質問者:
会社員
やまぶらぶら
登録番号5237
登録日:2021-09-25
ナツハゼは温帯に自生する落葉低木なので、秋には落葉します。登録番号みんなのひろば
ナツハゼの紅葉について
4674にもあるように紅葉のロジックは理解しているつもりですが、この樹木は夏にも紅葉します。
その紅葉が落葉時よりも美しいので庭木に好まれます。
秋の紅葉同様に、夏に赤くなののはアントシアニン生成が理由だとは思いますが、温度の高い夏にナツハゼがなぜ紅葉するのか理由が不明です。
やはり過剰な光エネルギーから葉を守る為なのでしょうか?
陽当りの良い山地を好む樹種と聞いているのでそれもまた違うのかなと思ったりします。
なぜ、夏に紅葉するのか、なぜ秋の紅葉より美しい(赤が鮮やか?)くなるのか理由をぜひ知りたいと思います。
よろしくお願いします。
その紅葉が落葉時よりも美しいので庭木に好まれます。
秋の紅葉同様に、夏に赤くなののはアントシアニン生成が理由だとは思いますが、温度の高い夏にナツハゼがなぜ紅葉するのか理由が不明です。
やはり過剰な光エネルギーから葉を守る為なのでしょうか?
陽当りの良い山地を好む樹種と聞いているのでそれもまた違うのかなと思ったりします。
なぜ、夏に紅葉するのか、なぜ秋の紅葉より美しい(赤が鮮やか?)くなるのか理由をぜひ知りたいと思います。
よろしくお願いします。
やまぶらぶら さん
みんなのひろば 植物Q&Aようこそ。質問を歓迎します。
回答は、森林総合研究所樹木分子生物研究室の宮澤真一博士(主任研究員) に回答をお願いしました。
【宮澤先生の回答】
ナツハゼはスノキ属に属し、ブルーベリーや主に北欧に自生するセイヨウスノキなどと近縁です。セイヨウスノキの果実(ビルベリー)は、昔からヨーロッパや北アジアの人々の暮らしに関わっていたためか、ナツハゼに比べて、セイヨウスノキの生理学的な研究はすすんでいるようです。セイヨウスノキもナツハゼと同じく、夏に紅葉します。セイヨウスノキは、明るい環境で生育する個体上部の葉は紅葉し、一方で暗い環境で生育する個体の葉は紅葉しません。セイヨウスノキの葉の色素分析の結果、紅葉した葉は緑色の葉に比べて、アントシアニンの含量が多いことが報告されており、アントシアニンの合成が誘導されることが紅葉の原因と考えられています。ご推察どおり、セイヨウスノキの仲間であるナツハゼについても同様なメカニズムが働いていると推測できます。
それでは、なぜ夏の間にアントシアニンを蓄積するのでしょうか。アントシアニンの役割については主に3つが挙げられています。一つ目は、アントシアニンが緑色を始めとする光をよく吸収し、過剰な光がクロロフィルに吸収されるのを防ぐ役割です。二つ目は、アントシアニン自身が植物にとって有害な活性酸素を消去する役割、三つ目は、昆虫などからの食害を防ぐ役割があるとされています。カシ属のある種では、同じ種であっても、葉にアントシアニンを蓄積する個体と蓄積しない個体が存在します。このような個体を比較することで、夏の葉に蓄積するアントシアニンの役割が調べられてきました。
ちょっと考えると、アントシアニンは良いことづくめで全ての植物の葉が夏に紅葉してもよさそうですが、ご存知のように決してそのようなことはありません。なぜなら、アントシアニンを合成するためには、植物にとってエネルギーが必要になることや、その種の生育環境、これまで辿ってきた進化的背景などが関わっているためです。ナツハゼは、尾根など比較的貧栄養な土地を好むようです。夏の紅葉と何らかの関係があるのかもしれませんね。
(宮澤博士のご回答に補足します)
光合成とアントシアニンの関係については、植物Q&Aのページに入り、「アントシアニンの出る理由」を検索語として過去の回答の「登録番号1903」を見てください。そこには、アントシアニンの働きについて、「アントシアニンが過剰な光の受光を減らすことにより、強光による阻害から植物を守る働きをしている」と書かれています。
更に付け加えると、私はアントシアニンには次のような働きがあると考えています。太陽光には可視光線だけでなく、紫外線も含まれており、ヒトに対する影響から、一般に、UVA(波長320-400nm)、UVB(波長280-320nm)、UVC(波長200-280nm)に分けられます。植物細胞に対しても、UVAやUVBは、細胞に含まれるフラビンなどの色素に吸収されて遊離基を生じ、害作用を及ぼす危険性があります。UVCは核酸などに吸収され、遊離基を生じて突然変異の危険性を高めるので、大気中のオゾン層の保護が国際的な課題となっています。
