質問者:
大学生
TI
登録番号5232
登録日:2021-09-20
<疑問>みんなのひろば
道管と師管の構造が異なる理由
道管、仮道管は木化した細胞から構成されるのに対し師管は木化してない細胞から構成される理由は何なのか?
<補足>
この違いが生じるのはそれぞれの管を通る物質の使い道が違うからだと推測しました。
私は、道管が木化しているのは上昇する水が葉以外の器官に行かないようにするため。一方、師管を通る栄養分は形成層や根など様々な場所で使われるため、木化しないことで栄養の供給を可能にしていると思いました。
ただ水や栄養分の供給先が上記の他にもあったり、そもそも木化の意義をはき違えていたら、この仮説は間違ってるのではと思い、詳しい解説が聞きたく質問しました。回答お願いします。
TI様
質問コーナーようこそへ。歓迎致します。回答が遅くなりました。ご質問については奈良先端科学技術大学院大学大学院バイオサイエンス領域教授の出村拓先生に対応をお願いしました。
以下がその回答です。
【出村先生の回答】
まず、道管と仮道管の基本的な構造を説明します。道管・仮道管は形成の過程で元々持っていた薄い細胞壁(一次細胞壁)の内側にらせん状や網目状の二次細胞壁と呼ばれる厚い細胞壁を作ります。この二次細胞壁にはリグニンと呼ばれる疎水性の化合物が沈着して、堅くなります。そして、このリグニンが二次細胞壁に沈着して堅くなることを木化と呼びます。道管と仮道管はさらに、自ら二次細胞壁の内部(細胞質やオルガネラ)を分解して、空洞となります。このことを自己細胞死と呼びます。さらに、上下あるいは側面の道管や仮道管との水の輸送経路を作るために、二次細胞壁が作られなかった部分の一部を分解することで連続した管/パイプのようになります。かたや、師管は上下の細胞の間に師孔と呼ばれる小さい穴を作るとともに、細胞内の核や液胞などの一部の細胞内小器官を分解し、細胞膜に固定された小胞体やミトコンドリア、色素体だけを残した細胞となり、核を持たないものの生きたままで上下に連続した細胞がつながった構造の管/パイプになります。ちなみに、師管が生き続けることができるのは、それぞれの師管に隣接する伴細胞と呼ばれる細胞が、師管が生きるのに必要な分子やエネルギーを供給してくれているからです。
さて、このような構造の道管・仮道管と師管ですが、ご存じの通り、それぞれを通って運ばれるものが違います。道管・仮道管では、地下部の根から吸収した水やミネラルが地上部の茎や葉、花などに運ばれます。このとき、地下部から地上部へ水を輸送することができるのは、葉で起こる蒸散によって道管・仮道管に強い陰圧が生じるからです。ストローで水やジュースを吸い上げることをイメージしてみてください。もし、ふにゃふにゃの柔らかいストローだったら、水分を吸い上げることはできませんね。すなわち、木化するのは水分を吸い上げるための陰圧に耐えるためなのです。実際に、遺伝子の変異などで道管の二次細胞壁の木化が不十分になって、道管の強度が下がった植物では道管が潰れてしまい、水を吸い上げることができずに植物体が矮化(小さくなること)が起こったり、死んでしまうことが数多く報告されています。
一方、師管は成熟した葉で光合成によって作られた糖の輸送に使われます。この輸送を考えてみましょう。糖が成熟した葉から茎に達した後、成長中の植物なら、主に若い葉がある上方向に運ばれます。一方で、成長が終わった後は、ジャガイモやサツマイモなどのように地下部にエネルギーを蓄える場合は下方向に運ぶことになります。このような成長段階に応じた輸送が可能なのは、師管が生きているためです。最近の研究では、師管は分子の種類によって輸送方向を制御していることも分かってきています。そして、質問者さんの補足の通り、師管はそれらの分子を色々なところに供給しますが、師管自身(あるいは伴細胞)がどこでどの細胞に提供するかを制御しています。これは死んだ管構造である道管・仮道管にはできないことです。
道管・仮道管と師管の分化(形成)についての最新の遺伝子レベルの研究動向については、以下の解説が参考になると思います。
