質問者:
一般
山下かえ
登録番号5285
登録日:2021-11-24
趣味でイシクラゲについて考えています。みんなのひろば
ネンジュモの異質細胞でのATP
ネンジュモの窒素固定では、ニトロゲナーゼを嫌気的な環境に維持するため異質細胞で行いますが、このとき必要なエネルギー(ATP)の供給に関して疑問に思いました。
嫌気的なので、嫌気性呼吸か、隣の細胞からATPを供給するのだと思います。
隣の細胞からATPを供給する場合、ニトロゲナーゼにエネルギーを供給したあとのADP+リン酸は、その後ATPに戻されるはずで、そのためには隣の細胞に回収されると思いますが、どのように運ばれるのでしょうか。
もしかして、一旦細胞外の寒天質基質に放り出されて、再び栄養細胞に取り込まれたりするのでしょうか?
0907(窒素固定について) の質問のご回答には次のようにあります。
窒素固定専用の細胞(ヘテロシスト)にニトロゲナーゼを局在させ、光合成を行っている細胞からATPと 還元力をもらって、窒素固定を行っています。
---
山下かえ 様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
シアノバクテリアは酸素発生型光合成原核生物で、酵素ニトロゲナーゼの働きにより窒素固定を行うことができます。ニトロゲナーゼは、マメ科植物の根に共生する根粒バクテリア、シアノバクテリア等々に比較的広く分布していますが、ニトロゲナーゼタンパク質は相互の相動性が高く、共通の祖先から進化したものと考えられます。
ニトロゲナーゼの反応には、強い還元力(電子供与体は鉄硫黄タンパク質フェレドキシンやフラビンタンパク質フフラボドキシンの還元型:下記反応式でe-と表示)と高エネルギー物質ATPの両方が必要です:
N2 + (8e- + 8H+) + 16ATP -> 2NH3 + H2 + 16 (ADP + Pi)
ニトロゲナーゼは酸素感受性で、酸素ガスに触れると失活してしまいます。酸素発生型光合成生物であるシアノバクテリアは、還元力及びATPの供給と、ニトロゲナーゼの酸素からの保護という難題をつぎのような方法で、解決を図っています:
I 糸状で光合成に特化したものと窒素固定に特化したものとの、2種の細胞の空間的分業(ネンジュモなど)
普通の細胞(栄養細胞という)は通常の光合成をおこない、CO2を固定して糖類を合成する。窒素栄養欠乏下では、栄養細胞約10-20個当たり1個の頻度で、窒素固定に特化したヘテロシスト細胞(異形細胞)が分化してくる。ヘテロシストは、酸素発生型光合成をおこなわず、隣接する栄養細胞から糖類を受け取り、糖類を分解して得られる還元力を利用して還元力を得る、あるいは反応系Iの光化学反応によって強い還元力を生み出す。ATPは、自身が行う光リン酸化反応(光化学系Iでの光化学反応とそれに連結した循環的電子伝達系により駆動)、または糖類の分解によって得ている。なお、ヘテロシスト細胞は厚いペプチドグリカン層によって囲まれており、細胞外からの酸素の拡散を防いでいる。
II 時間的分業(Cyanotheceなど)
昼は酸素発生型光合成をおこなって糖類をため込み、夜は、糖類を分解して還元力を作り、また酸素呼吸をすることによって細胞内の酸素分圧が下がり、同時にATPが合成される。
III 多数の細胞が糸状に連なっているが、Iのように異形細胞のような形態的に分化した細胞は観察されないのに、全体として窒素固定を行う(Trichodesmiumなど)
外見上は均一に見える細胞が、ある時間で見ると、一部は酸素発生型光合成をおこなって多糖類を蓄積し、他の一部は酸素発生型光合成を一時停止し、細胞内に貯蔵した多糖類を分解して窒素固定を行う。2つの活性は、糸状体全体としては時間的統一がとれておらず、細胞が交代で自分勝手に2つの活性を使い分けているように見える。
*****************************
上記のように、一部のシアノバクテリアは、いろいろ工夫して、酸素発生型光合成反応と、酸素感受性ニトロゲナーゼ反応を両立させています。
なお、マメ科植物の根に共生する根粒細菌(根粒菌とも呼ばれる)は、ニトロゲナーゼ反応に必要な還元力は有機物の分解により、また、ATPは酸素呼吸によって得ています。この場合は、根粒の中にレグヘモグロビンというO2に高い親和性を持ったタンパク質が合成されて細胞内の酸素分圧がニトロゲナーゼが失活しない程度に低くなり、しかも根粒菌の酸素呼吸は何とか続くという微妙なバランスの上に、反応系が駆動されています。
