一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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高次倍数体植物について

質問者:   会社員   T
登録番号5305   登録日:2021-12-18
先日、インターネットで10倍体のイチゴがあることを知りました。
そこで質問なのですが、倍数性には限界があるのでしょうか。
極端に言えば、100倍体の植物をつくることはできるのでしょうか。

素人なりに考察してみましたが、コルヒチン等で倍化処理をし、交配し続ければ倍数性は増え続けるが、どこかに限界があるのではと思っています。
T様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。回答が遅くなってしまいましたことお詫びいたします。高次倍数性の研究に詳しい「かずさDNA研究所先端研究開発部 植物ゲノム・遺伝学研究室」の白澤健太先生に回答をお願いいたしました。白澤先生は研究仲間の磯部祥子先生(かずさDNA研)と赤木剛士先生(岡山大)のお二人と議論された上でこの回答をまとめて下さいました。

【回答】
100倍体の植物をつくるためには、いくつかの問題を乗り越える必要がありそうです。

1. 核の物理的なスペースの問題
イチゴに限らずほとんどの植物では、染色体はDNAとタンパク質の複合体で構成されており、これがコンパクトに凝集して細胞内の核に収められています。100倍体になると、それだけの量の染色体を核の中に収めておく必要がありますが、 そのスペースが核の中にあるのかが問題となりそうです。

2. 染色体の維持や合成に関わる代謝コストの問題
DNAは糖、リン酸、塩基から構成され、タンパク質はアミノ酸や糖などの物質で構成されています。これらの物質は染色体をつくるためにだけ使われているのではなく、生物が生きていくために必要なエネルギー源となる栄養代謝にも使われ ています。染色体の維持や合成に大量のエネルギーを使用するほどの余裕がある のか、生物の栄養状態が問題となりそうです。

3. 染色体の対合と分配に関する問題
細胞分裂では複製した染色体が均等に2つの娘細胞に分配される必要があります。さらに生殖細胞をつくる減数分裂では相同染色体同士が対合する必要があり ます。分配や対合ではわずかにエラーが起きますが、相同染色体の数が増えることでエラーの確率が上がります。染色体数が多くても正確な細胞分裂が行えるのかが問題となりそうです。

4. 遺伝的な問題
多くの生物では、例えば一つの染色体が増えてしまっただけで生命が維持できなくなるなどの現象が確認されています。これまでに様々な倍数体が生まれては失われて来たことが想像できますが、現存する倍数体は偶然生き残ることができた生物であると考えられます。染色体が増えたときに生命が維持できるのかどうかが問題となりそうです。

これら以外にも、100倍体のイチゴをつくる中でたくさんの問題が見つかりそうですが、その分たくさんの発見もありそうです。なお、シダやベンケイソウの仲間では80を超える倍数性を持つ植物があり、カイコの絹糸腺の細胞は数十万の倍数性を持つことが知られています。


白澤健太/磯部祥子/赤木剛士(かずさDNA研究所/かずさDNA研究所/岡山大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2022-03-07
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