「植物の通道細胞進化を転写因子から読み解く道管要素と師部要素の分化を制御するマスター転写因子の研究から」化学と生物 56: 353-363 (2018)
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=981
質問コーナーようこそへ。歓迎致します。回答が遅くなりました。ご質問については奈良先端科学技術大学院大学大学院バイオサイエンス領域教授の出村拓先生に対応をお願いしました。
以下がその回答です。
【出村先生の回答】
まず、道管と仮道管の基本的な構造を説明します。道管・仮道管は形成の過程で元々持っていた薄い細胞壁(一次細胞壁)の内側にらせん状や網目状の二次細胞壁と呼ばれる厚い細胞壁を作ります。この二次細胞壁にはリグニンと呼ばれる疎水性の化合物が沈着して、堅くなります。そして、このリグニンが二次細胞壁に沈着して堅くなることを木化と呼びます。道管と仮道管はさらに、自ら二次細胞壁の内部(細胞質やオルガネラ)を分解して、空洞となります。このことを自己細胞死と呼びます。さらに、上下あるいは側面の道管や仮道管との水の輸送経路を作るために、二次細胞壁が作られなかった部分の一部を分解することで連続した管/パイプのようになります。かたや、師管は上下の細胞の間に師孔と呼ばれる小さい穴を作るとともに、細胞内の核や液胞などの一部の細胞内小器官を分解し、細胞膜に固定された小胞体やミトコンドリア、色素体だけを残した細胞となり、核を持たないものの生きたままで上下に連続した細胞がつながった構造の管/パイプになります。ちなみに、師管が生き続けることができるのは、それぞれの師管に隣接する伴細胞と呼ばれる細胞が、師管が生きるのに必要な分子やエネルギーを供給してくれているからです。
さて、このような構造の道管・仮道管と師管ですが、ご存じの通り、それぞれを通って運ばれるものが違います。道管・仮道管では、地下部の根から吸収した水やミネラルが地上部の茎や葉、花などに運ばれます。このとき、地下部から地上部へ水を輸送することができるのは、葉で起こる蒸散によって道管・仮道管に強い陰圧が生じるからです。ストローで水やジュースを吸い上げることをイメージしてみてください。もし、ふにゃふにゃの柔らかいストローだったら、水分を吸い上げることはできませんね。すなわち、木化するのは水分を吸い上げるための陰圧に耐えるためなのです。実際に、遺伝子の変異などで道管の二次細胞壁の木化が不十分になって、道管の強度が下がった植物では道管が潰れてしまい、水を吸い上げることができずに植物体が矮化(小さくなること)が起こったり、死んでしまうことが数多く報告されています。
一方、師管は成熟した葉で光合成によって作られた糖の輸送に使われます。この輸送を考えてみましょう。糖が成熟した葉から茎に達した後、成長中の植物なら、主に若い葉がある上方向に運ばれます。一方で、成長が終わった後は、ジャガイモやサツマイモなどのように地下部にエネルギーを蓄える場合は下方向に運ぶことになります。このような成長段階に応じた輸送が可能なのは、師管が生きているためです。最近の研究では、師管は分子の種類によって輸送方向を制御していることも分かってきています。そして、質問者さんの補足の通り、師管はそれらの分子を色々なところに供給しますが、師管自身(あるいは伴細胞)がどこでどの細胞に提供するかを制御しています。これは死んだ管構造である道管・仮道管にはできないことです。
道管・仮道管と師管の分化(形成)についての最新の遺伝子レベルの研究動向については、以下の解説が参考になると思います。
「植物の通道細胞進化を転写因子から読み解く道管要素と師部要素の分化を制御するマスター転写因子の研究から」化学と生物 56: 353-363 (2018)
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=981
出村 拓(奈良先端科学技術大学院大学大学院バイオサイエンス領域)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2021-11-24
勝見 允行
回答日:2021-11-24