一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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山と海の栄養の循環はあるのか

質問者:   その他   chabalh90
登録番号5412   登録日:2022-07-20
 河川の護岸工事や森林の伐採の影響で沿岸海域に栄養が運ばれずに漁獲量に影響が出るとして問題になり、漁民が山へ赴き植林活動を各地で行っておられますが、その山への栄養の供給はあるのでしょうか?元来栄養元素の循環とはあったのでしょうか?それとも一方的に山から海へ流れていく一方なのでしょうか?
 人の手がなくとも山、それも河川に影響がある範囲の植物が元となる栄養など海と比較すれば微々たるものに感じます。それなのに人の手が加わるまでは無尽蔵に栄養が海に供給されていたかのような説明がなされているのが疑問です
 鮭が産卵のために遡上して死ぬなどの何らかの元素の移動がないと成立しない気がするのですが実際のところどうなのでしょうか?
chabalh90 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
海洋における生物生産を支えるのは第一次生産者としての植物性のプランクトン類で、光強度・二酸化炭素濃度・温度などの要因を別にすれば、その生育は栄養源となる無機塩類(栄養塩)に依存します。この栄養塩の源は、大きくは、雨水に溶けた形で陸地から供給される部分と、海底に沈んだ生物の遺骸などが可溶化されて海中で循環される部分に分けることができます。勿論、沿岸領域では河川を通して流れ込む雨水に含まれる成分が重要であることになります。

ところで、河川からの栄養の供給は一方的で、土地の隆起や火山活動によって地上に現れた岩石などに含まれる無機化合物が、植物の活動を中心とする生物の働きによって水に溶けやすい形に変化し、河川を通って運ばれ、これが植物性プランクトンの栄養となって海の生態系に寄与することになります。河川に至る水路は一般には陸地全体に広く行きわたっているので、海に流れ込む塩類の規模は甚大なものであると思われます。関連して特に重要なことは、植物の繁茂が岩石の風化による栄養化が及ぶ影響範囲を著しく拡大させ、また、土壌微生物の複雑な関与もあって海への塩類の供給を持続的なものとしている点です。このため、森林生態系の保護が海の生物資源の保全のために重要であることになります。とは言え、河川の部分的な護岸工事や森林の一時的な伐採などは、その規模によりますが、動物や植物の生育環境などに直接的に影響を与える範囲を除けば、運ばれる栄養塩の量の視点では河川全体の規模を考えると大きな部分とはならない場合が多いのではないかでしょうか。

逆向きの循環過程として、サケなどに代表される回遊魚の活動や魚介類を捕食する陸棲鳥類や昆虫などの生物による活動によって海から山への有機物の還流(最終的には、栄養塩化)も一定の規模で進行しております。しかし、河川の流れを通して供給される栄養塩の場合に比べると規模はかなり小さいのではないでしょうか。

なお、瀬戸内海のような開放性が比較的低い海での漁獲量の増減に関連して沿岸海域での「富栄養化」や「貧栄養化」が論じられているかと思います。この点に関して、実際に栄養塩がどの程度に変動しているかについて論じた論文を見付けましたので、参考のために下記にアドレスを記させていただきます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/engankaiyo/56/2/56_123/_pdf
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-07-28
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