一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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チューリップの水耕栽培の観察から

質問者:   教員   きうち
登録番号5381   登録日:2022-05-18
お世話になります。
昨年末からチューリップの水耕栽培を行っています。
球根を水につけ、毎週の水交換を行っています。
4月に花が咲き、茎から切って鑑賞しました。
球根のほうは葉をつけたまま水耕栽培を継続していました。
その後、葉の間に球根のようなものができ始めました。
また、根はひげ根状だったのですが、球根からもう一本太い緑の茎のような根が生えてきました。
観察を続けたところ、茎の間の球根は大きくなり、緑の根の先にも球根ができ、球根の横から新しい球根ができてきました。
これはチューリップの特性なのでしょうか。それとも、水耕栽培による特性なのでしょうか?
このような形態は初めてで大変興味深いです。
ご回答よろしくお願いします。

きうち様

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「チューリップの水耕栽培の観察から」にお答えします。
ご質問の内容は意外なものでしたが、お送り頂いた写真を拝見すると正しく観察されているので、大変珍しいものを報告して頂いたと思いました。それだけに回答には慎重になる必要がありましたので、チューリップに詳しい新潟大学農学部教授の岡崎桂一先生に助言を頂きました。特に、「葉の間にできた球根のようなもの」については十分に検討して頂きました。通常のチューリップ栽培でも葉腋にむかごができることが稀にあるそうですが、今回のものはそれとは異なる珍しいものということでした。以下、岡崎先生による回答です。

【岡崎先生の回答】
チューリップの球根はタマネギやニンニクなどと同じく鱗茎と呼ばれるものです。鱗茎は、茎が短縮した盤状の茎に、葉が変形、肥厚した鱗片が何層にもついたもので、最外層は鱗片が木質化し茶褐色の外皮になります。
チューリップの球根形成では、植え付けた母球根内部の茎の横に着生した球芽が主球根となります。その一つ外側の鱗片に第2の球芽が分化し、母球根の鱗片の養分や葉からの光合成産物を受けて肥大します(小球根)。質問者が観察した「球根の横から新しい球根ができて---」というのは、消耗した母球鱗片の中から現れた主球根と子球根であると思います。
次に、「緑の根の先にも球根ができ---」というのは、いわゆるドロッパー(垂下球)です。チューリップの球根は、乾燥高温から身を守るため、ドロッパーを形成し地中に一定の深さまでもぐる生来の性質があります。球根の貯蔵条件など複数の要因が関与しますが、一番の要因は球根に光があたることです。光があたるということは、球根が地上に出ていると判断し、地上の乾燥高温を避け、鱗片が変形した蔓状のドロッパーを地中深く伸ばし、好適な地中でドロッパーの先端に小球根を作るということです。水耕栽培で球根に光があたる条件であったことから、ドロッパー形成が促進されたと思われますが、球根生産では、ドロッパーの球根は大きくならず販売できないので疎まれます。ダーウィンハイブリット、ホステリアナ系統の品種は、ドロッパーが生じやすいです。
通常は、チューリップは球根で増やしますが、開花後、うまく花粉が雌しべの先につき、受精が起り蒴果ができると、取れた種子を播種し実生で増やすことができます。実生では1年目にはマッチ棒の先くらいの大きさの球根になり、その球根を、4〜5年栽培すると、球根が大きくなり開花に至ります。実生球の2〜3年間は必ずドロッパーになります。
葉の間に球根のようなものがでたということですが、オニユリ、ヤマイモは、地上部の茎と葉の間(葉腋)にそれぞれ葉や茎が肥大したむかごと呼ばれる小球根を付けます。また、ノビル、ニンニクは、茎頂部の花が集まった花序にむかごを付けます。チューリップでもオニユリと同様に葉腋にむかごをつけることがあり、球根生産農家の畑で稀に見ることができます。一方、今回質問があった葉の間にできた球根は、通常のむかごと異なり何らかの要因でドロッパー様の蔓が球根内の鱗片から上方に向かって伸び、その先端に球根ができたものと思われます。水耕栽培が誘因となった珍しい現象ではないでしょうか。
岡崎 桂一(新潟大学農学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
竹能 清俊
回答日:2022-06-06
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