一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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陸上植物が水中にもぐると形がかわるのはなぜ?

質問者:   小学生   れんすけ
登録番号5429   登録日:2022-08-15
こんにちは、自由研究で水中にもぐれる陸上植物があるか実験しました。
とけてなくなった植物もありました。
形が変わってしまったけど、水中で成長する植物もありました。
水中で成長した植物はなんで形が変わったのかしりたいです。
本を探してもどこにも乗っていませんでした。

成長した植物は、タデとチドメグサです。
タデとチドメグサはすごく小さくなってしまいました。
れんすけ君

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。自由研究で面白いテーマも考えつきましたね。外国でもいくつかの陸上植物を完全に水に中で育てことに成功した例をYou Tubeで見せている人がいます。これはあとで述べましょう。
まず、植物にとって成長するためには何が必要かを考えて見ましょう。植物にも動物と同じように栄養の供給と酸素の供給(呼吸)が必要です。栄養の取り方は動物とことなっていて、植物は土壌に含まれているチッソ(N)、カリ(K)、リン(P)、カルシュウム(Ca)、イオウ(S)、マグネシュウム(Mg)、その他とそれが溶けている水とを根から吸収します。他方、空気中の二酸化炭素(CO2)を葉の表面にたくさんある気孔(キコウ)という小さな穴から取り入れます。そして葉にある葉緑素のはたらきで、光(のエネルギー)を使って根から吸い上げた水と二酸化炭素を材料にしてデンプンを作り(光合成と言います)、このデンプンを元に根が吸収したチッソなどの他の養分を使って、成長に必要なタンパク質や脂肪や他の化合物を合成します。それらの合成を可能にするエネルギーは、動物と同じように呼吸(酸素が必要)でつくりだします。
したがって、植物は温度が高すぎたり、低すぎたりしなければ、上の条件が満たされれば成長できます。植物は種類によっていろいろな環境にそれぞれ適した生き方をしています。ほとんどの植物は陸上植物ですが、中にはいわゆる水草と呼ばれる植物があります、その中で、種類は少ないですが、完全に水につかって生活する「沈水植物」があります。どんな植物(藻類は別です)があるか、「沈水植物」を図鑑やネットで調べてみてください。多くの沈水植物は、花は水面で咲かせますが、マツモ、カワゴゲソウなどは水中で花を咲かせます。
さてこれらの沈水植物はどうやって栄養と二酸化炭素と酸素の供給をしているのでしょう。実はこれらの植物は体の表面から水に溶けている養分と二酸化炭素と酸素を取り入れているのです。これらの植物はそのような取り込みができやすいように、葉などの表皮は薄くなっています。また身体全体で水と接する面積が多くなるような形態をとっています。水中に溶けている酸素のことは、オオカナダモの例で、本コーナー登録番号2774 で説明されていますので読んで下さい。
さて、そこで、れんすけ君の実験ですが、まずほとんどの陸上植物は水に浸かると、最終的には生き延びることはできません。植物体の一部が水から顔を出していても数ヶ月くらいがせいぜいのようです。完全に沈水していると1ヶ月もたてば死んでしまうようです。1ヶ月以上生き延びるものは極めて少ないようです。タデとチドメグサが沈水状態で長く生きられるかどうかはなんとも言えませんが、いずれ死ぬと予想されます。もし生き延びたら、体がその期間に沈水型に変わった(適応したと言います)ということで、普通では考えられません。もしそうだったら大発見ですね。
植物の中には水陸両方で生きられる種類がいくつかありますが、それらはもともとすでに遺伝的にそのような適応型の性質を持っているものです。したがって水中では形態も変わるし、光合成の働き方もかわってきます。タデとチドメグサはそういうタイプでは無いと思います。沈水状態で生き続けるためには、ただ形がちいさくなるとかではなくて、気孔から二酸化炭素や酸素を取り入れていたのを、葉などの表面から水中に溶けている状態のものをうまく吸収しなければなりません。しかも、仮にできたとしても、水に溶けている酸素や二酸化炭素の量は空気中よりも少ないのです。水温が高くなると溶ける気体の量も少なくなります。
一般に、植物は結構丈夫で、環境が変わってもある程度は生き延びる事が出来ます。どのくらい丈夫かは植物の種類とどんな環境に置かれているかでも違ってもきます。そういう条件のところで植物はなんとか生きているわけですから、正常な状態にはならないでしょう。植物を水に中に移した時、その植物が体の中にどれだけ栄養分を蓄えていたかでも異なります。もしたくさんの貯えがあれば、ある程度新しい葉を作ったり、茎を伸ばしたりできるでしょう。タデやチドメグサが小さくなったのは十分な栄養供給が出来ないからだと思います。陸上で育てている植物でも栄養供給が悪いと、一般に小さくて育ちます。
ツメクサとキツネノボタンは溶けてしまったというのは死んでくさったのでしょう。水は水道水だと思いますが。毎日取り替えていたのでしょうか。30℃も水温が高いと、バクテリアが繁殖するでしょうから、時間が経つにつれて成育環境はドンドン悪くなったと思います。多分植物も採取してそのまま使ったのでは無いでしょうか。植物体には無数の各種の微生物が付着しています。

最後にYou Tube の話をしましょう。これはポトスという観葉植物とピース・リリー(スパティフィルム)というどちらもサトイモ科の植物をつかっています。ピース・リリーはミズバショウのような花を咲かせます。どちらも園芸植物屋さんにあります。この人はどちらも沈水状態で育てています。土は使用しない。水に移す前に植物体を良く洗う。成長は水の中の方が遅い。ということです。英語の説明なので(テロップは出ますが)、どなたか分かる人に一緒に見てもらって下さい。ただし、これは科学的な実験の報告ではなくて、アマチュアが出しているものですが、写真を見る限り水中でそだっているようです。参考になるかもしれません。

Google で Growing land plants underwater (陸上植物を水面下で育てる)と検索してみて下さい。
https://youtu.be/7xpRkks8W3U
他にも同じようなサイトもあります。回答にも書きましたが、これは趣味の報告なのでちゃんとした研究報告ではありませんが、水中で育てるしかたの参考になるかもしれませんので紹介しました。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-08-17