一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野菜における硝酸イオンとシュウ酸の関係

質問者:   会社員   ダンゼン
登録番号5306   登録日:2021-12-20
シュウ酸がビタミンやミネラルの吸収を妨げるというのはよく聞きます。最近某農家が栽培しているほうれん草の硝酸イオンが一般値よりも格段低い(20分の1)ものがあり、でもシュウ酸での数値はありません。

野菜における硝酸イオンとシュウ酸の関係について知りたいです。硝酸イオンが高い野菜はシュウ酸も高いのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
ダンゼンさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ホウレンソウは栄養価の高い野菜ですが有害な成分を含むことでも知られています。えぐみ成分(主に硝酸塩やシュウ酸カルシウム)が多いので葉野菜でありながらほとんど生食されません。えぐみ成分を低減する調理(主に煮る、茹でるなど)を必要とします。近年、生食できるサラダ用の「赤軸ほうれん草」(葉柄、中肋が赤紫)が市販されています。しかし、そのえぐみ成分の分析結果などは見つかりませんでした。可溶性シュウ酸塩は多量に摂取すると体内でカルシウムと結合しシュウ酸カルシウム結晶を生成して結石が生ずるので有害成分とされています。またホウレンソウはチッソ栄養としてアンモニア塩よりも硝酸塩を与えると生育がいい好硝酸性作物で葉、葉柄などに多量の硝酸塩を含みます。ヒトが摂取すると体内細菌などで硝酸は亜硝酸にまず還元されますが、この亜硝酸が有毒なため作物の硝酸は有毒成分とされます。ホウレンソウに限らず多くの野菜類でも低シュウ酸、低硝酸作物が望まれ、シュウ酸、硝酸の濃度を低くする試みが行われています。主にチッソ施肥量を調整する方法、日照を長くして植物体内で効率よくアンモニア合成に回す方法などが報告されていますがまだ、植物に共通する完成された方法はないようです。ホウレンソウに限って言えば、ホウレンソウは低温には強く、高温には弱い傾向があり、低温では硝酸含量が減少して糖含量の増加傾向が見られます。この性質を利用して東北、北海道地方の寒冷地では、収穫期に低温に暫くおく「寒締め」をして糖度を上げ、硝酸濃度を低減する方法がとられています。寒締めホウレンソウでも硝酸濃度は1/3程度まで低下した例が示されています。
最後に植物における硝酸とシュウ酸との関係をお尋ねですが、多くの種類の蔬菜類(葉、茎、塊茎、塊根について、硝酸、可溶性シュウ酸の含有量を調べた報告がありますが各試料の測定値は、試料植物の種、品種、採取地域、採取時期によって大きく違い両者の「関係」を論ずることはできないものです。しかし、ホウレンソウに限った調査ですが、早生、中生、晩生を含む29カ所から入手したおよそ122品種について、シュウ酸濃度、硝酸濃度を調査した報告によると硝酸濃度とシュウ酸濃度は統計的に負の相関があるとされています。つまり、シュウ酸濃度の高い品種は硝酸濃度が低くなる傾向があることになります。この傾向を品種との関係で見ると早生品種は硝酸塩が高く、シュウ酸濃度が低く、晩生品種では逆に硝酸塩が低く、シュウ酸塩濃度が高いと言うことになります。これは、早生品種と晩生品種における平均の葉柄/葉身比の違い(前者では比が小さく、後者では大きい)と関係していると解釈されています。硝酸塩は一般に葉柄、中肋が葉身よりも高濃度含まれます。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-03-01
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