一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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緑色のぶどうは光合成をするか?

質問者:   大学生   日常のはかせ
登録番号5301   登録日:2021-12-13
先日、中学生への授業で光合成について扱いました。
その際、「光合成は葉だけでなくクロロフィルaという色素を持つ部分で光合成をする。例えば、緑色のピーマンや熟す前のトマトも光合成をするよ」と教えました。
その際、生徒から「じゃあ、マスカットも緑色だから光合成をするの?」と質問を受けました。
その場では答えられず、その後調べてみて「ブドウの色はアントシアンの種類や量によって異なる」ということまでは分かりました。
しかし、結局、マスカットなどの緑色のブドウは「クロロフィルaとは別の緑色の色素によって緑色なのか」もしくは、「アントシアンの色素が薄くクロロフィルaの色が見えるため緑色なのか」わからなかったです。
ぜひ、ご教授お願いします。
日常のはかせ 様

みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ。
質問を歓迎します。

光合成は、光のエネルギーを化学エネルギーに変換する全過程を指し、非常に多くの因子が関与する複雑な反応で、葉緑体の中で起こります。クロロフィルは、光合成を駆動するための特徴的な色素ですが、光合成の全反応は、クロロフィル以外に、タンパク質、電子伝達体などの酸化還元因子、脂質とタンパク質からなる膜構造(チラコイド膜)、炭素同化系の諸酵素などが関与する複雑な反応です。
光合成の最初の反応は、光化学反応系による光エネルギーの化学エネルギーへの変換ですが、それを細かく分けると次のようになります:
1.光合成色素は光を吸収し、励起された(エネルギー状態の高い)状態となる。
2.励起エネルギーは、いくつかの光合成色素間を伝達され、光化学反応中心に至る。光化学反応中心は、タンパク質がクロロフィルなどの光合成色素のほかに酸化還元に関与する何種類かの分子を結合した複合体で、ここで励起エネルギーは酸化還元エネルギーに変換される。
3.植物や藻類などの反応中心は2種類あり、光化学系I及びIIと呼ばれる。光化学系IIは、励起エネルギーを利用して光化学反応によりH2Oを酸化し、この反応が4回を1セットとして起こると、次のようにO2を発生する:
2H2O → O2 + 4e-(中程度の還元エネルギー) + 4H+。光化学系II複合体は、タンパク質にクロロフィルや、Mn、Caなどが結合している。光化学系IIで生じた還元力はそれほど強くないので(還元力は、酸化還元電位によって表される。酸化還元電位の低いものほど、強い還元力を持っている)、電子は、より強力な還元エネルギーに変換するために、光化学系Iに渡され、そこで励起エネルギーを利用してフェレドキシン(鉄―硫黄タンパク質)に渡される。還元型フェレドキシンは強力な還元剤となり、NADP+を還元してNADPHを生じる。また、電子が光化学系IIから光化学系Iに渡される経路には、電子伝達系がチラコイド膜と呼ばれる生体膜に組み込まれていて、電子は生体膜において酸化還元を受けるが、このとき、酸化還元エネルギーの一部は高エネルギー物質ATPを合成するのに使われる(これを、光リン酸化と呼ぶ)。還元物質NADPHと高エネルギー物質ATPを利用して、炭素同化系酵素(酵素の集団)がCO2を還元して、この両者が駆動力となって、糖を合成する。
 クロロフィルは、光合成器官に特徴的な物質ですが、クロロフィルだけで光合成の全過程が起こるのではなく、上述のように多くのタンパク質、膜構造などが必要です。単に、抽出したクロロフィルに光を当てたところで、植物が行っている光合成のような複雑な反応は起こりません。ホウレンソウや小松菜を茹でると、大部分のクロロィルは残り、葉は緑色をしているが、タンパク質が熱変性して立体構造が変化しているため、光合成反応は起こりません。緑色をしたブドウは、前記のような複雑なエネルギー変換装置群を欠くため、光合成が起こるはずもありません。
なお、本学会の<みんなのひろば 植物Q&A>のサイトで、「光化学反応中心」を検索語として調べると、例えば「登録番号5201」に詳しい解説が出ています。また、日本光合成学会が運営している「光合成事典」で、調べたい事項を検索すると、詳しい説明が出てきます。専門的すぎる解説もありますが、複雑な光合成のエネルギー変換過程を理解しようとする際には、役立つことでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-02-11
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