質問者:
一般
もも
登録番号5416
登録日:2022-07-24
以前、光の波長と植物の発芽、成長の実験を行った際に気になる結果が得られました。使用した種子はシロツメクサのもので照射光はLEDライトを使用し、2週間ほど栽培して発芽、成長の様子を観察しました。(LEDライトは上方の中心部に設置しました)種子には水と適温、空気を与えてLEDライト以外の光は当たらないような装置を製作しました。実験を行うと、緑色光のみを照射した際にシロツメクサがLEDライトの方向、つまり、実験装置の上方中心部の方向に屈曲しました。植物の屈曲は青色光をフォトトロピンが受容したことによるオーキシンの濃度勾配が原因で発生すると学んだため、この結果に疑問を抱きました。植物の屈性
青色光のみを照射した際にはこのような屈曲は起こらず、茎が赤くなりました。
植物の屈曲は青色光をフォトトロピンが受容しオーキシンの濃度勾配が形成されること以外の要因でも起こり得るのでしょうか。また、今回の結果は何が原因となって発生したものであるのか教えていただきたいです。
もも 様
ご質問、有り難うございました。植物の光屈性(フォトトロピン研究の最先端)や環境応答の分子機構を専門とされておられます新潟大学の酒井達也先生に回答をお願いし、下記のコメントを頂きました。
【酒井先生の回答】
シロツメクサ芽生えの光環境応答を観察したとのこと、大変興味深く読ませてもらいました。まず緑色光で光屈性応答が観察されたことについて回答いたします。植物が光屈性を示すのは基本的には青色光ですが、緑色光でも光屈性が誘導される植物がいます。例えば、研究でよく用いられるシロイヌナズナの胚軸の場合、450 nm の青色光をピークに、長波長側は 550 nm の緑色光まで光屈性応答を示すという報告があります。この緑色光応答の光屈性はフォトトロピン依存的な反応であることがわかっています(脱線しますが、フォトトロピンは緑色光の波長を吸収して活性化することはまだ実験的に証明されておらず、光屈性における緑色光受容体が何か明確な回答はまだ得られていません)。LEDを用いた緑色光の場合、530nm 程度の波長をピークに500nm 付近の青色光に近い波長も含んだ光を照射しているのではないかと推測されます。そのため、緑色光LED を用いたシロツメクサ芽生えの光屈性でもフォトトロピン依存的な光屈性がおきているのではないかと推測されます。
もう一つの実験結果、「青色光では光屈性が観察されなかった」については悩ましく、自信のある回答はできません。しかし、一応「青色光が強すぎて光屈性応答を示せなかった」という仮説を思いつきました。「茎が赤くなっていた」ということですから、光が結構強く照射されていたのではないかと推測しています。光が強いとなぜ光屈性応答が弱くなるのか、原因は2つ考えられます。光屈性応答は光照射側と陰側の成長差(偏差成長といいます)によって屈曲が示されますので、ある程度、伸長反応を必要とします。青色光照射は胚軸伸長抑制を引き起こしますが、青色光が強すぎると伸長が著しく抑制され屈曲応答も観察しにくくなったのではないか、というのが考えられる原因の一つです。緑色光は胚軸伸長抑制効果が低いので、むしろ屈曲応答がよく観察されたのかもしれません。青色光が強すぎると光屈性応答が弱くなる原因のもう一つは、強い青色光を長い期間照射したときに光屈性が抑制されるようなプログラムが働いている可能性です。例えばフォトトロピンやその下流で働くシグナル伝達因子の光環境下での発現低下、フォトトロピンシグナル伝達活性化飽和など、さまざまな可能性が想定されます。緑色光ではこのような抑制プログラムが働かずに光屈性がよく観察されたのかもしれません。どちらにせよ同じ青色光でも光強度を下げると光屈性応答が観察できるのか、上記仮説を検証してみるのをおすすめします。同じ青色光光源を用いますが、ボリュームを下げる、距離を離す、青色のセロファンやNDフィルターを用いる、などの方法で光強度を下げてみてください。茎が赤くならない、胚軸伸長抑制がほとんどおきない程度の弱い青色光をおすすめします。また芽生えは発芽後若いほど光屈性応答が観察しやすいので若い芽生えで観察することもおすすめです。一般的なお話しになりますが、光は波長と粒、質と量、の2つの情報を持ちます。そのため生物の光応答の観察は、質(波長・色)だけでなく量(光強度)にも注目し観察してみると、またおもしろい考察ができるようになるかもしれません。
