質問者:
中学生
あい
登録番号5417
登録日:2022-07-26
夏休みの自由研究で松葉サイダーを作っています。松葉サイダー作りで酵母菌が砂糖を分解するときに葉の色は変色するか
瓶に松葉と砂糖水を入れて観察しています。
松葉の周りに酵母菌が砂糖を分解したときに出る炭酸ガスの気泡ができてきました。
よく見てみると、青いままの松葉の周りには気泡がなく、黄緑色に変色した松葉の周りにだけ気泡がついています。
酵母菌が砂糖を分解するときに、松葉を変色させているんですか?
前に小さいペットボトルで実験したときは、日向においたものは松葉の青い状態が長くつづいて、気泡はほとんどついてなかったけど、飲んでみたら炭酸になっていました。
日陰においたものは松葉がすぐに黄緑色になって、気泡がびっしりついていたけど、炭酸の強さは日向においたものとそれほど変わりがなかったです。
松葉を変色させているのは酵母菌なのか、日光に当たらないせいなのか知りたいです。
よろしくお願いします。
あい さん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
人類は、食品の食味を向上させたり保存性を高めたりするために、古くから、また世界の各地で、微生物を利用するさまざまな加工技術を発展させてきました。ブドウ酒はブドウの実から果汁を、リンゴ酒(シードル)は収穫後しばらく置いて柔らかくなった実を絞って得られる果汁中の糖分を、いずれも果実の表面に付着していた野生酵母が嫌気的に発酵することにより、アルコール性飲料を得ています。ヨーグルトは、乳酸菌が牛乳中の乳糖を嫌気的に発酵することにより得られます。これに使う乳酸菌は、かつては、野生のものからそれぞれの社会的集団が選抜し、保存したものが使われていました。わが国の漬物を例にとると、野菜の表面についている乳酸菌を利用して、たとえば、長野地方の野沢菜漬け、京都地方のすぐき、広島地方の広島菜漬けなどが作られていますが、いずれも野生の乳酸菌を使ったもので、気温がある程度低くなったころ、菜っ葉に食塩を加えて、空気があまり供給されないような条件下に置くと、野生の乳酸菌が優先的に繁殖し、その他の細菌やカビ(菌類)の生育が抑えられるように管理しています。
これらの野生微生物を使った発酵技術では、利用目的とする微生物以外のものも混在しているので、望ましい微生物が多数派を占めるように、発酵技術が高められてきました。
さて、ご質問の「松葉サイダー」ですが、主に松葉についている野生の酵母の働きによるが、そのほかに、酢酸菌や乳酸菌も多少関与している可能性が考えられます。インターネットで「松葉サイダーの作り方」を見ると、うまくいくという報告と、うまくいかなかったという報告が混在して居り、発酵技術的に、発展途上にあるように感じられます。
砂糖からアルコール発酵によって出るCO2量は、次のように見積もられます(高校で勉強する化学を先取りして説明しますので、分らないところは読みとばして、結論部分だけ見てください):
++++++++++++++++++++++++++++++
「説明」
砂糖324グラム(化学で物質量として1モルに相当します)は、酵母によって加水分解されて、結局、ブドウ糖(グルコース)360g(化学では2モルに相当します)になり、更に、ブドウ糖2モルが、アルコール発酵によって分解されると、エタノール(エチルアルコール)が4モル(184g)と炭酸ガス(CO2)が4モル(176g)できます。1モルの気体の体積は、気温摂氏0度、1気圧で、22.4Lであり、 室温では膨張して約25L なので、4モルのCO2は約100Lの体積だと計算されます。この100分の1(すなわち3.24グラム)の砂糖が、酵母のアルコール発酵によって分解される、それが全部気体となると、約1LのCO2が発生します。もっともCO2のかなりの部分は水に溶けて炭酸となるので、気体状態のものはわずかですが、発酵が進むと、それでもかなりの量が気体として出てくるでしょう。
「結論」3.24gの砂糖が酵母のアルコール発酵によって完全分解されると、約1LのCO2が発生する。CO2のかなりの部分は水に溶けているだろうが、それでも、かなりの量の気体が発生する。
+++++++++++++++++++++++++++
さて、500mL のペットボトルを濃度10%の砂糖水で満たすとき、松葉が占める体積やボトル上部の空間を考慮して液体の正味の量を400mLとすれば、これには40gの砂糖が含まれていることになり、この1/100、すなわち0.4gがアルコール発酵に利用されるとき生じる全CO2は約120mL と試算されます。
ご質問に戻り、
[夏休みの自由研究で松葉サイダーを作っています。
瓶に松葉と砂糖水を入れて観察しています。
松葉の周りに酵母菌が砂糖を分解したときに出る炭酸ガスの気泡ができてきました。
よく見てみると、青いままの松葉の周りには気泡がなく、黄緑色に変色した松葉の周りにだけ気泡がついています。
酵母菌が砂糖を分解するときに、松葉を変色させているんですか?]
