一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イチョウの受精について

質問者:   一般   sonoko
登録番号5257   登録日:2021-10-22
イチョウの種銀杏ですが、雌花の時はむきだしの胚珠が二つ並んでついています。そこに花粉がきて受粉するのですが、ふたつの胚珠はとても近い距離なので、片方のみ受粉するのではなく両方が受粉すると考えられます。しかし、銀杏として二つくっついているのは本当にまれで、長い柄に一個しかついていません。どうしてですか。イチョウは、花でも卵でも精子でも一つを淘汰させるのでしょうか。
 よろしくお願いいたします。
sonoko様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。イチョウの雌性胞子嚢穂(通称雌花)の先端は普通二つの胚珠が作られるようです。胚珠柄は上部で二又に分かれてそれぞれの先端に胚珠ができる場合もあります。胚珠は1個の時も10個も形成されることもあり、文献によると樹齢の進んだ樹ほど多胚珠のできる頻度は高いようです。ご質問では二つの胚珠は両方とも種子になるのではなく一つは退化してしまうということですので、それは一般的な事かどうか実際に確かめたかったのですが、季節が過ぎていてできませんでした。そこでいろいろ写真を探してみると2個、3個のも掲載されていました。sonokoさんが観察なさったように複数個の種子ができるのは「本当に稀」なのかどうかは分かりませんが、このことを研究した文献は見つけることができませんでした。
裸子植物も被子植物も胚珠が退化してしまうことはよくあることですが、その原因としては次のような理由が考えられます。
(1)卵細胞が正常にできていなかった。(2)受粉/受精が成功しなかった。(3)受精後の胚形成が進まなかった。

イチョウでは受粉が行われる時、胚珠の珠孔の先端にある受粉液(pollination drpolet) に花粉がつき、液とともに珠孔内部へ吸い込まれます。花粉はすぐ受精に与るのではなくそこ(花粉室)で1週間ほど待機してから花粉管が伸び始め、複雑に枝分かれします。最終的に精子が放出されて受精が起きるのは受粉後数ヶ月経ってからです。もしこの過程がうまく経過していなかったら、胚形成には至らないでしょう。2〜3個の胚珠の先端に受粉液が出ている写真はいくつも見ましたので、少なくともこの段階までは胚珠は正常なのでしょう。花粉はかなり広範囲まで飛ぶようですが、受粉がどの胚珠でも同時に行われるとは限らないようです。胚珠で受精が成功して胚/種子の形成が行われるためには、胚珠に多量の栄養が供給されなければなりません。種子形成は多大なエネルギーを必要とします。
イチョウでは一本の胚珠柄が時には二〜三又になってそれぞれの先端にある胚珠に栄養を供給することになります。もし、二つのうち一つで胚の形成が先行したら、そちらへより多くの養分が取られることになり、残る一つは成長しそこなうことになるでしょう。イチョウの生殖活動で遺伝的に種子形成を一つにするという淘汰機能があるかどうかは分かりませんが、そうだとしたら、要らない余分な胚珠をつくるのはどうしてかという疑問が湧きます。成長に失敗した胚珠を採取して、どこまで受精の過程が進んでいるか調べてみると、その理由が分かるかもしれませんね。そういうことを研究した報告も調べた限り見つかりませんでした。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-12-05