質問者:
一般
fumi
登録番号5438
登録日:2022-08-21
山と植物に興味をもっているものです。晩秋から冬にかけて山などを歩いているとヤマコウバシの多量の枯葉が離脱せずに残っているのにびっくりしました。一般向けや(やや?)専門家向け書籍を読んだり、貴学会のQ&Aを拝見したり、その理由やメカニズムを知ろうとしています。その中で下記のような疑問が出てきました。みんなのひろば
離層を作らない植物の落葉メカニズムは?
よろしくお願いいたします。
植物Q&A、登録番号0326の回答に、「もっともはっきりとした離層をつくらない植物もあります。ブナ科のカシワ、・・・・」とありますが、このような植物(樹木)はどのようにして落葉するのでしょうか?
fumi様
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「離層を作らない植物の落葉メカニズムは?」にお答えします。
冬の間枯れた葉が落ちずに木に残っている現象は興味を引き、この質問コーナーにもいくつかの質問が寄せられています(登録番号0205, 0326, 2622などをごらんください)。この現象は離層を作らないので落ちないと説明されています。しかし、春になれば新しい葉と置き換わるので、落葉することは確かです。では、そのときどのようなメカニズムで落ちるのかというと、よくわかりません。離層形成によって切離されるのでないならば、風に吹かれて折れて落ちるのだろうと推測するのが自然です。葉ではありませんが、枝が落ちる現象はそのように説明されています(登録番号2259, 2352などをごらんください)。ヤマコウバシも春には落葉しますので、そのときに落ち葉を観察されるといいでしょう。折れて離脱したのならば、それらしき形状をしているのがわかると思います。
離層形成による落葉については多くの研究がありますが、離層を作らない植物の落葉のメカニズムについてはほとんど研究が無いようです。おそらく葉柄部分が折れて落ちるのでしょうが、そのような単純な内容では論文にならないので、公に広く共有される知識にはなりにくいのです。ですから、この問題に関しては論文や専門書を参考にすることは出来ず、自分の経験に基づいて考察するしかありません。私の知る範囲で似た現象であるオカヒジキの例を紹介しましょう。
オカヒジキは海浜植物ですが、野菜として栽培もされており、園芸店でタネを購入することができます。タネとして市販されているものの構造は少し複雑で、実際は花後硬く乾燥した花被に包まれた果実で、薄い果皮に包まれた種子が一つ中に入っています。この便宜的にタネと呼ばれているものは花が変形したものです。花や果実も葉と同じように離層を形成して親植物から切離されるのが普通です。しかし、オカヒジキのタネの場合は、親植物から簡単に切離されて落ちるものと、切離されずに親植物の枝に残るものとの二つのタイプが形成されます。これは、離層を形成して落葉するものと、離層を形成せず落葉しないものとの二つのタイプがあることと似ています。親植物の枝に残るものは、枝が枯れて折れたときに枯枝の断片についたまま落ちます。これは、離層を形成しない葉は折れて落ちると推測されることと似ています。これらの類似性は、ヤマコウバシなどの葉は折れて落ちるのだろうとの推測を支持すると言えそうです。
ちなみに、オカヒジキはタンブルウィードの一種です。タンブルウィードとは、西部劇でよく見かける、枯れた植物体がボールのように丸くなって、乾燥した野を風に吹かれて転げまわるものです。転げまわりながら種子を散布するとされています。オカヒジキの枯枝についたままのタネも、転げまわる過程で枝が折れて地に落ち、広い範囲に種子散布をして分布域を拡げるものと思われます。一方、親植物から簡単に切離されるタネは、親植物が育っていた生育に好適なことが保証されている場所に落ちて、確実に子孫を残すと考えられます。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
***
この回答に引用されている登録番号0205や登録番号0326には、「離層が完全にはつくられないためとも考えられます」「はっきりとした離層をつくらない植物もあります」とあり、離層をつくらない植物が数多く存在するように読めてしまいます。これは間違いです。登録番号5843に詳しい解説がありますのでご覧ください。登録番号2622も大変参考になります。
寺島 一郎・竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「離層を作らない植物の落葉メカニズムは?」にお答えします。
冬の間枯れた葉が落ちずに木に残っている現象は興味を引き、この質問コーナーにもいくつかの質問が寄せられています(登録番号0205, 0326, 2622などをごらんください)。この現象は離層を作らないので落ちないと説明されています。しかし、春になれば新しい葉と置き換わるので、落葉することは確かです。では、そのときどのようなメカニズムで落ちるのかというと、よくわかりません。離層形成によって切離されるのでないならば、風に吹かれて折れて落ちるのだろうと推測するのが自然です。葉ではありませんが、枝が落ちる現象はそのように説明されています(登録番号2259, 2352などをごらんください)。ヤマコウバシも春には落葉しますので、そのときに落ち葉を観察されるといいでしょう。折れて離脱したのならば、それらしき形状をしているのがわかると思います。
離層形成による落葉については多くの研究がありますが、離層を作らない植物の落葉のメカニズムについてはほとんど研究が無いようです。おそらく葉柄部分が折れて落ちるのでしょうが、そのような単純な内容では論文にならないので、公に広く共有される知識にはなりにくいのです。ですから、この問題に関しては論文や専門書を参考にすることは出来ず、自分の経験に基づいて考察するしかありません。私の知る範囲で似た現象であるオカヒジキの例を紹介しましょう。
オカヒジキは海浜植物ですが、野菜として栽培もされており、園芸店でタネを購入することができます。タネとして市販されているものの構造は少し複雑で、実際は花後硬く乾燥した花被に包まれた果実で、薄い果皮に包まれた種子が一つ中に入っています。この便宜的にタネと呼ばれているものは花が変形したものです。花や果実も葉と同じように離層を形成して親植物から切離されるのが普通です。しかし、オカヒジキのタネの場合は、親植物から簡単に切離されて落ちるものと、切離されずに親植物の枝に残るものとの二つのタイプが形成されます。これは、離層を形成して落葉するものと、離層を形成せず落葉しないものとの二つのタイプがあることと似ています。親植物の枝に残るものは、枝が枯れて折れたときに枯枝の断片についたまま落ちます。これは、離層を形成しない葉は折れて落ちると推測されることと似ています。これらの類似性は、ヤマコウバシなどの葉は折れて落ちるのだろうとの推測を支持すると言えそうです。
ちなみに、オカヒジキはタンブルウィードの一種です。タンブルウィードとは、西部劇でよく見かける、枯れた植物体がボールのように丸くなって、乾燥した野を風に吹かれて転げまわるものです。転げまわりながら種子を散布するとされています。オカヒジキの枯枝についたままのタネも、転げまわる過程で枝が折れて地に落ち、広い範囲に種子散布をして分布域を拡げるものと思われます。一方、親植物から簡単に切離されるタネは、親植物が育っていた生育に好適なことが保証されている場所に落ちて、確実に子孫を残すと考えられます。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-08-27
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この回答に引用されている登録番号0205や登録番号0326には、「離層が完全にはつくられないためとも考えられます」「はっきりとした離層をつくらない植物もあります」とあり、離層をつくらない植物が数多く存在するように読めてしまいます。これは間違いです。登録番号5843に詳しい解説がありますのでご覧ください。登録番号2622も大変参考になります。
寺島 一郎・竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
追記:2024-05-10
回答日:2022-08-27