一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成色素が無い時は葉緑体も無いのですか?

質問者:   中学生   とき
登録番号5234   登録日:2021-09-22
夏休みの自由研究で、アセトンと石油エーテルを使って光合成色素の抽出をしました。
ムラサキゴテンや赤しそは葉の見た目は赤いけれど クロロフィルを持っていました。
僕のうちには アカメという木があるのですが、葉が出たばかりは 赤く、大きくなるにしたがって緑色になります。
木の葉の、赤い時、中間の時、緑色の時とで調べたら、赤い時は、クロロフィルは全くなく、成長と共にクロロフィルの量も増えているようでした。
この場合 赤い時の葉には クロロフィルが無いということは、葉緑体も細胞の中に無いのでしょうか?それとも、葉緑体はあるけれど クロロフィルは作られて無いのでしょうか?それを、調べる実験はできるでしょうか?
クロロフィルが無いということは、光合成していないのでしょうか?
光合成しないとしたら、クロロフィルを持たない赤い葉は植物にとって、どのように都合がいいのでしょうか。
教えてください。
とき 君

この質問コーナーのご利用ありがとうございます。夏休みの自由研究で興味深いテーマに取り組まれたようですね。ご質問には岡山大学の坂本 亘先生から下記のような予備知識の説明を含めた詳しい回答をいただきましたので、参考にしてください。

なお、回答に先立って、実験の方法について何点か確認(質問)させていただきます。➀アセトンと石油エーテルの混合液(どのような比率の混合か分かりませんが)で葉っぱから色素を抽出したとのことですが、このやり方で葉っぱに含まれるクロロフィルはすべて抽出されるのでしょうか?;②抽出液に含まれるクロロフィルの量はどのような方法で見積もられたのでしょうか? たとえば抽出液の緑色の着色でクロロフィルの量を見積もるとした場合、色の具合とクロロフィルの量の間にどのような関係があるのでしょうか?;③クロロフィルの量は一定の植物材料当たり(例えば、水を含んだままでの葉っぱの重量・乾燥した葉っぱの重量・葉っぱの表面積当たりなど・・・)で比較する必要があると思いますが、何を基準にして比較されましたか?

(補足説明)一般には、若芽を作る分裂組織の細胞には原色素体(プロプラスチド)と呼ばれる色素体(坂本先生の回答参照)が存在しており、この色素体が光を受けるとクロロフィルを合成して光合成の機能を備えた葉緑体へと変化します。したがって、アカメ(べニカナメモチかレッドロビンかな?)を用いるこの実験の場合にも、若芽の赤い葉っぱには葉緑体は存在していたが、その発達の程度が低くて色素の含量が少なかったので、使われた実験方法ではクロロフィルが検出できなかった可能性があります。もしそうであったとすれば、測定に用いる葉っぱの量を多くするとか、何らかの方法で測定の感度を上げることでクロロフィルが検出できるようになるかも知れません(なお、抽出液中のクロロフィルは光に非常に不安定ですので、気を付ける必要があります)。これとは別に、葉っぱの切片を作って顕微鏡で葉緑体の有無を確認してみるのも一方法かと思います。

【坂本先生からの回答】
葉緑体について:
葉になる前の細胞は、「プラスチド」という葉緑体になる「もと」を持っています。光合成をするために、クロロフィルを作るようになると、プラスチドは葉緑体になり、光合成をします。このときに、葉緑体には、「チラコイド膜」という折り重なった膜ができて、その中にクロロフィルがタンパク質と一緒に埋め込まれます。その結果、教科書で明反応あるいはチラコイド反応と書かれた反応が起こり、クロロフィルで吸収された光のエネルギーが使われて光合成をします。
このように、すべての植物の細胞は、チラコイド膜がない「プラスチド」という構造は持っていて、光合成をするときは、チラコイド膜を作って葉緑体になります。例えば、ご飯やジャガイモでは、デンプンは「アミロプラスト(デンプン体)」というところにたまっていて、これもプラスチドの一種です。まとめとして、プラスチドは、葉緑体やデンプン体を含む細胞の構造の総称です。ちなみに葉緑体の「もと」だけを指すときは「プロプラスチド」と呼び、「プラスチド」とは区別します。

アカメの若い葉が赤いことについて:
葉が出たばかりの状態では、プロプラスチドがチラコイド膜を発達させて葉緑体になろうとしています。アカメでは、葉緑体の発達が比較的ゆるやかに起こるので、クロロフィルが抽出できない若い葉があるのでしょう。
若い葉が赤いのは、アントシアニンという色素がたまるからです。どうしてこの色素がたまるかについては、この質問コーナーでも多くの回答があるので(登録番号1601, 1653など)、参考にしてください。アントシアニンはプラスチドではない細胞の別のところに蓄積して、紫外線を吸収するなど、サングラス(日よけ)のような役割をすると考えられています。若い葉が成熟して光合成をする途中の段階では、チラコイド膜が完成していないので、クロロフィルで正常に光合成できなくなると、活性酸素という悪役ができてしまい、細胞が危険にさらされる可能性があります。そのために、若い葉では日よけの赤い色素を代わりに作っていると考えられます。葉緑体が完成すると、日よけが必要ないので、クロロフィルだけが蓄積します。植物がなぜアントシアニンを作るのか、よくわかっていないことも多いのですが、植物がストレスを感じているときにたくさん作られるようです。そう考えると、アカメの若い葉は強すぎる光をストレスと感じていて、その結果、アントシアニンを作っているようです。
坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-09-27
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