一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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高等植物に中心体について

質問者:   大学生   とーそん
登録番号5342   登録日:2022-03-05
この記事の2010年に書かれた話に、高等答植物は、中心体を持たない代わりに、ガンマチューブリンが微小管と結合しているとのことでしたが、2010年の話ということもありその後の研究で分かったことが気になりました。
また、なぜ高等生物は中心体をもたないように進化したのでしょうか?何か効率がいいことでもあるのでしょうか?
よろしく御願いいたします。
とーそん 様

本質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には細胞分裂の進化に強い関心をお持ちの神奈川工科大学の村田 隆先生から下記の回答文を頂戴しました。お役に立てばありがたいと思っております。

【村田先生からの回答】
中心体は、細胞内小器官のひとつで、細胞が分裂する時に2つに分離して微小管を生やし、紡錘体の極になります。中心体に含まれていて微小管を生やす働きをするのがガンマチューブリン(γ-tubulin)ですが、中心体を持たない植物細胞では、本コーナーの過去のQ&A(登録番号2210)に書かれているように細胞内の様々な場所にγ-tubulinが存在し、様々な場所で微小管を生やします。ご質問に対して、1)γ-tubulinが微小管と結合することについてわかったこと、2)高等植物はなぜ中心体を持たないように進化したのか、の順に回答いたします。

1)γ-tubulinが微小管と結合することについてわかったこと:
2005年に、高等植物の細胞ではγ-tubulinが微小管に結合し、そこから新しい微小管が生まれることにより微小管は枝状に増えていくことが見つかりました。これを「微小管枝分かれ」と呼ぶことにします。実は、枝分かれの発見で使われたのは紡錘体ができる時期の細胞ではありませんでした。微小管は紡錘体を作る以外にもいろいろな働きをしていて、分裂していない時期の細胞を細長く伸ばしたり、細胞板を作るのに働いたりします。登録番号2210の説明では紡錘体で微小管枝分かれが働くことが明言されていませんでしたが、γ-tubulinによる微小管の枝分かれが見つかった後、分裂する細胞で紡錘体や細胞板を作るときにも微小管の枝分かれが働いていることが証明されました。
もう一つの大きな研究の進展は動物細胞での微小管の枝分かれが発見されたことです。植物の細胞で微小管枝分かれが見つかった後、動物の紡錘体を作るときにも微小管枝分かれが働いているかが調べられました。その結果、動物の紡錘体では中心体によって作られる微小管に加えて、枝分かれによって作られる微小管もあることがわかりました。
まとめると、紡錘体で微小管をつくる仕組みには2つあって、1つは中心体によるもの、もう1つは枝分かれによるものということです。どちらもγ-tubulinが働きます。最近では、中心体と枝分かれに加えて、他の仕組みもあると言われています。

2)高等植物はなぜ中心体を持たないように進化したのか:
教科書にはあまり書かれていないのですが、中心体のはたらきは紡錘体の微小管を生やすことだけではありません。もう一つのはたらきは精子のべん毛を作ることです。動物の細胞では、精子ができるときに中心体からべん毛ができます。コケなどの一部の陸上植物でも精子を作る前の細胞分裂で中心体が現れ、娘細胞では中心体からべん毛ができて精子になります。
一方、花の咲く植物では精細胞は花粉管の中を通って卵細胞までたどり着き、べん毛を作ることはありません。花の咲く植物ではすべての細胞が中心体を持ちませんが、それはべん毛を作る必要がなくなったからだと考えられます。進化の一般原理として、使われないものは進化の過程で失われます。泳ぐ精子を作らなくなった花の咲く植物の祖先では、中心体はべん毛を作るのに使われなくなり、また、紡錘体を作るためには中心体は絶対必要なものではなかったので、やがて失われたものと想像されます。
村田 隆(神奈川工科大学応用バイオ科学科時空間細胞生物学研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2022-04-06