一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アントシアニンの金属元素による発色

質問者:   教員   nagashima
登録番号5353   登録日:2022-04-03
アントシアニンの金属元素による発色の変化を授業や部活動で行っています。この反応は、一般的に書かれていること以上に複雑な要因を含んでいると思いますが、代表的な色素の割には普段手に入る文献の内容はほとんど同じようなところでとまっており、自分が知りたいポイントが見つからず、質問させていただきました。現在、アントシアニンを含む植物材料を50%エタノールに濃塩酸を数滴加えた抽出液を使ってすりつぶしています。青色に発色させる金属元素として文献と自分の経験からアルミニウム元素が代表的と考え、試験管の抽出液に硫酸アルミニウムを加えて試験管内で変化を確認しています。花弁、果実、新芽、紅葉などいろいろと試して、変化が明瞭なものからそうでないものまで様々ですが、デルフィジン型のアントシアニンで青色への発色が顕著に思います。そのような傾向があるのでしょうか。加えて、植物の種や部位ごとにアントシアニンの種類や割合まで詳しくまとめた資料はあるのでしょうか。また、ツユクサは硫酸アルミニウムによく反応し、きれいな青色を示しますが、文献で調べたところ、ツユクサではマグネシウム元素が関係するとはっきり書かれています。しかし、硫酸マグネシウムを加えても青色への変化が全く見られず、アルミニウムに反応したことが不思議です。これまでの実験で加えたアルミニウム以外の金属元素は、硫酸アルミニウムに合わせてすべて硫酸○○の金属化合物です。以上、アントシアニンの発色への金属元素の関わりと実験方法についてご教示いただけましたら幸いです。
nagashimaさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
私どもの事情によりお答えが大変遅れたことをお詫びいたします。
植物色素にはいろいろな種類がありますが、お尋ねのアントシアニンの発色に関する点に限ってお答えします。しかしかなり複雑な状況ですので現在判っていることをごく簡単にまとめました。
ご承知のようにアントシアン色素はグルコースを主とする配糖体で発色団はアントシアニジン(アグリコン、母核構造)、強酸性の下ではフラビリウム型のカチオンとなり強い赤色を呈します。この型は極めて安定ですが弱酸性域、中性域、アルカリ域に変化するにつれて相互に変換しうる構造変化(主にプロトンや水分子のやり取りに基づく変化)が起きて吸収スペクトルも変化し紫色、青色、あるいは無色の物質を生じます。また、金属イオンの存在で錯体を形成し主に青色色素となります。そのうち無色の物質(水和型)は母核のC環が開環してカルコン型(ほとんど無色)となる不安定な物質です。結局、試験管内では弱酸性~アルカリ性域ではアントシアニン色素は無色化してしまいます。植物細胞内では液胞に集積されますが、液胞は弱酸性ですから遊離したアントシアニンだけでは不安定で、色素安定化の仕組みが提唱されています。すなわち天然のアントシアン色素では、1)発色団であるアントシアニジンは殆ど配糖体で存在する(糖はグルコースなど)、2)芳香環を持つ無色の有機酸(コーヒー酸、p-クマール酸など)が発色団あるいは糖部分に結合しているものがある、3)フラボン類が共存する、4)コハク酸、マロン酸などの酸性基が結合していることもある、5)金属イオンの存在でアントシアニジン母核が配位して青色の錯体を形成するものがあるなどの結果から、芳香環は近接すると疎水結合で会合するので、アントシアニジン同士の自己会合、アントシアニジンと芳香環有機酸との会合(Co-pigmentation、助色効果)で安定化ているとするものです。これらの会合形式はアントシアニジンと助色物質との組み合わせによって数種の安定型が考えられます。結果として液胞液のpH変化でも安定な赤、紫系統の色調が、金属錯体の形成で安定な青色が得られ、分子会合も色調に影響を与える可能性もあって、多様で、安定な色調が得られると思われます。これらの解釈は、ツユクサ花色素コンメリニンの機器分析、解析を駆使した構造決定で、Mgに配意したアントシアニジン、フラボン・芳香有機酸が規則正しく重層した巨大な分子(超分子)となっていることが証明されました。他の植物の花の青色色素の構造解析も同様に得られています。園芸上、アジサイでは土壌にAlを添加すると綺麗な青色花が得られることもその実体が解明されています。
アントシアニン系色素は殆ど表皮の液胞に局在しますが、液胞内に均一に色素が分布している場合のほか、液胞内に色素の集積塊が見られる場合が報告されています(アントシアノプラスト。最近ではAnthocyanin Vacuolar Inclusion: AVIと呼ばれています)。この色素塊の表面には膜系はないので、何らかの自己濃縮の仕組みがあるとされており、特殊なたんぱく質の共存も報告されています。
最後に、ご質問にあるような試み、植物組織を酸性エタノールで抽出した液に直接金属イオンを添加しても期待するような色調にならないのは、アントシアニジン発色団の濃度や共存するコピグメント(助色分子)の種類、濃度が適当でないことや夾雑物の存在で細胞内と同じような安定構造を取りにくいためかもしれません。

アントシアン色素の発色に関して沢山の解説がありますが、以下はご一読を勧めます。
いずれも、webに公開されており、“アントシアン色素”、あるいは題名、著者名(一部でも可)を検索子として検索すれば閲覧可能状態でみられます。

●“花の色はなぜ多彩で安定か アントシアニンの花色発現機構” 吉田久美、近藤忠雄
化学と生物 Vol.33, No.2, 91-99 (1995)

●“新たに解明された花色素アントシアニンの青色発色機構”  近藤忠雄・上田 実・吉田久美
有機合成化学協会誌:4巻 1号 42-53 (1996)

●“生理 活性植物因子アントシアニンの色と構造” 中川裕子・一柳考志、小西徹也、松郷誠一
Jpn. Soc. Colour Mater., 79 [3] , 113-119 (2006)
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-05-16
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