一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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摘心の影響

質問者:   自営業   ミント
登録番号5208   登録日:2021-08-22
トマトの栽培などで、栄養成長より生殖成長を強めるために摘心をすることがあるようなのですが、損傷部分を回復するために体を作る植物ホルモンが活性化して逆に栄養成長が盛んになるのでは?と疑問に思いました。

損傷した後に植物はどのような行動をするのか教えて頂ければと思い、投稿致しました。
ミントさん

みんなのひろば 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問には2つの内容が含まれています。1つは組織に損傷を与えたときの損傷部周辺に起こる応答、2つ目は、どこかに損傷を与えた場合に、その個体全体の成長にどんな応答が起こるか、と言うことです。また、損傷も物理的な傷を受ける傷害、病原微生物や食害小動物などによる損傷(病害、食害)があります。
ご質問では、トマトなど作物などの栽培管理の1つとしての摘心(摘芯)、芽かきが挙げられていますので、これを出発点として考えます。摘芯も芽かきも器官を切断するため、重大な傷害が与えられたことになります。傷害部の局所的な応答としては癒傷作業が開始されます。露出された傷害組織からの微生物の侵入を防ぐために傷害部周辺の健全細胞が細胞分裂を開始し、通常はクチクラなどを形成して物理的防御壁をつくります。枝を切り落とした後の母体側の切り口の樹皮周辺が膨大している状態をご覧になったことがあると思います。また、接ぎ木は、台木、挿し穂ともに傷害を与え、傷害面を接着させると組織的に連結することを利用したものです。この場合にも傷害面周辺で細胞分裂が起きます。カルスという言葉をご存じと思いますがその意味は「癒傷細胞」といったものです。挿し木は、切り枝の茎に不定根が発生する現象(通常癒傷とは言いません)を利用しています。物理的傷害応答は何れも、個体が生存するための応答反応で植物ホルモンが関与する局所的な生理現象です。一方、病害、虫害という損傷を受けた場合には、全身的に病害が拡大することを防ぐ作業が発動されます。この場合には、病害部周辺で抗菌性物質(ファイトアレキシンと呼んでいます)を合成しはじめ、さらなる病原菌の侵入を防ぎます。全身的な応答反応ではありません。これとは別に、損傷部からサリチル酸、ジャスモン酸と言ったホルモン的物質の合成を起こす信号を発して全身的損傷を防ぐ機構が発動される仕組みもあります。
「体を作る植物ホルモンが活性化して逆に栄養成長が盛んになるのでは」と言う例は、頂芽優勢と言われる現象です。頂芽を除去する(摘芯ですが)と下位節の腋芽が成長を開始しますので、頂芽の摘芯が個体の栄養成長を促進するものですが、個体としての生き残り作戦の1つです。
「摘芯、かき芽」は栽培管理の手段として使われる用語で、作物の生産量、品質や草型、樹形などを向上(人が欲する形状に)する手法で、その方法には摘芯、かき芽をする時期や芽の位置(頂芽、腋芽の2種類があります)についての多様な組み合わせがあります。摘芯、かき芽をした後は上に述べた局所的修復反応が起きます。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-09-15
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