一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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薄層クロマトグラフィでの色素の展開順について

質問者:   教員   pu-
登録番号5450   登録日:2022-08-31
この夏,自主研修会で,薄層クロマトグラフィーの実験を行いました。水を切った緑葉を無水硫酸ナトリウムで脱水しながら粉末にし,ジエチルエーテルで色素を抽出しました。ガラス毛細管でTLCシートにのせ,石油エーテル:アセトン=7:3で展開しました。
約20人分の実験結果がそろったのですが,ほとんどのシートで,クロロフィルaとbの間に黄色のバンドが出ました。通常見られるクロロフィルbの直下の黄色のバンド(ルテイン)は,見られるものと見られないものがありました。
室温が高かった(クーラーをつけて28度)ため,Rf値は,参考文献通りにならなくても,展開順(カロテン,クロロフィルa,クロロフィルb,ルテイン,ビオラキサンチン,ネオキサンチン)の展開順は変わらないと思うのですが,ルテインがクロロフィルbの上に出ることがありますか。クロロフィルaとbの間に見られた黄色のバンドをどのように考えるとよいのでしょうか。教えて下さい。ちなみに,クロロフィルbより下に出た黄色のバンドの数は1~3本とばらばらでした。
展開液は,使用直前に混合,展開瓶に分注しゴム栓をして展開液を充満させるようにしていました。分注から展開開始まで15分以上40分以内だったと思います。
よろしくお願いします。
pu-様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。今回利用された緑葉色素のTLCによる分離の手順は学校の実験で標準的に使われるものだと思います。薄層はアルミあるいはプラスティック基板の短冊状のものを使われたのでしょうか。展開溶媒の性質についてはすでにご存じのことと思いますが、一応説明しておきます。
石油エーテルは水と馴染まず(極性が低い)、アセトンは水にも馴染みやすい(極性が高い)溶媒です。この展開では、主に色素の極性の違いによって早く移動(上昇)ものと遅く移動するものが分離します。早く移動したものは移動度(Rf値)は高くなり、物質はRf値が異なります。β-カロテンはこの展開では一番早く移動します。
さて、実験の結果は典型的な色素分離ではなく、予想しないバンドが得られたという事ですね。まず、緑葉にどの植物の葉を使用したかということと、どの状態(若いか、加齢しているか、日陰のものかなど)の葉を使ったかということで、抽出されてくる色素あるいはその量は異なります。また、色素の抽出過程で色素が分解されることは大いにあり得ます。TLCで分離してくるバンドの色素の本体が何であるかは、厳密にはそのバンドから色素を溶出して同定しないと分かりません。ただ、クロロフィル a, b、カロテン、キサントフィルなどの一般的な色素は展開溶媒とその他の条件がきまっていれば、過去の数多の報告からRf値で推定することができます。
今回得られたクロロフィルaとbとの間に見られる黄色いバンドの正体がなんであるかは分かりませんが、多くの緑葉から検出されたとのことから緑葉の主成分キサントフィルであるルテインの可能性が高いと思います。おそらクロロフィルbの下の黄色いバンドはアンテラキサンチンと思われます。このキサントフィルは葉に強い光が当たると合成されます。
クロロフィルやカロテノイドの分解物は抽出中に光が当たったり、温度が高かったり、時間がかかったりなど抽出条件によって生じます。あるいは用いた材料の葉の状態によってもすでに分解物が含まれることもあり得ます。


追記:本回答は2022年10月17日に一部を改訂しました。
よろしくお願いいたします。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-09-05