことがあります。これは潜伏芽と言いますが、樹木の幹などで思わぬところから芽が出るときは潜伏芽です。挿し木などでも潜伏芽が発芽することもあり得ます。(休眠芽、潜伏芽については上記同様に検索して下さい)。
他方根の方は茎の切り口からヒゲ根のようなものができてきます。この場合形成される根は既存の根の原基が発達するものではなく、茎の表皮細胞から新しく分化してくるもので、全能性に基づくものです。このように形成される根を不定根といいます。不定根は植物ホルモンのオーキシンによって誘導されます。挿し木など栄養繁殖させる時、不定根の形成を促すための薬品が市販されていますが、これらは合成オーキシンかその類似化合物を使っています。不定根は一般に形成されやすく、草本など地上部を切り取って茎の切り口を水につけておくと、切り口から不定根ができて来ることが多いです。おそらく茎頂や葉で合成され、下方へ輸送されるオーキシンの濃度が切り口付近で高くなり不定根の形成が誘導されるのでしょう。
葉挿しの場合は、コダカラベンケイソウのような葉縁に幼芽が作られる場合は別ですが、芽が形成されるとすれば、ふつうそれは新しく葉の細胞から誘導されたもので全能性に基づくものです。このような芽を不定芽と言います。葉挿しが良く行われるのはサボテンなどの多肉植物です。一般の植物は特に木本では不定根を誘導できても不定芽を形成させる事はできないようです。例外があるかどうかは調べていません。多肉植物以外で葉挿しが行われている植物を調べてみると、ベゴニア、セントポーリア、サンセベリア、バジル、ペペロミア、ホヤ、エピスキアなどがありました。葉挿しの仕方も色々あって、セントポーリア、エピスキア、ホヤ、ペペロニア、などの場合は葉柄を培地に挿し、葉柄の基部(切り口)から不定根と一緒に不定芽も分化します。サンセベリアで葉身を使う場合はいくつかの切片にして中肋(中央の太い葉脈)が培地に埋まる様にすると、そこから不定芽が分化する。セントポーリアも同様処理できる様です。また、ベゴニアの葉の様に葉脈に切れ込みを入れるという方法もあります。
前述した様に、全能性を持つ植物細胞は植物体のどの部分からの分化した細胞一つからも一個の植物体をつくることが可能です。例えば、葉の柵状組織の細胞を一個分離し、適切な培地で培養すると細胞分裂が起きて不定形の細胞の塊りができます。これをカルスと言います。カルスをさらに別の培地に移して、不定根を分化させ、次いでまた別の培地に移すと不定芽が分化します。この様にして一つの完全な個体が形成されます。一般にオーキシンの濃度が高いと不定根が、オーキシンの農度が低くてサイトカイニンという別のホルモンの農度が高いと不定芽が分化します。つまり、オーキシンとサイトカイニンの濃度比がどちらの器官を分化させるかを決めています。勿論、植物の種類によってその割合は異なりますし、加えて特別な因子、条件が必要とされる事もあります(「組織培養」で検索してみてくださいください。)。樹木にてんぐ巣病という病気があって、異常に枝が密生します。これは病気に罹った組織でサイトカイニンの合成が盛んになり、その結果多数の芽が分化することによるものです。組織培養では勿論細胞からではなく、組織や器官から直接カルスを誘導する事もできます。こちらの方が容易でしょう。
不定芽の分化が容易な植物の器官はおそらくホルモンなど分化のための内的条件が整っているのでしょう。ゴムの木はそうではないという事です。もしかすると、ゴムの木の葉の中肋や葉脈に切れ込みを入れたり、あるいはそこにサイトカイニンの軟膏を作って塗り込んで見るとなにか起きるかもしれませんね。勿論ゴムの木に限らずどのような植物の葉でも組織培養の手順を踏めば、不定芽は誘導されるはずです。ムクゲ、クワ、イチジク、イチゴ、コマクサ、他多数の葉の組織培養の例が報告されています。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-21
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