一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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銀杏の黄葉時期

質問者:   その他   金さん
登録番号5293   登録日:2021-12-02
地元愛媛県西予市野村町の熊野神社跡にある、樹齢推定750年の銀杏の黄葉時期が、他の木より毎年20日ほど遅れます。
環境は他と変わりません。
遺伝子が違うのでしょうか?
なおその木は熊野神社から持って来たという記録が有ります。
よろしくお願いします。
金さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
黄葉、紅葉についての一般的な概要は本コーナーの登録番号1462をご覧ください。
そのうえでお尋ねのイチョウについてみてみます。現存のイチョウ属(Ginkgo属)は1種(G. biloba)だけですが、化石の研究から氷河時代までは多くのイチョウ属の種があったことが明らかにされており、現存のものは氷河期の生き残りとも言えます。形態的には氷河期の形態と現存の形態とは大きく変化していないようです。中国で野生のイチョウが発見され、日本には11世紀頃持ち込まれ、樹形とともに秋の黄葉が美しいこと、燃えにくく防火樹となる、成長、回復力が旺盛で強く剪定しても盛んに新枝が出ること、そして挿し木で容易に増殖でき、かつ樹齢が長いこと、などなどの理由で記念樹や街路樹として好まれ本土の街路樹の10%近くがイチョウだともいわれています。
登録番号1462にもあるようにイチョウの黄葉は葉緑素(クロロフィル)の減少によります。クロロフィルは常に合成と分解を繰り返していますが、気温の低下、日照の減少などのため生合成側の速さが減少するので緑色が少なくなり、それまで隠されていたカロテノイドの黄色が目立つことが黄葉の原因となっています。このような生体内の生化学反応(物質代謝、エネルギー代謝)は厳密に調節されていて、環境条件の変化によって各反応調節のバランスが変化します。栄養供給環境もいつも一定とは限りません。「環境は他と変わりません」とありますが、根周辺の栄養素の組成などは変化しても容易に分かりません。イチョウ街路樹の特定の株の黄葉の遅れは、近くにある田畑の肥料が土壌中を流れて特定の部分の土壌環境を変えたために起こると推定される例が記載されています。またイチョウは長命で巨木となります。黄葉の仕方について、大木のイチョウの方が黄葉のタイミングが遅れる傾向が指摘されています。しかし、科学的根拠は定かではありません。
「遺伝子が違うのでしょうか」と遺伝子組成の違いの可能性も考えられないことではないかもしれませんが、少なくとも日本のイチョウは極端な表現をすればみなクローンであって、大まかな遺伝子組成に大きな違いはないと思われています。小さな変異として葉に果実がつくオハツキイチョウ、葉がラッパ上に丸まったラッパイチョウなどが珍樹として各地で知られていますが、すべての果実、葉が変異するわけではないようです。イチョウは雌雄異株ですが雄株の枝の一つに果実をつける例も報告されています(山梨県身延町の八木沢地区にあるオハツキイチョウの性転換枝)。最近中国の研究者らによってイチョウの遺伝子配列が決定され、99億塩基対(ちなみにヒトでは30億塩基対とされています)という巨大なものですがタンパク質を指定すると思われる配列28000種ほどと推定され、他の被子植物と大きく異なっていないようです。これらの遺伝子の解析がさらに進めばイチョウの進化の様子や今まで観察されている変異イチョウの原因がわかるでしょうが、近年のうちに解決する問題とは思えません。
なおイチョウに興味をお持ちでしたら、本学会の会員でもある長田敏行博士の著書「イチョウの自然史と文化史」裳華房 2014年は大変参考になりますし、イチョウの変異についても述べられています。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-02-15
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