一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の呼吸

質問者:   その他   かつ
登録番号0539   登録日:2006-02-25
樹木の呼吸の役割と意味がわかりません。

光合成はわかりますが酸素を吸ってどうしているのでしょうか?

教えてください。
かつ さま

樹木を含め全ての植物は太陽の光エネルギーを利用し光合成によって、空気中の二酸化炭素と根から吸収した水から有機物を合成でき、この点が動物と異なる最も大きな特長です。この植物の機能によって、私たちに食糧、木材を初めとする繊維、薬などなどの有機素材、エネルギーなどが供給され、さらに地球環境の保持にも役立っています。

しかし、光合成によってつくられる主な産物である糖がそのままで植物のいろいろな組織で多様な成分になるわけではありません。例えば、樹木の幹では葉で光合成によって作られた糖が幹の(形成層)に移動し、ここで新しい細胞がつくられ、幹の成分に作り変えられます。この様なとき、幹に多い細胞壁の成分であるセルロースやリグニンを糖から作り変えるためにはエネルギーが必要であり、そのエネルギーは糖を(酸素)呼吸によって酸化して生物のエネルギー通貨であるATPを生産し、これによって作り変えが進行します。ATPはこの他に、根からの無機養分の吸収、葉から根や新しい葉などへの光合成産物の移動、新しい組織の形成など、多くのエネルギーを必要とする過程に必要であり、そのためにいろんな組織で酸素呼吸が進行しています。葉の組織でも、昼間は光合成によってエネルギーを得ることはできますが(光のあるときでも僅かに呼吸によって酸素を吸収している)、夜間は光合成ができないため昼間の光合成産物を利用し酸素吸収によって細胞活動の維持に必要なATPを生産しています。動物が食物を酸素呼吸によって酸化し生きていく上に必要なATPを得ているように、植物は光合成産物である糖を酸素呼吸によって酸化し成長、植物体の維持に必要なエネルギーATPを生産しています。

このように樹木は、葉以外の組織では昼間でも、酸素呼吸によるATP生産が、樹木の成長、維持に欠かすことができません。樹木や作物がこれらのために酸素呼吸によって光合成産物である糖を消費する割合は、植物の種類によって異なりますが、少なくとも50%になります。観葉植物を光が余り強くない室内に長い間おいておくと次第に衰えてくるのは、呼吸による糖の消費が弱光の下での光合成による糖の生産よりも多くなり、酸素呼吸に必要な糖がなくなり、成長や植物体の維持に必要なATPを充分に生産できなくなるためです。
JSPPサイエンスアドバイザー
 浅田 浩二
回答日:2006-02-28
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