一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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朝顔の葉と発芽時期ついて

質問者:   中学生   ドリーヘップ
登録番号5218   登録日:2021-09-03
朝顔についての質問です。

小1の頃に植えた朝顔があり、それを毎年受け継ぎ、育てて(こぼれ種が発芽するのを待っているだけですが)います。今年で丁度七年目になります。

今年の8月ごろ、いくつか発芽し始め、中旬ごろには本葉が出始めましたのですが、一株だけ、葉の形がおかしいものがあります。

毎年受け継いで育てている朝顔は、一枚の葉が三つに分かれていたのですが、その異常株では、一枚の葉が三つから五つに分かれています。
毎年の大きく広い葉ではなく、先の尖った小判のような形のものが三~五つあるといった感じです。
花の色は変わらず、発芽時期・本葉が出る時期も他の株と同じです。
異常株の育ちが若干早いようにも感じますが、それほど大きな差はありません。

別の品種のものが、とも思いましたが、発芽時期がかなり遅めであるという共通点がある以上、別の種が舞い込んだとも考えにくいです。

何世代か受け継いで、あるとき葉の形を変えることはあるのでしょうか?

また、もう一つ疑問があるのですが、この朝顔を受け継いでいくと、だんだんと発芽時期が遅くなり、6月上旬だったものが8月上旬に発芽するようになりましたが、受け継ぐにつれて発芽が遅くなるメカニズムを教えていただけたらありがたいです。
ドリーヘップさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
追加資料として写真をお送り頂き、それに基づいて回答を長年アサガオの成長、変異、遺伝などを研究しておられる星野 敦(基礎生物学研究所)先生にお願いし、次の様な詳しいご説明を頂きました。 

【星野先生のお答え】
 ご質問ありがとうございます。
 まず、「何世代か受け継いで、あるとき葉の形を変えることはあるのでしょうか?」という質問からです。答えは「あります」で、今回のケースは異常なことではありません。アサガオの葉は、中央裂片に1対の側方裂片がついた三尖葉が基本的なかたちです。しかし、側方裂片が2対で合計5つの裂片ができる葉、一方の側方裂片だけ2つになり合計4つの裂片ができる葉もしばしば観察されます。送っていただいた異常株の写真を拝見すると、多くは三尖葉で、一部の葉の裂片が4〜5つのようです。もし、すべての葉の裂片が4〜5つであれば異常で後述する変異による可能性がありますが、この株はそうではないようです。また、正常株ももっと大きく育てて多数の葉を観察すると、4〜5つの裂片からなる葉が見つかるでしょう。
 次に「毎年の大きく広い葉ではなく先の尖った小判のような形」についてですが、これはハダニの害だと推測されます。写真を拝見すると、表面が凸凹して縁が下側にカールしている葉があるようです。これは典型的なハダニの害よる症状です。葉の裏側を観察してみてください。1 mmにも満たないクモのような小さな生き物がいるはずです。それがハダニです。息を吹きかけると動き出すので見つけやすいです。ハダニは農薬で抑制できますが根絶することは難しいです。そのままにしておいても採種できそうですから問題はないでしょう。
 一方、アサガオは変異をおこしやすい系統が日本国内で栽培されています。側方裂片が2対になる変異も過去に出現していて、現在も栽培されている系統に受け継がれています。変異をおこしやすいと言っても、表現型が変化するような変異は1000株に1つ出てくるかどうかの低頻度です。そのため、一般の方が変異したアサガオを見つけることは難しいです。しかし、最近一般の方が花の色が薄くなる変異を見つけた例もあります。もし気になる表現型の変化を観察されたら、その株の種子を翌年に複数まいて育ててみてください。注目した表現型の変化が、どの株にも観察されるようでしたら変異が原因である可能性があります。
 最後に、「受け継ぐにつれて発芽が遅くなる」ことについては、そのような現象自体が知られておらず、メカニズムも調べられていないと思います。まずは、発芽の遅れが繰り返し観察される現象なのか、それとも偶然だったのかどうかを調べる必要がありそうです。アサガオの種子は採取した直後から発芽する能力があります。また、発芽に必要な水分を吸いにくい性質があり、ただ蒔くだけでは発芽しなかったり、発芽に時間を要したりします。そのため種皮に穴を開けるか薬品処理することで、種子が吸水しやすい状態にしてからまくことが行われています。自然にこぼれた種子については発芽の時期が揃わず、春から秋にかけて散発的に発芽します。今回「受け継ぐにつれて発芽が遅くなる」ことが観察できたのは、何か特別な条件が揃ったためかも知れません。
星野 敦(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2021-09-24