****************************
付記
本 みんなのひろば「植物Q&A」で「窒素固定」を検索語として調べると、いくつかの回答が出てきます。次の回答番号のものが、役に立つでしょう:登録番号1142, 0907, 3068, 4637。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
シアノバクテリアは酸素発生型光合成原核生物で、酵素ニトロゲナーゼの働きにより窒素固定を行うことができます。ニトロゲナーゼは、マメ科植物の根に共生する根粒バクテリア、シアノバクテリア等々に比較的広く分布していますが、ニトロゲナーゼタンパク質は相互の相動性が高く、共通の祖先から進化したものと考えられます。
ニトロゲナーゼの反応には、強い還元力(電子供与体は鉄硫黄タンパク質フェレドキシンやフラビンタンパク質フフラボドキシンの還元型:下記反応式でe-と表示)と高エネルギー物質ATPの両方が必要です:
N2 + (8e- + 8H+) + 16ATP -> 2NH3 + H2 + 16 (ADP + Pi)
ニトロゲナーゼは酸素感受性で、酸素ガスに触れると失活してしまいます。酸素発生型光合成生物であるシアノバクテリアは、還元力及びATPの供給と、ニトロゲナーゼの酸素からの保護という難題をつぎのような方法で、解決を図っています:
I 糸状で光合成に特化したものと窒素固定に特化したものとの、2種の細胞の空間的分業(ネンジュモなど)
普通の細胞(栄養細胞という)は通常の光合成をおこない、CO2を固定して糖類を合成する。窒素栄養欠乏下では、栄養細胞約10-20個当たり1個の頻度で、窒素固定に特化したヘテロシスト細胞(異形細胞)が分化してくる。ヘテロシストは、酸素発生型光合成をおこなわず、隣接する栄養細胞から糖類を受け取り、糖類を分解して得られる還元力を利用して還元力を得る、あるいは反応系Iの光化学反応によって強い還元力を生み出す。ATPは、自身が行う光リン酸化反応(光化学系Iでの光化学反応とそれに連結した循環的電子伝達系により駆動)、または糖類の分解によって得ている。なお、ヘテロシスト細胞は厚いペプチドグリカン層によって囲まれており、細胞外からの酸素の拡散を防いでいる。
II 時間的分業(Cyanotheceなど)
昼は酸素発生型光合成をおこなって糖類をため込み、夜は、糖類を分解して還元力を作り、また酸素呼吸をすることによって細胞内の酸素分圧が下がり、同時にATPが合成される。
III 多数の細胞が糸状に連なっているが、Iのように異形細胞のような形態的に分化した細胞は観察されないのに、全体として窒素固定を行う(Trichodesmiumなど)
外見上は均一に見える細胞が、ある時間で見ると、一部は酸素発生型光合成をおこなって多糖類を蓄積し、他の一部は酸素発生型光合成を一時停止し、細胞内に貯蔵した多糖類を分解して窒素固定を行う。2つの活性は、糸状体全体としては時間的統一がとれておらず、細胞が交代で自分勝手に2つの活性を使い分けているように見える。
*****************************
上記のように、一部のシアノバクテリアは、いろいろ工夫して、酸素発生型光合成反応と、酸素感受性ニトロゲナーゼ反応を両立させています。
なお、マメ科植物の根に共生する根粒細菌(根粒菌とも呼ばれる)は、ニトロゲナーゼ反応に必要な還元力は有機物の分解により、また、ATPは酸素呼吸によって得ています。この場合は、根粒の中にレグヘモグロビンというO2に高い親和性を持ったタンパク質が合成されて細胞内の酸素分圧がニトロゲナーゼが失活しない程度に低くなり、しかも根粒菌の酸素呼吸は何とか続くという微妙なバランスの上に、反応系が駆動されています。
****************************
付記
本 みんなのひろば「植物Q&A」で「窒素固定」を検索語として調べると、いくつかの回答が出てきます。次の回答番号のものが、役に立つでしょう:登録番号1142, 0907, 3068, 4637。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-12-29