一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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桃の葉からアミグダリンを抽出する方法

質問者:   高校生   るんちゃん
登録番号5227   登録日:2021-09-13
私は、高校の研究で桃の葉の抗菌作用について調べようと思っています。桃の葉には抗菌作用のあるアミグダリンという成分が含まれていることを知りました。しかし、そのアミグダリンを桃の葉からどうやって抽出するかという問題で止まってしまっています。インターネットでいろんな角度から調べてみましたが、なかなか具体的な抽出方法が見つかりませんでした。また、それが本当にアミグダリンなのかを証明する必要があります。何かよい抽出方法はありますか。
るんちゃん君

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
研究の意図はモモの葉の抗菌作用について調べる、とのことです。そこで調べているうちにモモの葉に抗菌作用のあるアミグダリンが含まれることを知って、これをモモの葉から抽出する方法が判らなくて、このQ&Aに質問を寄せられたようです。
回答に当たってご質問をよく吟味してみると、1)モモの葉の抗菌作用を調べること、2)アミグダリンを抽出すること、の2つがお知りになりたいことのように解釈されますが、「アミグダリンを抽出する」との意味は葉の抗菌作用を確認するために、「葉からアミグダリンを含む抽出液を得る方法」のことかも知れないと思いますので、その理解でお答えします。
つまり、モモの葉の抽出液を調整し、その中に抗菌作用を持つ物質がどれだけあるかを調べることになります。
なお、試料の「抗菌作用」を調べる手段、方法はすでにおわかりだとの前提に立ちます。
「モモの葉の抽出液」の調整方法:可溶性の低分子成分を含む抽出液を得るには、一般にa)有機溶剤(メタノールあるいは80%程度のエタノール)で抽出する、b)熱水で抽出するの2法があります。葉全体が浸される程度の量の有機溶剤あるいは熱水を入れます。これで細胞は死にますから成分の変化は起こりません。抽出は、a)の場合は還流抽出装置を使うと短時間で済みますが、時間はかかりますが静止抽出でもかまいません。b)の場合はそのまましばらく沸騰させます(煮ることと同じ)。
1回目の抽出液を取り、残りの組織を同じようにして2回目、さらに3回目の抽出を行い、抽出液全体を集めます。一般に、抽出操作を3回行うとほぼ定量的に全可溶性物質が抽出されます。大切なことは、使用した葉の重量(生重量)を計っておくことです。抗菌作用を調べるときの基準となるものです。まとめた抽出液は希薄溶液ですから濃縮をする必要があります。この段階では有機溶媒で抽出した方が容易です。濃縮は減圧濃縮といって容器内を減圧しながら溶媒の蒸発を促進します。濃縮後は、通常、濃褐色のシロップ状液が残りますので、これを少量の水あるいはアルコールに溶かし、一定量にします。必要があれば濾紙で濾します。これで、この溶液の一定量と葉の重量との関係がはっきりします。モモ葉の場合この溶液に少量ですがアミグダリンが含まれている筈です。後は、その一定量を用いて抗菌活性を測定すれば、葉に含まれる成分全体の抗菌活性が得られます。
抽出液全体には、アミグダリン以外の抗菌物質があるかも知れませんので調べる必要があります。実は、これはかなり難しいと思います。簡単な手段に薄層クロマトグラフィー(TLC)があります。TLCについては、「薄層クロマトグラフィー」でwebを検索すればたくさんの解説がありますので、事前に調べ、原理などを理解してから使用して下さい。これを使った研究報告がありましたので次を読んで、試みて下さい。モモの花を用いていますが、展開溶媒などの記載があります。この論文は日本語です。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030902177.pdf

葉の抽出液にアミグダリンがあれば見いだせますし、プルナシンもあるかも知れません。同定は純品を並べて展開し、展開溶媒との移動距離の比(Rf値)が同じであれば、ほぼ同じ物質と考えて先へ進みます。アミグダリン、プルナシンの純品は学校を通して購入できます。これら既知物質以外の抗菌性物質があるかどうかを調べるにはTLCは便利です。抽出液を展開したTLCから、泳動距離を均等に分割してシリカゲルの層をかき取り、少量の70%程度のエタノールで抽出して、抗菌活性を測定します。アミグダリン、プルナシン以外のところに活性が見出されたら、それが何かを同定する段階に入ります。
全体の研究は指導担当の先生と相談しながら行うことや場合によっては大学の研究者の助力を求めることが必要となるでしょう。
1回や2回の実験で成功することは稀です。また、最初は少ない材料(葉)からはじめ、必要があれば規模を大きくしていく方が無駄なく済みます。繰り返し同じ結果が出るまで頑張ってください。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-10-20