ご質問、有り難うございました。植物の光屈性(フォトトロピン研究の最先端)や環境応答の分子機構を専門とされておられます新潟大学の酒井達也先生に回答をお願いし、下記のコメントを頂きました。
【酒井先生の回答】
シロツメクサ芽生えの光環境応答を観察したとのこと、大変興味深く読ませてもらいました。まず緑色光で光屈性応答が観察されたことについて回答いたします。植物が光屈性を示すのは基本的には青色光ですが、緑色光でも光屈性が誘導される植物がいます。例えば、研究でよく用いられるシロイヌナズナの胚軸の場合、450 nm の青色光をピークに、長波長側は 550 nm の緑色光まで光屈性応答を示すという報告があります。この緑色光応答の光屈性はフォトトロピン依存的な反応であることがわかっています(脱線しますが、フォトトロピンは緑色光の波長を吸収して活性化することはまだ実験的に証明されておらず、光屈性における緑色光受容体が何か明確な回答はまだ得られていません)。LEDを用いた緑色光の場合、530nm 程度の波長をピークに500nm 付近の青色光に近い波長も含んだ光を照射しているのではないかと推測されます。そのため、緑色光LED を用いたシロツメクサ芽生えの光屈性でもフォトトロピン依存的な光屈性がおきているのではないかと推測されます。
もう一つの実験結果、「青色光では光屈性が観察されなかった」については悩ましく、自信のある回答はできません。しかし、一応「青色光が強すぎて光屈性応答を示せなかった」という仮説を思いつきました。「茎が赤くなっていた」ということですから、光が結構強く照射されていたのではないかと推測しています。光が強いとなぜ光屈性応答が弱くなるのか、原因は2つ考えられます。光屈性応答は光照射側と陰側の成長差(偏差成長といいます)によって屈曲が示されますので、ある程度、伸長反応を必要とします。青色光照射は胚軸伸長抑制を引き起こしますが、青色光が強すぎると伸長が著しく抑制され屈曲応答も観察しにくくなったのではないか、というのが考えられる原因の一つです。緑色光は胚軸伸長抑制効果が低いので、むしろ屈曲応答がよく観察されたのかもしれません。青色光が強すぎると光屈性応答が弱くなる原因のもう一つは、強い青色光を長い期間照射したときに光屈性が抑制されるようなプログラムが働いている可能性です。例えばフォトトロピンやその下流で働くシグナル伝達因子の光環境下での発現低下、フォトトロピンシグナル伝達活性化飽和など、さまざまな可能性が想定されます。緑色光ではこのような抑制プログラムが働かずに光屈性がよく観察されたのかもしれません。どちらにせよ同じ青色光でも光強度を下げると光屈性応答が観察できるのか、上記仮説を検証してみるのをおすすめします。同じ青色光光源を用いますが、ボリュームを下げる、距離を離す、青色のセロファンやNDフィルターを用いる、などの方法で光強度を下げてみてください。茎が赤くならない、胚軸伸長抑制がほとんどおきない程度の弱い青色光をおすすめします。また芽生えは発芽後若いほど光屈性応答が観察しやすいので若い芽生えで観察することもおすすめです。一般的なお話しになりますが、光は波長と粒、質と量、の2つの情報を持ちます。そのため生物の光応答の観察は、質(波長・色)だけでなく量(光強度)にも注目し観察してみると、またおもしろい考察ができるようになるかもしれません。
酒井 達也(新潟大学大学院自然科学研究科・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2022-07-29
山谷 知行
回答日:2022-07-29