一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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去年と違うホウセンカの花の色について

質問者:   小学生   みのっち
登録番号5408   登録日:2022-07-14
去年育てた赤い花のホウセンカの種を植えました。すると、今年、赤い色に白い斑点がついた花が咲きました。なぜですか。教えてください。
みのっち さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ホウセンカの花、不思議ですね。
似たような質問が、このコーナーの登録番号3539, 1723にありますので、まずそれを読んでください。しかし、登録番号3539の可能性以外も考えられますので、それを付け加えます。実際の内容はかなりむずかしいので重なる内容になるかも知れませんが、もう少し判りやすく説明してみます。それでも、不思議だなと思う点がありましたら遠慮なく再質問してください。

生物の1個体はたくさんの細胞の集まりですが、各細胞は核の中に父親からと母親から受け継いだ遺伝子群のセットを持っています。父親や母親の遺伝子群は1つのまとまりではなく、遺伝子群が幾つかに分かれてそれぞれが染色体(遺伝子群の実体は糸のようなDNAという化学物質ですがこれに蛋白質が結合して太い紐状になったもの)と言う構造をつくっています。ホウセンカの場合、父親、母親の遺伝子群はそれぞれ7群に分かれていて、父親からの染色体7本、母親からの染色体7本、合計14本の染色体があることになります(2倍体です)。各親の同じ遺伝子群が作る染色体同士を相同染色体といい、生殖細胞(精細胞、卵細胞)形成の時には別々の細胞に分かれますので精細胞、卵細胞の染色体数は体細胞の染色体数の半分になります(1倍体、減数分裂と言う特殊な細胞分裂の結果です)。
遺伝という現象は両親の形質(生物の形、色、働きなどすべてをまとめて云う言葉)が次世代(子供)に伝わることで、その伝わり方には一定の法則があることをメンデル(チェコの僧侶であり植物育種学者)が見出し、今でも「メンデルの遺伝法則」としていろいろな遺伝現象の説明に活用されています。ただし、メンデルの法則は純系(ある形質について遺伝子組成が同じになった系統の生物、何度も戻し交配―ある形質に注目しながら近親交配を繰り返すこと-)をして得られます。通常の生物は殆ど雑種ですから花色の遺伝といえども単純な説明は困難な場合が多くがあります。
途中を省略しますが、生物の形質は遺伝子の働きでいろいろな姿として現れます。ここでは、素朴な意味の遺伝子、つまり細胞内の1つの生化学反応を起こす酵素(蛋白質から出来ています)を作る設計図との意味に使います。ところで多細胞生物個体の各細胞(体細胞)にある遺伝子群(つまり染色体)のセットはみんな同じです。それは、たくさんの細胞ももともと1つの細胞が分裂増殖して出来たものですから、最初の1つの細胞(受精卵の細胞、父親と母親とからそれぞれ染色体セットを受け継いでいます)と全く同じものがコピーのようにつくられてきたからです。ところが、すべての組織(同じ形、働きの細胞の集団)の形、働きは同じではありません。それは遺伝子のセットは同じでも、ある遺伝子が働くか働かないかは細胞のおかれた位置(隣の細胞との位置関係、縦に分裂したか横に分裂した結果)や外からの刺激の種類(栄養の偏り、栄養が十分か不十分か、酸素、水は十分か、明所にあるか暗所、日陰にあるか、他のものに接触したか、小動物などに傷をつけられたか、などなど)によって違うからです。その結果、丸い細胞、長い細胞、柔らかい細胞、硬い、丈夫な細胞などが出来たり、緑、赤、黄、無色の細胞が出来たりして個体の形態形成がおこなわれるのです。もう一つ重要なことは、個体の形成過程で起こる細胞分裂の過程で遺伝子が複製されるときに稀に間違いが起こることもあることです。間違った遺伝子を持った細胞が致死でなければ変異した遺伝子を持った細胞が加わりますから親とは違ったものになることがあります(紫外線や放射線などに照射されたときなどにおこります)。

前置きが長くなりました。市販のホウセンカには花が赤、桃、黄、紫、白の単色系統ばかりでなく部分的に白い色部分が入った系統が比較的安定している系統が多いようです。言い換えれば、花の色に関しては純系に近くなっている系統があるようです。
みのっち さんが赤い花の種子をいくつ蒔いたのか分かりませんが、1粒の種子を蒔いてご質問のような現象であれば登録番号3539に述べられているトランスポゾン(飛び回る遺伝子、いたずら遺伝子)による可能性は捨てきれません。しかし、複数の種子を蒔いて、すべての個体の花が赤に白い部分がはいったとするとトランスポゾンによる可能性は低いように思います。種子(実は次世代です)ができるときには受粉が必要です。ホウセンカ(ツリフネソウ科)は葉の付け根にある脇芽が花となりラッパ状の花は横向きに咲き(構造はかなり複雑です。次のサイトはご参考までに。 http://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/housenka.html )、送粉昆虫(マルハナバチなど)が受粉を助けていますので他の株の花粉がつく確率が高くなります。ホウセンカは開花した初期の雌しべは雄しべに包まれて柱頭は露出していません(受粉できません)。雄しべは花粉を出してから間もなく落ち、その後に雌しべの柱頭が露出しますから、自分の花の花粉を受粉する機会は無く、殆どが他の株の花粉を受粉(他家受粉)することになります。受粉した株の花は赤くても、花粉親の花の色は分かりません。この時、花粉親が赤に白い部分を持つ花であれば、みのっち さんが蒔いた種子はいわゆる雑種で、それを蒔いても母親の赤花だけが出るとは限りません。ホウセンカは1つの花にたくさんの種子をつくります。1本の雌しべの下部にある子房内には卵細胞を持つ胚珠がたくさんあり(トマト、カボチャ、豆類などと同じ)各卵細胞は1個の花粉から発芽した花粉管内に送られた精細胞と融合して種子を形成します。昆虫が運んでくる花粉つまり父親の遺伝子群は他の株の遺伝子群で、極端な場合いろんな株の花でつくられたものの混合物ですから、出来たたくさんの種子の父親は全部が同じではない可能性が高いものです。したがって、1つの赤い花から出来たたくさんの種子を全部蒔いたら、母親と同じ赤花のほかに花粉親の形質を持った白い部分のある花が混ざってでるでしょう。もしも、みのっち さんが1粒の種を蒔いたのであれば、たまたま、花粉親の形質が現れたとみるべきです(この部分はメンデルの法則の中の分離の法則に基づいたものです)。

みのっち さん、植物の観察で不思議だなと思うことがあったらほかではどうかな?、と調べていくと興味が深まってきます。今はインターネットで調べることが容易に出来ますし、この植物Q&Aコーナーでも「ホウセンカ」、「花色」を検索するとかなり沢山の解説を見ることも出来ます。それらの情報(新しい知識)を基にして、不思議を解決する実験を計画することが出来ます。そこで実験をする(植物に問いかける)と植物は必ず返事をしてくれます。今回のご質問の中身は「遺伝」の本質を理解する上で大いに役に立つと思います。諦めずに、頑張ってください。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-07-20
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