一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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落葉果樹の自発休眠・他発休眠とは何でしょう。

質問者:   高校生   みっくん
登録番号5304   登録日:2021-12-17
生物、特に植物に興味を持っている高校生です。

高校の生物の授業で休眠について勉強しました。
先生が自発休眠、他発休眠について触れたのですが、先生も専門外のようで詳しく教えてくれなかったのでぜひ教えてください。

趣味でブドウを育てていて、特にブドウの休眠に興味があるので、ブドウを例に挙げていただけると嬉しいです。
ブドウは落葉果樹ということは調べましたので、落葉果樹の休眠についてでも構いません。

ちなみに、先生は休眠について以下のようにおっしゃっていましたが、植物が自発休眠と他発休眠をどのように使い分け、植物の中でどのような変化が起きるのかは分かりませんでした。

・自発休眠:生育に適する温度条件になっても生理作用によって生長が抑制されている状態。覚醒には一定の低温条件が必要。→生理作用によって生長が抑制されているという意味がよくわかりません。なぜ生育に適しているのに生長が抑制されているのか分かりません。自発というからには外的要因が原因ではないのでしょうか。何がきっかけになっているのでしょうか。
・他発休眠:低温などの外的条件が生育に適さないため生長を停止している状態。環境が整えば、発芽し、生長する。→樹は完全に眠っている状態で、植物は活動していないのでしょうか。
・自発休眠の後に、他発休眠に移行する。→これを聞いて、自発休眠は冬芽を作りつつ葉の養分を枝や幹の柔細胞に溜め込む時期で、他発休眠は落葉を終え活動をしていない時期なのかと解釈したのですが、合っているが自信がありません。

上記を踏まえて、質問は以下です。
「落葉果樹の自発休眠・他発休眠はどのような時期・順序で行われ、見た目上はどんな変化が起き、植物の中ではどのようなことが起こっているのですか」
みっくん様
 
 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「落葉果樹の自発休眠・他発休眠とは何でしょう」にお答えします。

 休眠は冬芽だけでなく種子や腋芽などでも見られ、それぞれで様子が異なり、植物種によっても多様なため、自発休眠、他発休眠をはじめとしていくつかのタイプに分類されますが、研究者によって分類のし方が異なるようです。ここでは、ご質問の温帯の落葉果樹における冬芽の休眠について考えてみましょう。
 
 一般論をごく簡単にまとめれば、次のようになるでしょうか。冬芽(花芽・葉芽)は夏から秋にかけて形成されて冬を越し、翌年春に芽吹きます(開花・萌芽)。冬芽が形態的に完成しているにもかかわらず翌年春まで生長せず、見た目では変化が無く眠っているように見える現象が休眠です。休眠中の冬芽は冬の低温に耐えられる特徴があります。
 
 冬芽が形成される頃、葉では生長を抑制する植物ホルモンであるアブシジン酸が合成されて芽へ移動し、その生理作用によって形態的に完成した芽がさらに生長することを抑制し、休眠を誘導します。芽の生長には一定以上の温度条件が必要ですが、晩秋や冬でも暖かい日にはそのような生育に適する温度条件を満たすことがあります。形成されたばかりの冬芽がそのような暖かい日に芽吹いてしまうと、寒さが戻れば耐えられずに枯死してしまいます。しかし、このような時期に生長が抑制されている休眠状態にあれば芽吹くことは無く、冬の寒さを乗切ることができます。冬の間は樹は完全に眠っている状態に見えますが、芽では生理的な活動は続いています。むしろ低温条件でなければ進まない生理現象です。すなわち、秋に休眠誘導にかかわった生長を抑制するアブシジン酸が分解され、逆に生長を促進する植物ホルモンであるジベレリンの生合成が始まります。これら二つの植物ホルモンのバランスが生長促進に有利な方向に変化すると休眠は浅くなり、やがて覚醒します。このような内的要因の変化がきっかけとなって休眠から覚醒します。休眠から覚醒した、言い換えれば休眠が打破されたとは直ちに芽吹くということではなく、生育に適する温度条件になれば芽吹くことができる状態になったということで、低温が続いていれば生長は停止したままです。早春に休眠が打破されても寒さが続いていれば芽吹かず、春になって暖かくなって初めて芽吹きます。暖冬で低温条件が十分でないと休眠打破が遅れるために春の芽吹きも遅れます。人為的に低温処理をすれば休眠を打破できるために芽吹きは早まります。
 
 さて、上に述べた冬芽の完成から芽吹きの手前までの、芽の生長が停止している期間を一括りで「休眠」と呼ぶこともできます。あるいは、休眠打破までを「休眠」として、それから芽吹きまでの期間は単に芽吹きしない時期と見なすこともできます。一方で、休眠打破から芽吹きまでの時期を重視するならば、二段階の休眠があるとすることもでき、その考え方では休眠打破までを「自発休眠」、それに引き続く芽吹きまでの期間を「他発休眠」とします。このように、同じ現象であっても、どこに着目するかで見方、考え方も異なり、それに伴って用語にも違いがでてきます。「休眠」「自発休眠」「他発休眠」の説明が人によって様々になりがちなのはこのような事情によるものと思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-02-25