質問者:
一般
まお
登録番号5385
登録日:2022-06-03
ニッコウキスゲやコバイケイソウはどうしてあのような大群落をつくるのでしょうか。
みんなのひろば
ニッコウキスゲ大群落の謎
まお樣
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。回答が遅くなってすみませんでした。ご質問の事柄は本学会の直接の守備範囲ではありませんので、植物群落の形成に詳しい東邦大学理学部生物学科植物生態学研究室の下野綾子先生と下野先生の紹介で上越教育大学自然系コースの谷友和先生に回答していただきました。
以下の回答は谷先生がまとめて下さったものです。
【谷先生の回答】
ニッコウキスゲやコバイケイソウが、亜高山帯の湿原や草原において大群落を形成する理由は、他種との競争力に優れているためだと考えられます。つまり、繁殖能力や環境適応能力が高いということです。ただし、「大群落」は形成するものの、多くの場合、単一種から成る「純群落」とまではいきません。これらの植物は大型で、かつ花が目立つため、遠くまで一面を埋め尽くしているように見えますが、よく観察すると群落内に他種が混ざっていることが多いのです。このことから、競争力が強いと言っても、他種を完全に打ち負かすほど強くはないと言えます。このような植物は優占種と呼ばれます。自然界のどんな植生にも、何かしら優占種が存在します。ニッコウキスゲやコバイケイソウの場合は、優占の度合いが高いということになります。
ニッコウキスゲやコバイケイソウの優占種としての強さは、無性繁殖(いわゆる株分かれ)にあると思います。両種とも地下部で緻密な根茎分枝を行い、個体がパッチ(小面積の集合体)を形成します。パッチ内は物理的に他種が入り込みにくいほど茎葉が密集し、1つのパッチだけを見れば、純群落の様相です。しかし、ある一つのパッチが広がって大規模な群落を形成するようなことはほとんどなく、大抵は湿原や草原内に大小さまざまなパッチがモザイク状に点在し、パッチとパッチの間に他の植物が混交しています。それら多数のパッチは有性繁殖によって種子が広範囲に散布された結果、形成されたものです。ニッコウキスゲやコバイケイソウが、ササやススキのように完全な純群落を形成しにくいのは、地下茎の構造的制約により、個々のパッチが水平方向に拡大する速度が遅いためではないかと私は考えています。
このような大群落の形成には特定のアレロケミカル(他の植物の成長を抑える物質)の分泌によるアレロパシーという現象が関係しているのではないかという考えを持たれるかもしれません。しかし、この2種の優占にアレロパシーが関係しているという報告は今の所見当たりません。ニッコウキスゲやコバイケイソウが完全な純群落を形成しにくい点や、これらが小規模にしか出現しない湿原や草原も見られる点、人間の介入なしで、湿原や草原の植生が短期間(数年〜十数年)で劇的に変化するような現象はほとんど見られないことなどを考慮すると、私はアレロパシー説には懐疑的です。かつてセイタカアワダチソウが外来種として侵入した時、急激な植生変化が観察され、アレロパシーの効果として騒がれました(現在ではそれに否定的な見方もあります)。しかし、それから数十年が経った今、セイタカアワダチソウの猛攻は抑えられ、ススキなどの在来植物が分布を取り戻している場所も多々見られます。このことを考えると、長らく日本に自生しているニッコウキスゲやコバイケイソウとそれらを取り巻く植物との間に強力なアレロパシーが存在し続ける可能性は低いのではないかと思います。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。回答が遅くなってすみませんでした。ご質問の事柄は本学会の直接の守備範囲ではありませんので、植物群落の形成に詳しい東邦大学理学部生物学科植物生態学研究室の下野綾子先生と下野先生の紹介で上越教育大学自然系コースの谷友和先生に回答していただきました。
以下の回答は谷先生がまとめて下さったものです。
【谷先生の回答】
ニッコウキスゲやコバイケイソウが、亜高山帯の湿原や草原において大群落を形成する理由は、他種との競争力に優れているためだと考えられます。つまり、繁殖能力や環境適応能力が高いということです。ただし、「大群落」は形成するものの、多くの場合、単一種から成る「純群落」とまではいきません。これらの植物は大型で、かつ花が目立つため、遠くまで一面を埋め尽くしているように見えますが、よく観察すると群落内に他種が混ざっていることが多いのです。このことから、競争力が強いと言っても、他種を完全に打ち負かすほど強くはないと言えます。このような植物は優占種と呼ばれます。自然界のどんな植生にも、何かしら優占種が存在します。ニッコウキスゲやコバイケイソウの場合は、優占の度合いが高いということになります。
ニッコウキスゲやコバイケイソウの優占種としての強さは、無性繁殖(いわゆる株分かれ)にあると思います。両種とも地下部で緻密な根茎分枝を行い、個体がパッチ(小面積の集合体)を形成します。パッチ内は物理的に他種が入り込みにくいほど茎葉が密集し、1つのパッチだけを見れば、純群落の様相です。しかし、ある一つのパッチが広がって大規模な群落を形成するようなことはほとんどなく、大抵は湿原や草原内に大小さまざまなパッチがモザイク状に点在し、パッチとパッチの間に他の植物が混交しています。それら多数のパッチは有性繁殖によって種子が広範囲に散布された結果、形成されたものです。ニッコウキスゲやコバイケイソウが、ササやススキのように完全な純群落を形成しにくいのは、地下茎の構造的制約により、個々のパッチが水平方向に拡大する速度が遅いためではないかと私は考えています。
このような大群落の形成には特定のアレロケミカル(他の植物の成長を抑える物質)の分泌によるアレロパシーという現象が関係しているのではないかという考えを持たれるかもしれません。しかし、この2種の優占にアレロパシーが関係しているという報告は今の所見当たりません。ニッコウキスゲやコバイケイソウが完全な純群落を形成しにくい点や、これらが小規模にしか出現しない湿原や草原も見られる点、人間の介入なしで、湿原や草原の植生が短期間(数年〜十数年)で劇的に変化するような現象はほとんど見られないことなどを考慮すると、私はアレロパシー説には懐疑的です。かつてセイタカアワダチソウが外来種として侵入した時、急激な植生変化が観察され、アレロパシーの効果として騒がれました(現在ではそれに否定的な見方もあります)。しかし、それから数十年が経った今、セイタカアワダチソウの猛攻は抑えられ、ススキなどの在来植物が分布を取り戻している場所も多々見られます。このことを考えると、長らく日本に自生しているニッコウキスゲやコバイケイソウとそれらを取り巻く植物との間に強力なアレロパシーが存在し続ける可能性は低いのではないかと思います。
下野 綾子/谷 友和(東邦大学理学部生物学科植物生態学研究室/上越教育大学自然系コース)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2022-06-20
勝見 允行
回答日:2022-06-20