一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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白い花が梅雨入り前後に多い理由

質問者:   一般   成男
登録番号5387   登録日:2022-06-06
5月から6月にかけて、カマツカ、ウツギ、コガクウツギ、ヤマボウシ、エゴノキ、ホオノキやアマドコロ、ドクダミ、ホタルブクロ、オカトラノオなど多くの草木が、他の季節に比較して、白い花(花弁でないものも含め)を咲かせるように感じます。「早春に黄色い花が多い理由」(登録番号2524)のように、何か理由があるのかお教えください。
成男 様

本Q&Aコーナーをご利用いただきありがとうございます。
例示されると確かにそのように見え、また、インターネット上などにも同様な記述が数多く見受けられます。もちろん、この時期に鮮やかな色彩の花を咲かせる草木もあります。この部分は余談ですが、今日、道端でホタルブクロの白い花を見つけたので観察すると、花筒の内側に紫色の斑点が多数散在し、強い匂いを発しておりました。

花が白く見えるのは可視光スペクトルの全域でほぼ均一に光が乱反射されていることを示しており、その主な原因はクロロフィル・カロテノイド・フラボノイド(アントシアニン)などの色素による光の吸収が少ないことにあると思われます。何らかの理由でこれらの色素の蓄積が抑えられている模様ですが、この白化現象が花弁など花の器官に限定的に現れることを考慮すると、その生理的な意味は受粉を媒介する昆虫による識別を助けることにあるのではないかと想像されます。梅雨入りの季節の濃い緑色を背景にした「白色」はコントラストが高く、昆虫による花の識別に役立っているのではないでしょうか。

なお、関連して留意すべきは、昆虫とヒトでは知覚される光の領域が異なる点です。ヒトの視細胞(3原色に対応する光受容細胞)による感知波長範囲はおおむね400~700nm(ナノメーター)、昆虫では種類によって大きく違う場合があるようですがおおむね300~600nmの範囲、興味深いのは多くの昆虫において紫外光(300~400nm)の領域に感度が高い種類の光受容細胞が備わっている点です。このため、分光反射特性(スペクトル)や成分分析のデータを確認しておりませんが、白化(たとえば、色素合成の抑制)に伴って紫外線吸収性の色素前駆体の蓄積が起こり、これが昆虫類の視覚に固有の感覚を生んでいる可能性を排除することはできません。しかし、紫外域に隣接する青紫色の領域においても光の吸収が強いと言うわけではないことから推測すると、ヒトと昆虫の視覚に共通する青~黄緑光(400~600nm)領域における吸収・反射の差だけからでも(ヒトの感覚で白色に見える花が)昆虫によっても緑の背景から識別されやすいのではないかと思われます。

本コーナーには花弁の色彩に関するQ&Aが、ご指摘の登録番号2524以外にも、多く掲載されておりますのでご参照ください(例えば、登録番号1678, 4227, 4925)。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-06-10
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