質問者:
教員
hammr
登録番号5473
登録日:2022-09-21
以前も授業のことで質問させていただきました。またお世話になります。みんなのひろば
原形質復帰の実験について
高校生のクラスでよくある原形質復帰の観察実験をしているのですが、私自身化学の知識が乏しく、よく理解できていない部分があり、この機に質問させていただきたく、よろしくお願いいたします。。
①登録番号1999の質問で解答されている「スクロースは細胞に取り込まれやすく…」というのは、なぜなのでしょうか?素人考えでは、スクロースは極性分子ですし、分子量も大きいのでそうそう細胞内に取り込まれることは無いように思えるのです。実際、スクロース溶液で原形質復帰が起こっているのは、個人的に見たことがありません。もし取り込まれ易いとすれば、細胞膜のどこを透過して入ってくるのでしょう?水に溶けてアクアポリンを通過するパターンでしょうか?あるいは、スクロースに対応する輸送タンパク質があるのでしょうか?
②尿素で原形質復帰が起こったいる以上、尿素が細胞内に浸透しているのは間違いないとは思うのですが、結局のところ、尿素は細胞膜を透過しやすい、しにくい、どちらなのでしょう?少なくとも水よりはしにくいというのは分かります。(そうでないと原形質復帰以前に原形質分離が起こりませんよね?)
他の物質と比較しての話かもしれませんが、見る資料によって違っていて混乱しています。個人的には、尿素は極性分子ですし、親水性も高いので細胞膜の透過性は低いように感じます。それとも小さい分子なので細胞膜を時間をかければ通過できてしまうのでしょうか?
③②とも関係しますが、尿素が細胞内に浸透してくるとき、どこを通って細胞内に入ってくるのでしょう?受動輸送なのは分かりますが、水に溶けてアクアポリンを通過でしょうか?(アクアポリンの一部に尿素を通すものがあるという資料は読みました)それとも細胞膜を通過してくるのでしょうか?
色々一気に質問してしまって申し訳ありません。よろしくお願いいたします。
hammr様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
この質問にたいする回答は、大変専門的な知識を必要とするので、植物の無機栄養獲得・利用能力について研究している、大阪公立大学 農学研究科教授の高野順平博士(農学)に回答をお願いしました。
(付記:高野博士は、正確を期するため、回答の一部については東北大学農学研究科の小島創一博士に確認してくださったとのことです。)
【高野博士の回答】
たいへん鋭いご質問です。ありがとうございます。
Q① 登録番号1999の質問で回答されている「スクロースは細胞に取り込まれやすく…」というのは、なぜなのでしょうか?素人考えでは、スクロースは極性分子ですし、分子量も大きいのでそうそう細胞内に取り込まれることは無いように思えるのです。実際、スクロース溶液で原形質復帰が起こっているのは、個人的に見たことがありません。もし取り込まれ易いとすれば、細胞膜のどこを透過して入ってくるのでしょう?水に溶けてアクアポリンを通過するパターンでしょうか?あるいは、スクロースに対応する輸送タンパク質があるのでしょうか?
A① 細胞の種類にもよりますが、細胞膜にはスクロースに対応する輸送タンパク質があります。トランスポーターもしくはキャリアと呼ばれるタイプで、プロトン(水素イオン)の細胞内外の濃度勾配と電位差を利用してスクロースを細胞内へ積極的に取り込みます。
Q② 尿素で原形質復帰が起こっている以上、尿素が細胞内に浸透しているのは間違いないとは思うのですが、結局のところ、尿素は細胞膜を透過しやすい、しにくい、どちらなのでしょう?少なくとも水よりはしにくいというのは分かります。(そうでないと原形質復帰以前に原形質分離が起こりませんよね?) 他の物質と比較しての話かもしれませんが、見る文献資料によって違っていて混乱しています。個人的には、尿素は極性分子ですし、親水性も高いので細胞膜の透過性は低いように感じます。それとも小さい分子なので細胞膜を時間をかければ通過できてしまうのでしょうか?
A② ここでは輸送タンパク質がない場合を仮定してお返事します。尿素は電荷のない小分子で、細胞膜を構成する脂質二重層を受動拡散で透過しやすい分子です。おっしゃる通りでほかの物質に比較して透過しやすいということになります。スクロースも電荷を持ちませんが、比較的に大きいために受動拡散での透過はしにくいです。
Q③ ②とも関係しますが、尿素が細胞内に浸透してくるとき、どこを通って細胞内に入ってくるのでしょう?受動輸送なのは分かりますが、水に溶けてアクアポリンを通過でしょうか?(アクアポリンの一部に尿素を通すものがあるという資料は読みました)それとも細胞膜を通過してくるのでしょうか?