さて、UVA、UVBなどは細胞内部に到達しやすいので、植物細胞に害を及ぼす可能性が考えられます。アントシアニンは、緑の光をよく吸収するので、ヒトの目には赤い色に見えるが、緑色光が植物に対して特に害作用を及ぼすとは考えられないと思います。アントシアニンの役割としては、UVA、UVBなどを吸収し、これによって、植物が紫外線によって受ける障害を軽減している可能性があると思います。しかも、アントシアニンは細胞内で液胞に局在しているので、葉緑体が未発達あるいは退行期にあっても、細胞に蓄積可能であり、植物細胞全体を有害な紫外線から保護している可能性が考えられます。
みんなのひろば 植物Q&Aようこそ。質問を歓迎します。
回答は、森林総合研究所樹木分子生物研究室の宮澤真一博士(主任研究員) に回答をお願いしました。
【宮澤先生の回答】
ナツハゼはスノキ属に属し、ブルーベリーや主に北欧に自生するセイヨウスノキなどと近縁です。セイヨウスノキの果実(ビルベリー)は、昔からヨーロッパや北アジアの人々の暮らしに関わっていたためか、ナツハゼに比べて、セイヨウスノキの生理学的な研究はすすんでいるようです。セイヨウスノキもナツハゼと同じく、夏に紅葉します。セイヨウスノキは、明るい環境で生育する個体上部の葉は紅葉し、一方で暗い環境で生育する個体の葉は紅葉しません。セイヨウスノキの葉の色素分析の結果、紅葉した葉は緑色の葉に比べて、アントシアニンの含量が多いことが報告されており、アントシアニンの合成が誘導されることが紅葉の原因と考えられています。ご推察どおり、セイヨウスノキの仲間であるナツハゼについても同様なメカニズムが働いていると推測できます。
それでは、なぜ夏の間にアントシアニンを蓄積するのでしょうか。アントシアニンの役割については主に3つが挙げられています。一つ目は、アントシアニンが緑色を始めとする光をよく吸収し、過剰な光がクロロフィルに吸収されるのを防ぐ役割です。二つ目は、アントシアニン自身が植物にとって有害な活性酸素を消去する役割、三つ目は、昆虫などからの食害を防ぐ役割があるとされています。カシ属のある種では、同じ種であっても、葉にアントシアニンを蓄積する個体と蓄積しない個体が存在します。このような個体を比較することで、夏の葉に蓄積するアントシアニンの役割が調べられてきました。
ちょっと考えると、アントシアニンは良いことづくめで全ての植物の葉が夏に紅葉してもよさそうですが、ご存知のように決してそのようなことはありません。なぜなら、アントシアニンを合成するためには、植物にとってエネルギーが必要になることや、その種の生育環境、これまで辿ってきた進化的背景などが関わっているためです。ナツハゼは、尾根など比較的貧栄養な土地を好むようです。夏の紅葉と何らかの関係があるのかもしれませんね。
(宮澤博士のご回答に補足します)
光合成とアントシアニンの関係については、植物Q&Aのページに入り、「アントシアニンの出る理由」を検索語として過去の回答の「登録番号1903」を見てください。そこには、アントシアニンの働きについて、「アントシアニンが過剰な光の受光を減らすことにより、強光による阻害から植物を守る働きをしている」と書かれています。
更に付け加えると、私はアントシアニンには次のような働きがあると考えています。太陽光には可視光線だけでなく、紫外線も含まれており、ヒトに対する影響から、一般に、UVA(波長320-400nm)、UVB(波長280-320nm)、UVC(波長200-280nm)に分けられます。植物細胞に対しても、UVAやUVBは、細胞に含まれるフラビンなどの色素に吸収されて遊離基を生じ、害作用を及ぼす危険性があります。UVCは核酸などに吸収され、遊離基を生じて突然変異の危険性を高めるので、大気中のオゾン層の保護が国際的な課題となっています。
さて、UVA、UVBなどは細胞内部に到達しやすいので、植物細胞に害を及ぼす可能性が考えられます。アントシアニンは、緑の光をよく吸収するので、ヒトの目には赤い色に見えるが、緑色光が植物に対して特に害作用を及ぼすとは考えられないと思います。アントシアニンの役割としては、UVA、UVBなどを吸収し、これによって、植物が紫外線によって受ける障害を軽減している可能性があると思います。しかも、アントシアニンは細胞内で液胞に局在しているので、葉緑体が未発達あるいは退行期にあっても、細胞に蓄積可能であり、植物細胞全体を有害な紫外線から保護している可能性が考えられます。
宮澤 真一(森林総合研究所樹木分子生物研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2021-10-26
櫻井 英博
回答日:2021-10-26