一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イシクラゲの成長について

質問者:   一般   ほんまめ
登録番号5203   登録日:2021-08-17
現在、息子の理科の自由研究で、イシクラゲについて一緒に調べています。昨年までの研究で、光合成をしていることや細胞の状態、どのように成長していくかなどがわかりました。
今年は、撃退法や気温での変化などについて、観察をしています。

そこで、質問なのですが、乾燥した状態、冷凍状態では、細胞は、どのような状態になり、成長がストップするのでしょうか。
息子は、乾燥しているときは、濡れているときと細胞の大きさは一緒だけど、凍らせたものは、細胞が小さくなっていると言うのですが、私にはその変化がよくわかりません。すみませんが、詳しく教えていただけると助かります。
ほんまめ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご一緒にイシクラゲを調べておられる息子さんは光合成や細胞のことなど理解なさっておられるようなので、きっと高学年の生徒さんでしょうね。観察しておられるイシクラゲはキノコ類のイシクラゲではなく、ご存知かと思いますが原核生物でシアノバクテリアと呼ばれる細菌の一種です。昔は藍藻として藻類に分類されていました。既に観察なさっているように、イシクラゲはネンジュモ属に属するシアノバクテリアで、ネンジュモと同じように小さな球形の細胞が数珠のようにひも状に繋がって成長して群体(みんなのひろばQ&Aコーナー 登録番号1788, 4753)を形成します。一つ一つがバクテリアとして独立した個体です。その大きさは1細胞の直径が3〜5μm(1μmは1/1000mm)で、群体の長さは0.5mm位になります。つまり、500個体以上のバクテリアが連結しています。イシクラゲは窒素固定をしますが、これは異型細胞と呼ばれる通常の細胞より一回りサイズが大きい細胞で行われ、群体の紐の所々に見られます。イシクラゲは地表では寒天のシートのように広がっていますが、これはその中にたくさんの紐状のイシクラゲが絡み合い多糖質の物質で覆われているからです、言ってみればゲル状の物質の中に太さ5μm、長さが0.5mm位の紐切れが絡まって埋没しているようなものです。
イシクラゲの成長は細胞としては細胞分裂で、そしてその結果として群体の長さが延びていく事になります。因みに紐状に繋がっている細胞はどれでも分裂します。従ってイシクラゲの成長は細胞分裂で数を増やす事です。既にお調べになったと思いますが、イシクラゲは乾燥にも、低温にも強く、100年近く乾燥状態にあったものでも生きているようです。
乾燥状態では代謝活動も停止した休眠状態で、それを可能にしてるのは細胞を取り巻くゲル状物質に沢山含まれるトレハロース(糖の一種)が関係しているのではないかとも言われています。冷凍した温度はどのくらいか知りませんが、バクテリアは氷点下でも生き続けます。
さて、ご質問の「細胞の大きさ」というのはどこを指しておられるのでしょうか。群体を形成している一つ一つの細胞(個体)のサイズを計測されたのでしょうか。当然顕微鏡下での観察でしょうが。細胞の大きさは全てが同一ではなく前述のように幅があります。なお、異型細胞が沢山ある紐が目に止まれば細胞が大きくてなったように見えるかもしれません。細胞の観察は乾燥状態のまま、あるいは冷凍状態のままで行ったのでしょうか。乾燥しているときは色のついた乾燥した寒天シートの中に埋まっている微細なものをそのまま観察するのですから大変だと思います。もしも本当に3つの条件で細胞のサイズに違いが生じるのだとすれば、的確な方法で観察する必要があります。まず、サンプルは同じ場所の同一のイシクラゲの群落から行い、一部を乾燥、冷凍、そのまま(湿った)とそれぞれに処理します。観察は紐状の群体をそれぞれ数組(多いほうが良い)ランダムに選び、紐の中の細胞(異型細胞は除く)のサイズを顕微鏡下で測定します。マイクロメーターを使うか、写真に撮り(同一の倍率で)、プリントしてサイズを測ってもいいでしょう。得られたデータから平均値を出し、できたら統計処理をして有意な差があるかどうかをチェックしてみて下さい。
いただいたご質問の中の説明だけでは以上のようなことしか申し上げられません。観察を続けてみて下さい。なお、イシクラゲは原核生物の例として高校の生物実験の材料によく使われていますので、WEB上に沢山紹介されています。また、本コーナーでも関連質問(登録番号4813)がありますので今後の観察の参考にして下さい。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-09-02