質問者:
自営業
植木屋
登録番号5377
登録日:2022-05-13
植物園で幹が全周環状剝皮状態の樹木を見ました。樹名札によればオオバコウバシ Lindera megaphyllaとなっていました。みんなのひろば
環状剝皮後に導管はどの程度の期間機能するのか
植木屋さん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
一般に樹木の枝を切り落とした場合、枝切り口の師部周辺で傷害に応答する癒傷反応が始まります。主に師部にある柔細胞が分裂を開始して細胞塊を形成(カルスとも言われます)し、コルク形成層も活性化されて膨大した組織を形成します。母体から師部を通じて供給される光合成産物や植物ホルモン類が師部切断部に蓄積し組織膨大に貢献していると考えられます。膨大部の表面は外樹皮に相当する組織となり師部切断口からの病原菌などの侵入を防ぎます。木部細胞は殆ど細胞分裂しませんから、癒傷細胞は木部切り口周囲を覆うようになります。広葉樹ではこのような枝の切り跡はしばしば見られます。ご質問のオオバコウバシの環状剥皮後の状態は特殊に思われます(添付写真RIMG3127、RIMG3133)。かなり年月が経った結果でしょう。私はこのような形状に膨大した組織は添付の写真で初めてみました。オオバコウバシは中国原産、長命で大木になるようです。日本では植物園、樹芸園あるいは薬草園などに植栽されているだけのようです。
さて、お尋ねの道管を主とする樹木の木部(二次木部)は形成層で内側(中心方向)へ作られ道管をはじめ繊維細胞、柔細胞などが気候の変化に伴って毎年、成長が早く大きな細胞からなる材組織、成長が遅く小さな細胞からなる緻密な材組織を造りながら幹は肥大成長し年輪を残します。ですから中心に近いほど古く、細胞は死んでリグニンなどが沈積して着色した強度の高い材(心材)となりますが、その外側に位置する新しい木部細胞層は生きていて水、栄養分の通路として働いています(辺材)。環状剥皮では形成層の外側、樹皮が除かれ、生きている辺材部分が露出しますが極端な乾燥状態でなければ維管束は根とつながっていますから水、無機栄養素の供給は継続します。チロース形成があるとしても、すべての道管がそのために閉塞されることはありません。剥皮部分より上にある葉からの光合成産物は根には供給されない状態になります。しかし、ご質問のオオバコウバシは環状剥皮部分より下、根がわに枝があり(添付写真RIMG3127)この枝で合成される光合成産物は根に供給されていますので根はその活性を多少失いますが正常に機能し続け、水、無機栄養分を残存枝ばかりでなく剥皮された部位より上のシュート部分にまで供給します。剥皮部より上のシュートへの水、無機栄養供給は制限されますから、その成長はかなり抑制されるはずです。その部分が枯死するか、生き残るかは根の活動が剥皮によってどの程度抑制されるかにかかっています。剥皮部分の下にある枝は枯死することはないと思いますので樹木個体としては生存するはずです。
枝部分の環状剥皮によって根の活動を抑制し、地上部の成長を制御することは果樹園芸や樹形を整える園芸技術の一つとして活用され果実の成長や品質を向上させる手段となっています。
ところで、問題のオオバコウバシは植物園にあるとのこと、どうして剥皮が起きたのか気になるところです。実験的に環状剥皮を施したにしては剥皮の幅があまりにも大きすぎる気がしますので野生動物に樹皮を食べられたのかもしれません。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
一般に樹木の枝を切り落とした場合、枝切り口の師部周辺で傷害に応答する癒傷反応が始まります。主に師部にある柔細胞が分裂を開始して細胞塊を形成(カルスとも言われます)し、コルク形成層も活性化されて膨大した組織を形成します。母体から師部を通じて供給される光合成産物や植物ホルモン類が師部切断部に蓄積し組織膨大に貢献していると考えられます。膨大部の表面は外樹皮に相当する組織となり師部切断口からの病原菌などの侵入を防ぎます。木部細胞は殆ど細胞分裂しませんから、癒傷細胞は木部切り口周囲を覆うようになります。広葉樹ではこのような枝の切り跡はしばしば見られます。ご質問のオオバコウバシの環状剥皮後の状態は特殊に思われます(添付写真RIMG3127、RIMG3133)。かなり年月が経った結果でしょう。私はこのような形状に膨大した組織は添付の写真で初めてみました。オオバコウバシは中国原産、長命で大木になるようです。日本では植物園、樹芸園あるいは薬草園などに植栽されているだけのようです。
さて、お尋ねの道管を主とする樹木の木部(二次木部)は形成層で内側(中心方向)へ作られ道管をはじめ繊維細胞、柔細胞などが気候の変化に伴って毎年、成長が早く大きな細胞からなる材組織、成長が遅く小さな細胞からなる緻密な材組織を造りながら幹は肥大成長し年輪を残します。ですから中心に近いほど古く、細胞は死んでリグニンなどが沈積して着色した強度の高い材(心材)となりますが、その外側に位置する新しい木部細胞層は生きていて水、栄養分の通路として働いています(辺材)。環状剥皮では形成層の外側、樹皮が除かれ、生きている辺材部分が露出しますが極端な乾燥状態でなければ維管束は根とつながっていますから水、無機栄養素の供給は継続します。チロース形成があるとしても、すべての道管がそのために閉塞されることはありません。剥皮部分より上にある葉からの光合成産物は根には供給されない状態になります。しかし、ご質問のオオバコウバシは環状剥皮部分より下、根がわに枝があり(添付写真RIMG3127)この枝で合成される光合成産物は根に供給されていますので根はその活性を多少失いますが正常に機能し続け、水、無機栄養分を残存枝ばかりでなく剥皮された部位より上のシュート部分にまで供給します。剥皮部より上のシュートへの水、無機栄養供給は制限されますから、その成長はかなり抑制されるはずです。その部分が枯死するか、生き残るかは根の活動が剥皮によってどの程度抑制されるかにかかっています。剥皮部分の下にある枝は枯死することはないと思いますので樹木個体としては生存するはずです。
枝部分の環状剥皮によって根の活動を抑制し、地上部の成長を制御することは果樹園芸や樹形を整える園芸技術の一つとして活用され果実の成長や品質を向上させる手段となっています。
ところで、問題のオオバコウバシは植物園にあるとのこと、どうして剥皮が起きたのか気になるところです。実験的に環状剥皮を施したにしては剥皮の幅があまりにも大きすぎる気がしますので野生動物に樹皮を食べられたのかもしれません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-05-19