一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物細胞 (藻類)の死後

質問者:   大学院生   けんぞう
登録番号5255   登録日:2021-10-20
はじめまして。私は化学系の学科に属している大学院生です。

研究としては過酸化水素など様々な化学的な活性種を含む溶液を用いて藻類を殺菌することを目的としてしています。

生物学分野の専攻ではないこともあり、いつもみんなの広場を参考に研究を進めさせていただいております。


そこで、藻類の細胞の死後について質問がございます。

私たちの研究では過酸化水素など様々な活性種が植物の細胞質内に入り込み、核や細胞質に攻撃を行うことで細胞を死に追いやると考えています。
実際に、溶液を藻類が発生しているサンプルに添加すると緑色だった液体が無色透明になることが確認できています。

また、顕微鏡と血球計算盤を用いて液体の観察を行うと添加前は多量の緑色の植物細胞が発生しているのですが、添加後はわずかに緑色の細胞が残るだけで元々多量にあったはずの細胞の死骸?なども見当たりません。

ここで質問です。死んだ植物細胞はどこに行ってしまったのでしょうか。

私自身は死んだ細胞は細胞質が細胞壁に流出し、小さくしぼんでしまったために顕微鏡でも確認できなくなったと考えています。


どうぞご回答のほどよろしくお願い致します。

けんぞう様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

 材料や培養方法についての説明がありませんが、単細胞藻類を、振盪か攪拌によって液体培養されているという前程で、死細胞が見えない理由について考えてみました。化学系の学部の大学院生ということですので、セルロースなど細胞壁を構成する多糖類は安定な化合物ということは理解されておられることと思います。細胞壁がそう簡単には分解して無くなるということは考えにくいですね。
 私は見えない理由として2つの可能性を考えました。その一つは、死細胞が凝集して沈殿したか、容器の壁あるいは撹拌機をもちいている場合は撹拌機に付着した場合です。このような場合、培養液中の死細胞の数は顕著に減少すると思われます。
 もう一つは光学的理由です。細胞が死に至る過程では、考えておられるように、オルガネラなどの細胞内構造の分解や、物質の分解が進みます。また、細胞内の物質の流失がおこると考えられます。その結果、死細胞では、クロロフィルの分解による緑色の消失や、オルガネラなどの顆粒の消失、あるいは減少がおこります。色素による吸収がなくなり、顆粒による乱反射が減少しますので、光源の光は死細胞をそのままで通り易くなりますので、死細胞の形が見えにくくなることがあるのではないかと考えました。
 死細胞がなくなったのではないことを確かめるには、培養容器内の溶液を(付着しているものを逃さぬように、)注意深く集め、遠心分離、あるいは、ろ過して得られた残差を調べてみたら如何でしょうか?

庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-12-06