一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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外来種について

質問者:   高校生   りょうすけ
登録番号5330   登録日:2022-01-30
こんにちわ私は北海道に住んでいます。
最近問題になっている外来種 特に植物について疑問に感じたことがあります。
私の住む地域でも、ニセアカシア、アメリカオニアザミ、テウチグルミなどの草木が野生化している姿を見かけます。ですが
公園や庭に多い アカナラ、ブルーベリー、ジューンベリー、ライラックなど、殆ど野生化していない種類も多くあります。私はどんなに野生化しても結局は元々無い外来種なので日本では、気候や環境が妨げになり増えづらくなっているのではと、考えます。
実際にこれらについて専門家の方々はなぜ、野生化してしまう外来種と、野生化しずらい外来種があると考えますか?
りょうすけさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は在来種、外来種を問わず広く生態学の大きな問題でもありますので、植物生態学がご専門の東京大学の寺島一郎先生に回答をお願いしましたところ以下のような詳細なご説明を頂きました。十分考えながらお読みください。

【寺島先生の回答】
外来種についてご質問いただき、ありがとうございます。
「気候や環境が妨げになり増えづらくなっているのでは」とお考えのようです。大正解です。生態学では、「生物の環境」を「その生物をとりまくすべての要因」と定義します。気候条件、光強度、温度、湿度、土壌の栄養分・水分・pH、などの「物理・化学要因」の他にも、その生物の周りあるいは体内にいる生物もその生物の環境なのです。「生物要因」といいます。植物の場合ですと、光や栄養をめぐって競争している同種の他個体、他種の個体、植物を食べたり利用したりする動物、感染する病原菌や共生菌などの微生物もすべて「生物要因」に含みます。動物の場合ですと、天敵、寄生虫、病原菌などが「生物要因の環境」です。無菌室で培養したり栽培したりすることを除けば、生物要因の環境の影響を受けない生物はありません。幾つか例をあげましょう。
1) セイタカアワダチソウはアメリカ原産です。数十年前は、秋になると日本中の河川敷がまっ黄色に見えるほどで嫌われものでした(個人的にはその勢いのファンでした)。生物要因の環境として、セイタカアワダチソウの成長を抑えるものがほとんどなく、セイタカアワダチソウは根からアレロパシー(他感作用)成分を出して他の植物の発芽を抑え、ほぼ純群落を作っていました。現在はどうでしょうか。感染する菌類もあるし、他感作用成分に耐性の植物も増えたと思われます。純群落は殆ど見られなくなりました。このように新天地において、たまたま生育に適した「環境」に、成長や繁殖を邪魔するものが少なく、しかも自身の他感作用物質などが有効であれば、旺盛に繁殖できるのです。セイタカアワダチソウの次に河川敷に現れたのは、これも、アメリカ原産のオオブタクサ。成長がすばらしく速く、一年生草本なのに4 mほどの高さにまで育ちます。この繁茂も落ち着き、最近では探すのに苦労するほどになりました。日本産で、アメリカのクズ(Kudzu vine、カズヴァインと発音)、イギリスのイタドリ(Japanese knotweed、 茎の断片で栄養繁殖)などが繁茂している姿には胸のすく思いがするほどですが、これらもやがては新天地の種々の「環境」が徐々に変化するはずで、いつまでも現在のような勢いで繁茂することはないと思います。野生の植物に限りません。ダイズを研究している国分牧衛博士から聞いた話ですが、「ダイズを新天地のブラジルで栽培したところ、数年間は世界記録のような収量だった」が、「その後は落ち着いた」ということです。 
2)松枯病 アカマツに特に大きな被害が出て多くの木が枯れました。これは、マツの材に棲息するマツノザイセンチュウが水分の通導を阻害することによります。マツ個体間のセンチュウの移動はマツノマダラカミキリが媒介しています。このマツノマダラカミキリはアメリカ原産で、新天地の日本では天敵なども少なく、マツにも抵抗性がありませんでした。これが一挙に松枯れが拡大した原因です。しかし、徐々にその勢いがなくなっています。樹脂やテルペンの成分が異なる抵抗株が増えてきたことなどが原因です。マツノマダラカミキリに寄生する菌類も出てきたようです。アメリカでは松枯病が目立たない状態にあることにも注意してください。生物環境が、松枯病による枯死率を低いレベルの定常状態に抑えているためであると考えられます。
ニッチという言葉があります。人と違ったことをやっていると「ニッチなことをしているね」と言われたりします。このニッチ(niche)は生態学の用語で、かつては生態学的地位などと訳しました。ダーウィンが「place」とよんだものです。場所のことだけを指しているわけではありません。いろいろな環境要因の組み合わせによって生じたplaceが生物の棲みかとなり得ます。このような組み合わせによって異なる一つ一つの生物の棲みかをニッチと言うのです。外来種がやってきたとき、もともとその生物が占めていたニッチに類似したニッチがたまたま空いていると大繁殖が可能です。しかし、周りの生物がそのまま大繁殖をしている状態を放っておくわけではありません。一方、そのようなニッチに強力な生物がすでに棲んでいるとなかなか侵入はできません。たまたま今日届いた日本生態学会誌の和文誌は、外来種の定着の特集号でした。奈良の春日山などには、中国産のナギが日本では珍しいナギ林を形成しています。本来は照葉樹林ですが、シカが同じニッチの照葉樹の稚樹を食べてくれるので、侵入に成功したようです(前迫ユリ博士による)。このシカも、生物要因の「環境」であることは言うまでもありません。今のところナギの稚樹は食べないようです。環境もダイナミックに変化するのです。シカのおかげで、類似ニッチがガラ空きになったのです。しかし、シカの食性も変わりますので、油断はなりませんが。
日本の常緑広葉樹林に昔からのメンバーだという顔をして存在しているクスノキも中国原産です。東大本郷の図書館前に亭々とそびえるクスの大木があったのですが、地下に書庫を増設した際に邪魔になりました。図書館のシンボルだからというので、巨額の予算をかけて掘り取って移植し、美談となりました。個人的には、日本の固有種でもないので切って捨ててしまえば安上がりだったのでは、と思ったものでした。

寺島 一郎(東京大学 大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2022-04-01
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