一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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栄養の有無によって沈水植物を伸長させやすい光色は変わるの?

質問者:   高校生   佑太
登録番号5261   登録日:2021-10-29
水草のアナカリスに関して質問です。

私は現在高校でアナカリスについての研究を行なっています。

具体的には、水草栄養剤を入れた水槽とそれを入れていない水槽を用意し、それぞれを3部屋に分割して、それぞれ赤・青・緑色のLEDを照射して、すなわち、

・富栄養×赤色
・富栄養×青色
・富栄養×緑色
・貧栄養×赤色
・貧栄養×青色
・貧栄養×緑色

という組み合わせの6部屋を作り、そこにそれぞれ7.5cmに切断したアナカリスを5本入れ、1週間成長させてその伸長量の平均を測りました。

その実験の結果、

・富栄養×赤色(7.5cm→8.48cm)
・貧栄養×青色(7.5cm→7.84cm)
・富栄養×緑色(7.5cm→7.75cm)
・富栄養×青色(7.5cm→7.68cm)
・貧栄養×赤色(7.5cm→7.54cm)
・貧栄養×緑色(7.5cm→7.53cm)

というデータが得られました。

私はこの結果から、

・なぜ貧栄養環境では青色光での伸長が最も大きかったのに、富栄養環境では赤色光の伸長が大きかったのか。

・なぜ貧栄養×青色光の伸長量が富栄養×青色光の伸長量を上回ったのか。

・この実験結果は光合成によるものなのか、それとも節間伸長によるものなのか、はたまたそれ以外の原因があるのか。

という3点に疑問を持ちました。

これらの答えを教えていただきたいです。よろしくお願いします。

P.S. 栄養剤はokoshiという肥料の三要素が含有されている固形肥料を利用し、水槽はどちらとも60×30×36のサイズのものを使用しました。また、アナカリスは6つの部屋で、先端部分を切り取った株と根元部分を切り取った株の比率が良くなるように水槽に入れました。実験日時は今年の7月上旬でしたので、照射時間はその日照時間にあやかり5:00〜19:00に揃えました。
佑太 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。沈水植物であるアナカリス(和名:オオカナダモ)の成長(伸長)に及ぼす光の波長(光質)の影響を調べられたようですね。よく考えられた実験設計であるようにお見受けします。説明が具体的で、実験値が示されているので分かりやすいです。

実験の結果が示すことは「青色光の下では、貧栄養の方が(富栄養の方より)藻の伸長量が大きくなる」と意外なものであったようですね。この結果は重大ですので、以下に挙げる疑問点を考慮にいれ、実験によって今一度確認されることをお勧めします。以下では、考慮すべきと思われる点を先に記し、続いて回答文を書かせていただきます。

(考慮すべき点)
1) 異なる波長の光の影響を調べる際には光の強さが問題になりますが、赤・緑・青のLED光源から発せられた光の植物体(実験材料)が受ける位置での強度が同じになるように揃えて比較されているのでしょうか(光強度の測定方法は?)。

2) 植物体(切れ藻)を7.5cmにきちんと切り揃えたものを実験材料にしていますが、植物体の部位によって成長(伸長)に大きな差があるのではないかと気になります。質問文では、この点に配慮され、「先端部分を切り取った株と根元部分を切り取った株の比率が良くなるように」したと説明されていますが、この説明は私には理解することが困難です。先端部分からのものと根元部分からのものでは成長(伸長)に明瞭な差があるのでしょうか。

3) 2)と関連しますが、質問文では同じ条件下に置かれた5本の実験材料について測定した平均値が示されていますが、5本の材料の間で実際にはどの程度のばらつきがあったのでしょうか。

4) 茎の長さの変化にだけ注目しておられますが、茎の伸長以外の特徴(発根や葉の成長の具合など)をも合わせて考察する必要はないでしょうか。

5) なお、平均値とは言え、この実験で得られる数値を0.1mmのケタで議論するのは無理ではないでしょうか。

6) それ以外に気になる点は:➀設定された6つの部屋は、温度などの条件は同一に保たれていたのでしょうか;②栄養剤を入れることによって培養液のpHの変化などは起こらなかったのでしょうか。

(回答)
光合成色素である葉緑素(クロロフィル)の光吸収の特性から考えると、赤色光と青色光は共によく吸収され、光合成に利用されて植物の成長(節間の伸長や乾物重量の増加などとして見積もられる)をもたらすことが期待されます。言うまでもなく、光合成の営みは二酸化炭素や無機栄養(三要素など)の供給に依存します。したがって、「富栄養環境下で、赤色光のもとでの伸長が大きかった(この実験では、13%程度の増加)」ことは、光合成によるものであったと理解されます。数値は僅少(この実験では、3%程度の増加)ですが、緑色光の場合も、この領域でのクロロフィルによる吸収が少ないことを考慮に入れると、同じ考えで理解できます。しかし、「貧栄養環境下では、青色光での伸長が(赤色と緑色の場合に比べて)最も大きかったこと」と「貧栄養×青色光の伸長量が富栄養×青色光の伸長量を上回ったこと」は光合成の活性促進では説明できないことだと思います。青色光が貧栄養条件下で藻の節間の伸長を促進する可能性を否定することはできませんが、この事実を確かなものとするためには前段に挙げた疑問点を考慮に入れて今少し実験の精度を高める必要があると思います。青色光の効果に限定して、栄養の濃度を違えるとか、光の強度を違えるような実験をしてみるのも一案かと思います。

なお、実験結果の考察に際しては以下の点についても学習して下さい。
1)実際の実験に用いられた赤・緑・青色LED光の発光スペクトル(波長ごとの発光強度)。
2)植物体内に存在する色素(クロロフィル・カロテノイド・フィトクロム・フォトトロピンなど)の吸収スペクトル(生体内での、波長ごとの光吸収の程度)。(註)色素によって吸収された光だけが反応に関与する!
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-11-17