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柏の冬葉の状態について

質問者:   教員   川崎きみ枝
登録番号0526   登録日:2006-02-17
みんなのひろばで、柏は常緑性を保ったまま温帯域まで分布を広げた樹木であるとの説明を読み、もう少し詳しいことを知りたいと思いました。
本庄高校では、柏の葉と花柱が校章に使われております。
生徒に説明するためにも、さらに詳しい最近の知見をご教示ください。よろしくお願いします。
川崎きみ枝さま

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。以前、“離層”について解説して下さった。大阪大学の寺島一郎教授に、川崎さまのご質問の回答をお願いしましたところ、以下のような詳しい説明をお寄せ下さいました。きっと、ご参考になると思います。


 カシワはブナ科のコナラ属の木です。ブナ科の代表的な属には、ブナ属、クリ属、コナラ属、マテバシイ属、シイ属などがあります。南半球にはナンキョクブナ属があります。もっとも。最新の分子系統学の研究によるとナンキョクブナ属はブナ科に入らないようです。
 ブナ科の起源は古く、中生代の白亜紀後期(約8000万年前)にはブナ属とナンキョクブナ属がそれぞれ南北両半球に分布していたことが化石から知られています。白亜紀(1億4300万年前〜6500万年前)の気候は、高緯度まで温暖でした。それまで、森林は裸子植物の常緑針葉樹が主体でしたが、白亜紀には常緑広葉樹が赤道付近から高緯度地方に向かって広がりはじめ、白亜紀の後期には常緑広葉樹林が広い面積を覆うようになりました。白亜紀から新生代の第三紀(6400万年前〜170万年前)にかけて、常緑のまま進化したシイ、マテバシイ、カシの類に加え、乾燥や冬期の低温に対する適応として落葉性を獲得した、クリ、コナラ、ミズナラ、カシワがより寒冷な場所に分布するようになりました。
 では、なぜ、落葉性は乾燥や冬期の低温に対する適応なのでしょうか。生葉をつけている場合、気孔をぴったり閉ざしてもクチクラ蒸散により葉は水を失います。厳しい乾燥の時期(乾季)や土壌が凍結する冬期は、土壌から吸水ができなくなります。このような時に蒸散で水を失うと、命取りです。したがって、落葉性は、土壌からの吸水の難しい時期に蒸散のおこる表面積を減らす重要な適応現象なのです。常緑性の祖先種が落葉性を獲得し落葉樹となる場合に、離層を形成し葉を物理的に「落とす」ものが大部分です。カシワなどには離層が無く、葉を速やかに落とすことはしませんが、緑葉から窒素やリンなどの有用資源を吸収し、葉への水の通導を止め、葉をからからにしますから、クチクラ蒸散は起こりません。したがって、乾燥した葉をつけてはいますが、機能的には、葉を「落とす」落葉樹とあまりかわりません。したがって、カシワは常緑樹ではなく落葉樹です。大阪大学構内をちょっと見回したところでは、カシワは見当たりませんが、同属の落葉樹、コナラの葉はまだ(2月21日)しがみついているようです。コナラの葉もからからに乾燥していますので、蒸散量はゼロです。

参考書:
八田洋章(2002) 雑木林に出かけよう ドングリのなる木のツリーウオッチング 朝日選書
 ブナ科の樹木全般について、その起源なども含めて詳しく解説してある。ブナ科の木に親しみがわく本です。今回の解説の前半はほとんどこの本からの受けりです。

菊沢喜八郎(2005) 葉の寿命の生態学ー個葉から生態系へ 共立出版
 落葉性に関する生態学的な解釈が述べてある。

舘野正樹 (2003)器官間のバランスと成長:茎と根から陸上植物の生活を理解する

村岡裕由・可知直毅 編 光と水と植物のかたち 文一総合出版
 寒さが乾燥に通じるはなし。常緑樹の分布限界などについて詳しく述べてある。

 寺島 一郎(大阪大学)

JSPPサイエンスアドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2006-02-21
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