一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

カルビン回路におけるPGAの還元について

質問者:   教員   あれ
登録番号5279   登録日:2021-11-19
先日生徒に対して光合成の授業を行いました。その際に疑問に思ったことを質問させてください。
カルビン回路のPGAの還元ではPGAのカルボキシ基が還元されGAPが生成されますがその際にNADPHの還元力を使って、還元によって失われる酸素にNADPHから水素が供給されて計6分子の水ができると理解しています。教科書ではその時の記載がNADPH +水素イオンのようになっていました。PGAとGAPの分子構造を見る限り、ほかに水素が付加されたようには見えず、12分子のNADPHだけで6分子の水を作るには十分な気がします。すると何のために水素イオンが書かれているのだろうと思いました。マッキーの生化学では水素イオンの記載がありませんでした。自分が知らないことがあれば、また認識が違っていることがあればご教示いただけると幸いです。よろしくお願いします。
「あれ」さん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。

NADP(NADP+)は2価の酸化還元に関与します。そのようなわけで、酸化型還元型を次のいずれかの方式で表します:
方式1  酸化型: NADP+ + H+ →「2価の還元(すなわち、+2e-)」→ 還元型:NADPH
方式2  酸化型: NADP →「2価の還元(すなわち、+2e-+2H+」→ 還元型:NADPH2
いずれにせよ、この補酵素は2価の酸化還元に関与しており、反応の途中で瞬間的に1価の反応中間体を作ることはありますが、これは極めて短寿命であり、連続して更に1価の酸化還元反応がおきるので、結局上記のようになります。
質問の表記法「PGAとGAPの分子構造を見る限り、ほかに水素が付加されたようには見えず、12分子のNADPHだけで6分子の水を作るには十分な気がします。」に関して:
この場合、NADPHが酸化された時の産物(補酵素の酸化型)が実際どのようになっているかが問題になります。この補酵素は2価の酸化還元をするので、6原子の酸素原子を還元して、6分子の水を作るには、6分子の(6NADPH+6H+)があれば、化学等量を満たすことになります:6「O」+6NADPH+6H+  → 6H2O + 6NADP+。 
2価の酸化還元反応なので、還元型をNADPHとあらわすとき酸化型はNADPと書くのは誤りで、NADP+と書く必要があります。  
 酸化型、還元型を表すのに、以前は方式2が多く用いられていましたが、化学構造式の面から見ると、生化学的には方式1の方が実態を反映していて、しっくり来るという面があるので、現在では、方式1の方が使用される例が多くなっています。しかし、方式2の方が簡単なので、こちらも使われる場合があります。注意すべき点は、この補酵素が2価の酸化還元反応に関与していることを忘れないことであり、例えば、酸化型をNADP、還元型をNADPHと表示するのは誤りです(これでは、1価の酸化還元になってしまいます)。
また、Calvin回路のように、関与している化合物(代謝中間体)の数が非常に多い場合は、回路全体を表すとき、方式1に従って酸化型(NADP+ + H+)のように表すと図がごちゃごちゃするので、+H+を省略してNADP+とNADPHだけを記入する場合もありますが、その場合は、読者が、この反応は2価の酸化還元反応であることを当然のものとして理解していることを期待しているわけです。
[質問の「PGAとGAPの分子構造を見る限り、ほかに水素が付加されたようには見えず、」に関して]、
回答:この反応は、実際には2段階の反応により進行します;
1段目(反応式(1)):PGA+ATP ->(酵素「ホスホグリセレートキナーゼ」が触媒)→ 1,3-ビスホスホグリセリン酸+ADP;
2段目(反応式(2)):1,3-ビスホスホグリセリン酸+NADPH+H+ → (酵素「グリセルアルデヒドー3-リン酸デヒドロゲナーゼ」が触媒) → グリセルアルデヒド3-リン酸 +NADP+ +Pi
酵素は、2個の電子の授受に関与し、反応式を見るとわかるように、H+は、NADP+が2e-と反応してNADPHとなる反応に必要です。]
質問の「PGAとGAPの分子構造を見る限り、ほかに水素が付加されたようには見えず、12分子のNADPHだけで6分子の水を作るには十分な気がします。」に関して:
1分子のNADPHは2個の電子移動に関与します。12分子のNADPHは、酸化されて24個の電子を与え、12NADPH+12H++6O2 → 12NADP+ +12H2O となります。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-12-05