一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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若芽・新芽が美味しいわけ

質問者:   大学院生   りんりん
登録番号5214   登録日:2021-08-27
いつもご丁寧に回答をしていただきありがとうございます。とても勉強になります。

今回は、植物の新芽について伺いたく存じます。

ワラビ、ゼンマイ、ふきのとう、タラの芽などの山菜をはじめ、新芽が柔らかく美味しい植物が数多くありますが、これについて疑問に思いました。
私が植物であったなら、若い芽はこれからの栄養確保に重要なので、思い切り苦くするか硬くして食べられにくくしたいと思うのですが、それに反して多くの新芽はなぜ柔らかく美味しいのでしょうか。

私なりに考えられる理由としては、①なんらかの理由で硬くすることも苦くすることもできない ②被食を想定して、若い芽をおとりに今ある丈夫な葉を維持する
といったことが考えられますが、実際のところ、どのように考えられているかご教示いただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。
りんりん 様

この質問コーナーに関心をお持ち下さりありがとうございます。

若芽・若葉の動物による被食に関連して春に私が目撃したことを書かせていただくと、コナラの若葉が蛾の幼虫の大群によって音を立てて食べつくされて行っていたこと、モクレンの花芽がツグミ(と思われる小鳥)によってあっと言う間に食べつくされたこと、タケの新芽(筍)がイノシシによって食い荒らされたことがあります。これらの例では、植物の若い組織を食べることが動物にとっては食物(エネルギー)の摂取となっているものと見られます。一方、私たちがふきのとうや筍などを美味しく食べるのは匂いや食感を求めての嗜好的な行為であるように思われます。

摂取の意味におけるこのような違いがあるにしても、若くて柔らかい芽や葉が総じて動物には好まれるようです。若芽が柔らかい理由は組織を構成する細胞が急激な分裂・伸長の段階にあるために細胞壁の成分であるセルロースの蓄積が少ないことにあります。もちろん、動物が何時も柔らかい組織を求めるわけではなく、十分に成長して硬くなり栄養豊かな種子などの部分が好まれる場合も多いのはご存知の通りです。

上述のように発生上の理由から生長途上の若い植物組織は必然的に柔らかくならざるを得ないために動物の餌食になることが懸念されますが、被食者である植物の側には食べられることを避けるためのいろいろな仕組みが備わっております。若くて柔らかい発生段階の葉の表面には通常毛が密に生えているのはその仕組みの一例かと思います。また、ジャガイモのソラニンの例にみられるように、植物の若い芽が動物にとって毒となる成分を含んでいる場合も知られています。新芽が苦いこともしばしば認められることのようです。

ところで、生物間の相互関係の特徴の一つは多様性でありますので、根本的には矛盾することですが、お考えのように「発散する匂い成分などによって動物を惹きつけ、若芽の部分を“おとり”として食べさせることにより植物体の残りの部分を安全に維持する局面がある」可能性を否定することはできないと思います。しかし、私が調べた範囲ではそのような例を見付けることはできませんでした。

以上、提起された疑問に十分に応えきれていないかも知れませんが、回答文とさせていただきます。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-09-18
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