一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ソメイヨシノの老木は、なぜねじれるのか?

質問者:   一般   観察が趣味人
登録番号5336   登録日:2022-02-16
ソメイヨシノの老木が、全て同じ方向に捩じれていますね。
その理由を、だいぶ前から疑問に思っています。
Webなどで調べてみましたが、納得できる回答が見つかりません。

・なぜ、老木はねじれるのか?
 綺麗な桜肌の幼木はねじれている様には見えません。幹が痛んでいるような老木でねじれが目立ちます。老化現象の様なものでしょうか?

・なぜ、すべて同じ方向に捩じれるのか?
 遺伝的にねじれる方向が決まっているのでしょうか? ネジバナでは、ねじれる方向は不定で、ねじれないものもありますね。

・追加になりますが、ネジキなど初めからねじれている樹木もありますが、なにかメリットがあるのでしょうか?

宜しくお願いいたします。
観察が趣味人さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

樹木の幹の捻れはソメイヨシノに限ったことではなく、捻れに程度の差はありますが、かなり多くの植物種に見られる現象です。特に建築用材として使われることの多い針葉樹では、切り出した用材が長年の乾燥で「ひび割れ」を起こすことがあるため林学の問題として取り上げられています。しかし、サクラを初めケヤキなどの広葉樹では板などに製材した場合に、この捻れが作り出す木目(もくめ)の紋様が美しい銘木が出来ることがあるために好ましい現象でもあります。
捻れ現象は巻きひげやつる植物に典型的に見られ、植物種によって右巻き(幹に沿って進むと右回り、正対すると手前の幹が右下から左上へ上る、S型)、左巻き(幹に沿って進むと左周り、正対して手前に見える幹が左下から右上へ上がる、Z型)のいずれかに遺伝的に決められているもの(アサガオS型、ノダフジS型、ヤマフジZ型)や1本の個体内でS型、Z型があるもの(ヤブカラシ、キュウリの巻きひげ)、同じ種でも個体によってS型、Z型が出来るもの(ネジバナ花序)などがあります。
つる植物でない樹木(木本)の幹(茎)でも内部に捻れが出来ることが普通で、それは幹の作りと関係しています。樹木の幹を輪切りにすると、中央部分に木部(ほとんどが二次木部、道管、仮道管)が、外縁部に師部(師細胞、伴細胞,繊維細胞など)が、木部と師部との境に形成層という分裂活性の高い組織があります。形成層では内側へ木部の細胞を、外側へは師部の細胞を送り出しています。春から夏にかけては温度も適当なので分裂活性が強く,細胞の成長も早いので大きく細胞壁のうすい細胞群(早材、春材)が出来ますが、晩夏から秋にかけては分裂活性、細胞成長ともに低いので小さい細胞群が密にできます(晩材)。1年の肥大成長は春材と晩材のセットで、晩材と翌年の春材との境目ははっきりと見えます。これが年輪で、立体的な細胞の並び方を木理と言います。木部では中心(髄)に近いほど、師部では外縁(樹皮側)に近いほど古い(齢の進んだ)細胞群であることになります。問題は、形成層が木部と師部の細胞を新生するとき、若い樹木(樹齢数年程度まで)ではそれぞれの新生細胞は樹幹軸(樹木の高さ方向の軸、上下の軸)に並行するのがふつうですが、その後は新生細胞(師細胞ばかりでなく繊維細胞もあります)の長軸が樹幹軸に対してある角度を持って来ます。樹種によってこの傾斜角度、傾く方向は違います。これが続くとらせん状に細胞が並ぶ(回旋木理と言います)ことになり、次第に幹が捻れた形になります。捻れ方にはS型とZ型があり、樹種によっては年輪数が増加する(樹齢が大きくなる)につれZ型が次第にS型(あるいはその逆)に変化するものもあります。ソメイヨシノではS型の捻れが多く記載されていますが、樹齢、生育状態がほぼ同じ3つの異なった場所のカラマツ林(3つの林分)の調査では全体の平均はS型63%、Z型12%との結果ですが、この分布の割合は林分毎に違っています。樹齢とともにZ型からS型(その逆も)へ変換する個体もあると報告されています。また、広葉樹であるクスノキでは3年から8年おきに新生細胞がS型、Z型を交互に形成されます。木部最外層の繊維細胞の傾き度と樹皮表面に現れる紋様の傾き度との間には高い相関があることもアカエゾマツでは観察されています。ネジキもその例でしょう。
幹内部(木部、師部)に捻じれがある樹木に風が当たると、葉を茂らせた上部の枝が受ける風の力は主幹に集中し、主幹内に強い捻じれの応力が生じて圧縮される部分、引っ張られる部分ができます。材成長は応力に対応して成長増大するため樹幹の捻じれが増幅して見えるものとも思われます。応力に対応した材の成長増大は樹木に見られる「あて材」形成と関係あるかもしれません(あて材についてはこのQ&A登録番号1977を参照してください)。
最後に幹の捻れの意味ですが、風などによる外力で容易に破壊されない、栄養分、水の各部分への供給が円滑になる、などを挙げる論説もありますが、樹齢が小さく、外力に弱い幼植物では幹の捻れがすくない点、細胞壁セルロース繊維の向きも伸長する細胞、肥大する細胞、丸くなる細胞などで違い、その向きは細胞内表層微小管の配向に支配されていますので植物の生理的反応総合的な現れとも考えられます。定着した意義づけはないようです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-04-05