に関して;
一部の葉が黄緑色となることは、可能性として次のことが考えられます。葉についていた乳酸菌がブドウ糖を嫌気的(無酸素的に)に分解して乳酸を作る可能性、または、酢酸菌が、酵母菌が作ったアルコールを酸化して酢酸に変える可能性。これらの微生物が旺盛に繁殖すると、その付近の松葉は酸性条件下にさらされ、クロロフィル分子のMgが外れてフェオフィチン(色は、べっこう色)となる。また、局所的に酸性となった個所では溶けていた炭酸が気体状のCO2となりやすい(炭酸水にレモン汁を入れるとCO2が気泡となってシュワッと出てくるように)。以上をまとめると、自然界には、酵母だけでなく、乳酸菌や酢酸菌がうようよしているので、松葉に付着していた乳酸菌が局所的に増殖し、ブドウ糖を乳酸に変える、あるいは酵母が作ったアルコールを、酢酸菌が酢酸に変える:このようなことが起こると、その近くが局所的に酸性化して、松葉は黄緑色となり溶けていた炭酸が気体として出てくる可能性が考えられる。
インターネット上の報告例を見ますと、多くの場合、きれいに洗った緑色の松葉をペットボトルにぎっしり詰め、砂糖を10%程度に加え、蓋をせずおくというやり方が多いようです。この時、ペットボトルを日光が当たるところに置くと良いという記述もあります。これは、切り花を長持ちさせるには、暗黒下よりも光が適度に当たる方が良いというのと同様に、松葉の細胞および葉緑体の寿命が光照射により伸びて、さわやかな香りを長期間保持しているのかもしれません。しかし、うまくいかなかったという報告も結構あります。
結論として、現状では、製造技術が、「ほとんどの場合うまくいくはずだ」というレベルにまでは達していないと感じられます。今後、うまくいったという例と、うまくいかなかったという例が蓄積されてくに行くにつれ、製造技術が洗練されていくのではないかと感じられます。
付記:この回答をまとめるにあたり、発酵・醸造学の研究が専門の藤井力博士(理学)(福島大学・食品化学コース教授)に大変お世話になりました。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
人類は、食品の食味を向上させたり保存性を高めたりするために、古くから、また世界の各地で、微生物を利用するさまざまな加工技術を発展させてきました。ブドウ酒はブドウの実から果汁を、リンゴ酒(シードル)は収穫後しばらく置いて柔らかくなった実を絞って得られる果汁中の糖分を、いずれも果実の表面に付着していた野生酵母が嫌気的に発酵することにより、アルコール性飲料を得ています。ヨーグルトは、乳酸菌が牛乳中の乳糖を嫌気的に発酵することにより得られます。これに使う乳酸菌は、かつては、野生のものからそれぞれの社会的集団が選抜し、保存したものが使われていました。わが国の漬物を例にとると、野菜の表面についている乳酸菌を利用して、たとえば、長野地方の野沢菜漬け、京都地方のすぐき、広島地方の広島菜漬けなどが作られていますが、いずれも野生の乳酸菌を使ったもので、気温がある程度低くなったころ、菜っ葉に食塩を加えて、空気があまり供給されないような条件下に置くと、野生の乳酸菌が優先的に繁殖し、その他の細菌やカビ(菌類)の生育が抑えられるように管理しています。
これらの野生微生物を使った発酵技術では、利用目的とする微生物以外のものも混在しているので、望ましい微生物が多数派を占めるように、発酵技術が高められてきました。
さて、ご質問の「松葉サイダー」ですが、主に松葉についている野生の酵母の働きによるが、そのほかに、酢酸菌や乳酸菌も多少関与している可能性が考えられます。インターネットで「松葉サイダーの作り方」を見ると、うまくいくという報告と、うまくいかなかったという報告が混在して居り、発酵技術的に、発展途上にあるように感じられます。
砂糖からアルコール発酵によって出るCO2量は、次のように見積もられます(高校で勉強する化学を先取りして説明しますので、分らないところは読みとばして、結論部分だけ見てください):
++++++++++++++++++++++++++++++
「説明」
