質問者:
その他
テプラ
登録番号5275
登録日:2021-11-11
教科書によると「花芽形成では、フィトクロムなどの光受容体が日長を感知をしている。」となっていますが、1049の質問によると「例えばシロイヌナズナでは、日長を感じる上ではクリプトクロムの方がフィトクロムより重要であることなどがわかっています。」と書いています。それなのに教科書ではフィトクロムなど、とフィトクロムが主であるような書き方で表記されています。これは、シロイヌナズナではクリプトクロムがフィトクロムよりも日長感知において重要であるが、一般的にはフィトクロムの方が重要となる、という理由でこのような表記なのでしょうか。それとも、一般的にもクリプトクロムが主であるのにこのような書き方がされているなのでしょうか。みんなのひろば
クリプトクロムの働きについて。
また、教科書では、落葉・落果の際に日長感知をする光受容体はフィトクロムである。というような一文がありました。落葉・落果においてはクリプトクロムは日長感知に関与しないのでしょうか。
「概日リズムでは、フィトクロムやクリプトクロムなどの光受容体が関わっている」というような表記もあったので、どんな働きをするためかに関わらず日長感知の際にはフィトクロムの他にクリプトクロムも働くのではないかと思いました。
光受容体の働きを確認しようと教科書を読んでいたところ疑問を持ち、調べてもよく分からなかったので質問しました。よろしくお願いします。
テプラ 様
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には植物の光受容に関する研究に取り組んでおられる京都大学の長谷あきら先生から下記の回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。
【長谷先生からの回答】
教科書におけるクリプトクロムの扱いということで説明します。植物生理学の研究は、変異体や形質転換体が利用できるモデル植物(シロイヌナズナ)が利用されるようになって飛躍的に進歩しました。しかしながら、モデル植物が存在しなかった頃の「古典的」研究の成果が無意味になった訳ではありません。
植物の光応答の「古典的」研究においては、植物が青色光に応答することは知られていたものの、その光受容体の実態については全く不明でした。さらに青色光は、クリプトクロムを活性化する以外にも色々な光反応を引き起こします。このことが、クリプトクロムの応答を確認するのを困難にしました。一方、フィトクロムはすでに発見されており、赤遠赤色光可逆性という非常に特異な応答様式を示すため、光処理のやり方を工夫することで、比較的容易にその関与を確かめることができました。このことから、植物の光応答に関する「古典的」な知見はフィトクロムに偏ったものとなりました。
一方、クリプトクロムが発見されモデル植物での研究が進んだ現在では、1)たいていの光応答では、フィトクロムとクリプトクロムが両方が関与している。2)ある場合にはフィトクロムの関与の方が大きい。3)植物種や環境条件により両者の関与の仕方が異なるかもしれない、と考えられるようになってきました。
さて問題の日長感受性ですが、生理学的に見ても、分子的に考えても、なかなか複雑な現象と言えます。確かにモデル植物であるシロイヌナズナでは、どちらかというとクリプトクロムの方が重要そうに見えるのは事実です。一方、日長感受性に関する古典的研究ではアサガオなどを材料に、フィトクロムの関与が詳しく研究されています。例えば「光中断」の実験はその典型です。落葉についても同様の事情があったと推察します。このようなわけで、古典的にはフィトクロムに関する研究が大きく先行しました。
当該の教科書では、どちらの成果も参照しつつ、「古典的」な結果をやや優先したということかと思います。なお、将来的にはモデル植物以外でも分子レベルの研究が進み、より明確な全体像が明らかになるのではないかと予想しますが、まだまだ時間がかかりそうです。
蛇足ですが、ゲノム情報を用いた解析から、フィトクロムの原形となる分子の起源は非常に古いものの(原核生物の時代)、陸上植物型のフィトクロムとクリプトクロムを比較すると、後者の方が起源はより古いと推測されています。今のところ、フィトクロムあるいはクリプトクロムを持たない陸上植物というのは知られておらず、どちらも陸上植物の一般的な生存に欠かせない要素ということになるかと思います(部分的に見れば、どちらか一方で十分というように見えなくもないのですが)。
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には植物の光受容に関する研究に取り組んでおられる京都大学の長谷あきら先生から下記の回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。
【長谷先生からの回答】
教科書におけるクリプトクロムの扱いということで説明します。植物生理学の研究は、変異体や形質転換体が利用できるモデル植物(シロイヌナズナ)が利用されるようになって飛躍的に進歩しました。しかしながら、モデル植物が存在しなかった頃の「古典的」研究の成果が無意味になった訳ではありません。
植物の光応答の「古典的」研究においては、植物が青色光に応答することは知られていたものの、その光受容体の実態については全く不明でした。さらに青色光は、クリプトクロムを活性化する以外にも色々な光反応を引き起こします。このことが、クリプトクロムの応答を確認するのを困難にしました。一方、フィトクロムはすでに発見されており、赤遠赤色光可逆性という非常に特異な応答様式を示すため、光処理のやり方を工夫することで、比較的容易にその関与を確かめることができました。このことから、植物の光応答に関する「古典的」な知見はフィトクロムに偏ったものとなりました。
一方、クリプトクロムが発見されモデル植物での研究が進んだ現在では、1)たいていの光応答では、フィトクロムとクリプトクロムが両方が関与している。2)ある場合にはフィトクロムの関与の方が大きい。3)植物種や環境条件により両者の関与の仕方が異なるかもしれない、と考えられるようになってきました。
さて問題の日長感受性ですが、生理学的に見ても、分子的に考えても、なかなか複雑な現象と言えます。確かにモデル植物であるシロイヌナズナでは、どちらかというとクリプトクロムの方が重要そうに見えるのは事実です。一方、日長感受性に関する古典的研究ではアサガオなどを材料に、フィトクロムの関与が詳しく研究されています。例えば「光中断」の実験はその典型です。落葉についても同様の事情があったと推察します。このようなわけで、古典的にはフィトクロムに関する研究が大きく先行しました。
当該の教科書では、どちらの成果も参照しつつ、「古典的」な結果をやや優先したということかと思います。なお、将来的にはモデル植物以外でも分子レベルの研究が進み、より明確な全体像が明らかになるのではないかと予想しますが、まだまだ時間がかかりそうです。
蛇足ですが、ゲノム情報を用いた解析から、フィトクロムの原形となる分子の起源は非常に古いものの(原核生物の時代)、陸上植物型のフィトクロムとクリプトクロムを比較すると、後者の方が起源はより古いと推測されています。今のところ、フィトクロムあるいはクリプトクロムを持たない陸上植物というのは知られておらず、どちらも陸上植物の一般的な生存に欠かせない要素ということになるかと思います(部分的に見れば、どちらか一方で十分というように見えなくもないのですが)。
長谷 あきら(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻植物学系)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-12-28
佐藤 公行
回答日:2021-12-28