A③ 尿素は細胞膜の脂質二重層を受動拡散で透過するとともに、アクアポリンの仲間を通っても透過します。アクアポリンの仲間には水だけでなく電荷のない小分子も透過するものがあります。ただし実際の植物細胞の細胞膜で尿素の透過にアクアポリンの仲間がどの程度寄与しているかはよくわかっていません。
植物には尿素を細胞内へ積極的に取り込むトランスポーター/キャリアもあり、細胞種や条件によってこちらの寄与はかなり大きなものになることがあります。例えばシロイヌナズナの根の表層の細胞に発現する尿素のトランスポーターは、窒素欠乏で発現が増えて、尿素を与えたときに根に積極的に取り込む働きをします。
以上
*******************************
「結論」
以上のように、ある物質が植物細胞の細胞膜を透過する代表的な経路としては、①脂質二重層を濃度勾配に従って受動拡散によって透過する経路、②脂質二重層に埋め込まれたアクアポリンなどのチャネルを通って受動拡散により透過する経路、③脂質二重層に埋め込まれたトランスポーター/キャリアやポンプにより積極的に輸送される経路、の3つがあります。これら3つの経路がどの程度関与しているかについては、植物の種類とその細胞の種類と状態、透過溶質によって異なるようです。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
この質問にたいする回答は、大変専門的な知識を必要とするので、植物の無機栄養獲得・利用能力について研究している、大阪公立大学 農学研究科教授の高野順平博士(農学)に回答をお願いしました。
(付記:高野博士は、正確を期するため、回答の一部については東北大学農学研究科の小島創一博士に確認してくださったとのことです。)
【高野博士の回答】
たいへん鋭いご質問です。ありがとうございます。
Q① 登録番号1999の質問で回答されている「スクロースは細胞に取り込まれやすく…」というのは、なぜなのでしょうか?素人考えでは、スクロースは極性分子ですし、分子量も大きいのでそうそう細胞内に取り込まれることは無いように思えるのです。実際、スクロース溶液で原形質復帰が起こっているのは、個人的に見たことがありません。もし取り込まれ易いとすれば、細胞膜のどこを透過して入ってくるのでしょう?水に溶けてアクアポリンを通過するパターンでしょうか?あるいは、スクロースに対応する輸送タンパク質があるのでしょうか?
A① 細胞の種類にもよりますが、細胞膜にはスクロースに対応する輸送タンパク質があります。トランスポーターもしくはキャリアと呼ばれるタイプで、プロトン(水素イオン)の細胞内外の濃度勾配と電位差を利用してスクロースを細胞内へ積極的に取り込みます。
Q② 尿素で原形質復帰が起こっている以上、尿素が細胞内に浸透しているのは間違いないとは思うのですが、結局のところ、尿素は細胞膜を透過しやすい、しにくい、どちらなのでしょう?少なくとも水よりはしにくいというのは分かります。(そうでないと原形質復帰以前に原形質分離が起こりませんよね?) 他の物質と比較しての話かもしれませんが、見る文献資料によって違っていて混乱しています。個人的には、尿素は極性分子ですし、親水性も高いので細胞膜の透過性は低いように感じます。それとも小さい分子なので細胞膜を時間をかければ通過できてしまうのでしょうか?
A② ここでは輸送タンパク質がない場合を仮定してお返事します。尿素は電荷のない小分子で、細胞膜を構成する脂質二重層を受動拡散で透過しやすい分子です。おっしゃる通りでほかの物質に比較して透過しやすいということになります。スクロースも電荷を持ちませんが、比較的に大きいために受動拡散での透過はしにくいです。
Q③ ②とも関係しますが、尿素が細胞内に浸透してくるとき、どこを通って細胞内に入ってくるのでしょう?受動輸送なのは分かりますが、水に溶けてアクアポリンを通過でしょうか?(アクアポリンの一部に尿素を通すものがあるという資料は読みました)それとも細胞膜を通過してくるのでしょうか?
A③ 尿素は細胞膜の脂質二重層を受動拡散で透過するとともに、アクアポリンの仲間を通っても透過します。アクアポリンの仲間には水だけでなく電荷のない小分子も透過するものがあります。ただし実際の植物細胞の細胞膜で尿素の透過にアクアポリンの仲間がどの程度寄与しているかはよくわかっていません。
植物には尿素を細胞内へ積極的に取り込むトランスポーター/キャリアもあり、細胞種や条件によってこちらの寄与はかなり大きなものになることがあります。例えばシロイヌナズナの根の表層の細胞に発現する尿素のトランスポーターは、窒素欠乏で発現が増えて、尿素を与えたときに根に積極的に取り込む働きをします。
以上
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「結論」
以上のように、ある物質が植物細胞の細胞膜を透過する代表的な経路としては、①脂質二重層を濃度勾配に従って受動拡散によって透過する経路、②脂質二重層に埋め込まれたアクアポリンなどのチャネルを通って受動拡散により透過する経路、③脂質二重層に埋め込まれたトランスポーター/キャリアやポンプにより積極的に輸送される経路、の3つがあります。これら3つの経路がどの程度関与しているかについては、植物の種類とその細胞の種類と状態、透過溶質によって異なるようです。
高野 順平(大阪公立大学 農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2022-10-05
櫻井 英博
回答日:2022-10-05