砂糖324グラム(化学で物質量として1モルに相当します)は、酵母によって加水分解されて、結局、ブドウ糖(グルコース)360g(化学では2モルに相当します)になり、更に、ブドウ糖2モルが、アルコール発酵によって分解されると、エタノール(エチルアルコール)が4モル(184g)と炭酸ガス(CO2)が4モル(176g)できます。1モルの気体の体積は、気温摂氏0度、1気圧で、22.4Lであり、 室温では膨張して約25L なので、4モルのCO2は約100Lの体積だと計算されます。この100分の1(すなわち3.24グラム)の砂糖が、酵母のアルコール発酵によって分解される、それが全部気体となると、約1LのCO2が発生します。もっともCO2のかなりの部分は水に溶けて炭酸となるので、気体状態のものはわずかですが、発酵が進むと、それでもかなりの量が気体として出てくるでしょう。
「結論」3.24gの砂糖が酵母のアルコール発酵によって完全分解されると、約1LのCO2が発生する。CO2のかなりの部分は水に溶けているだろうが、それでも、かなりの量の気体が発生する。
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さて、500mL のペットボトルを濃度10%の砂糖水で満たすとき、松葉が占める体積やボトル上部の空間を考慮して液体の正味の量を400mLとすれば、これには40gの砂糖が含まれていることになり、この1/100、すなわち0.4gがアルコール発酵に利用されるとき生じる全CO2は約120mL と試算されます。
ご質問に戻り、
[夏休みの自由研究で松葉サイダーを作っています。
瓶に松葉と砂糖水を入れて観察しています。
松葉の周りに酵母菌が砂糖を分解したときに出る炭酸ガスの気泡ができてきました。
よく見てみると、青いままの松葉の周りには気泡がなく、黄緑色に変色した松葉の周りにだけ気泡がついています。
酵母菌が砂糖を分解するときに、松葉を変色させているんですか?]
に関して;
一部の葉が黄緑色となることは、可能性として次のことが考えられます。葉についていた乳酸菌がブドウ糖を嫌気的(無酸素的に)に分解して乳酸を作る可能性、または、酢酸菌が、酵母菌が作ったアルコールを酸化して酢酸に変える可能性。これらの微生物が旺盛に繁殖すると、その付近の松葉は酸性条件下にさらされ、クロロフィル分子のMgが外れてフェオフィチン(色は、べっこう色)となる。また、局所的に酸性となった個所では溶けていた炭酸が気体状のCO2となりやすい(炭酸水にレモン汁を入れるとCO2が気泡となってシュワッと出てくるように)。以上をまとめると、自然界には、酵母だけでなく、乳酸菌や酢酸菌がうようよしているので、松葉に付着していた乳酸菌が局所的に増殖し、ブドウ糖を乳酸に変える、あるいは酵母が作ったアルコールを、酢酸菌が酢酸に変える:このようなことが起こると、その近くが局所的に酸性化して、松葉は黄緑色となり溶けていた炭酸が気体として出てくる可能性が考えられる。
インターネット上の報告例を見ますと、多くの場合、きれいに洗った緑色の松葉をペットボトルにぎっしり詰め、砂糖を10%程度に加え、蓋をせずおくというやり方が多いようです。この時、ペットボトルを日光が当たるところに置くと良いという記述もあります。これは、切り花を長持ちさせるには、暗黒下よりも光が適度に当たる方が良いというのと同様に、松葉の細胞および葉緑体の寿命が光照射により伸びて、さわやかな香りを長期間保持しているのかもしれません。しかし、うまくいかなかったという報告も結構あります。
結論として、現状では、製造技術が、「ほとんどの場合うまくいくはずだ」というレベルにまでは達していないと感じられます。今後、うまくいったという例と、うまくいかなかったという例が蓄積されてくに行くにつれ、製造技術が洗練されていくのではないかと感じられます。
付記:この回答をまとめるにあたり、発酵・醸造学の研究が専門の藤井力博士(理学)(福島大学・食品化学コース教授)に大変お世話になりました。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-08-02