一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野菜や果物から食物繊維だけを取り出す方法

質問者:   高校生   らいと
登録番号5388   登録日:2022-06-06
私は今年度の課題研究でガゼイン(牛乳)プラスチックの強度向上について取り組みたいと考えています。ガゼインプラスチックの最大の弱点である強度を向上させるために、ガゼインプラスチックにパルプを混ぜると強度が上がったという先行研究があります。このことから、私はガゼインプラスチックに食物繊維を加えても強度を上げることができるのではないかと考えています。
そこで、野菜や果物から食物繊維だけを取り出す方法を知りたいです。できれば薬品などを使わない方法がありましたらありがたいです。
らいと様

植物Q&Aへようこそ。質問を歓迎します。
セルロースは、グルコースが多数つながって高分子化した化合物で、植物の細胞壁の主要成分として様々な植物の様々な部位に含まれています。野菜や果物にも、もちろん含まれていて、食品としてヒトに摂取されたものは、エネルギー源としては利用できないが、食物繊維として便通を助ける効果があるとされています。セルロースが多くの植物に含まれているといっても、植物繊維として使い勝手がいいかにどうか関しては、植物の種類やどの部分をどのように使うかによって様々で、さらに、それを取り出して人類の生活に利用しやすいかどうかとなると、利用できるものや利用方法は限られます。
わが国では、飛鳥-奈良時代に国家財政を支えるために、人民には租庸調が課せられましたが、この内の「調」は特産の農産物等の納入で、麻、絹、カラムシなどの繊維で作った布も含まれます。たとえば、東京都の「調布」という地名は、このような制度と結び付いていて、7世紀頃に朝鮮半島から渡来した高句麗の人々が、麻を栽培して多摩川でさらして、作った布を「調」として納めたことに由来するといわれます。これは、植物繊維を利用する技術としては、わが国では画期的なことでした。それ以前はどうかというと、縄文人の遺跡からアカソなどの茎の皮層がウルシに埋もれた形で出土した例があるとのことです。ウルシに固められていないものは、長い間に分解されてしまうので、情報は残っていませんが、おそらく、茎の皮の部分に繊維素を比較的多く含む植物の皮の部分が、何とかして衣服の素材として使われていたのではないかと推察されます。植物繊維は、植物に多量に含まれ、人類は、これを含む植物材料を、食物として摂取し、燃料や建築資材として古くから利用してきましたが、取り出したものを繊維として利用するに至るまでには、上記のようにかなりの年月がかかったことを示しています。
さて、陸上植物は様々な部分に繊維素を含んでいますが、それを取り出して加工用の繊維原料として利用できるかとなると、利用できる植物の種類と部位は限られており、取りだすこと自体も必ずしも容易ではないでしょう。昔の人は、コウゾや麻などの適切な原料植物を選び、植物の茎を煮て、皮の部分をはいだのち、そこからセルロース以外の部分をできるだけ取り除いて、得られる繊維を利用していました。ご質問のように、バイオプラスチックの原料として、セルロースを野菜から簡単に取れるというものではありません。
カゼインはミルクの主要なタンパク質で、樹脂状に固めたものも市販されていますが、これは、象牙状の光沢と硬さを持っています。カゼイン樹脂は脱脂粉乳から自分で作ることも可能でしょうが、加工に課題があるため、バイオプラスチックとしての利用は決して容易なものではありません。文献を調べてみると、カゼインの工業的利用として、非常に細かく砕いたおがくずに細かくしたカゼイン樹脂を混ぜ、床板ボードに成形したという報告がありますが、製作には160℃という高温でプレスしています。カゼイン樹脂と細かく砕いたおがくずを混ぜて、苗の移植用の植木鉢を作れば、植えた後は土壌中で分解されるので、好適なようにも思われますが、それにはプレス装置が必要です。
結論として、カゼイン樹脂を製造することは高校生レベルでも可能であろうが、その利用となると、上記のように加工装置が必要で、普通の高校では実施に相当な困難さが伴うと感じられます。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-06-16
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