一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

なぜ師管は色水に染まったのか

質問者:   中学生   かたつむり
登録番号5498   登録日:2022-10-20
私は先日、スプレーマムという花に色水を吸わせて、茎と葉と花の道管と師管の様子を観察するという実験をしました。

まず茎を4等分にして切り、そのうちの一つをサインペンのインクを使った赤色の色水。二つ目をサインペンのインクを使った青色の色水。三つ目を食紅を使った赤色の色水。四つ目を食紅を使った青色の色水に分けて入れました。
そして、この(https://shokubutsuseikatsu.jp/article/news/p/6735/)サイトで使用しているレインボーフラワーメーカーのようなものを作りました。
4等分した茎をそれぞれの色水に浸け、約7時間後に観察しました。
すると、茎の下部分が全て染まっていました。
吸い上げた水の通り道は道管と習っていたので、なぜ道管以外の師管や道管以外の部分も染まったのか疑問に思いました。
色水に付けていない部分も染まったので、茎が色水を吸い上げたことで、染まったのだと思います。
ちなみに花や茎は、まだ水がそこまで吸い上げられていなくて、染まっていませんでした。

なぜ道管以外の場所も染まったのでしょうか。
道管を通っていた水が師管にも染み出して、このような結果になったのでしょうか。
それとも茎から色水に入れたため、道管師管関係なく、茎全体が水を吸い上げたのでしょうか。
回答よろしくお願いします。
かたつむり さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
追加の情報を有り難うございました。

この種の試みにスプレーギクの花を利用することが適当かどうかは分かりませんが、提供された方法、結果の概要から推定出来ることを述べ、回答とさせて頂きます。
縦に4分割した茎の各分割部分を異なった色水に浸け花冠に多様な色彩を与えようとしたけれども茎全体が染色されてしまっただけ、と言うのが結果ですね。かたつむり さんは、道管に吸収されたはずの色水が篩管にも入ったために茎全体が染まったと解釈しています。しかし、限られた結果を見ると最大の原因は使用した色水の濃度が濃すぎたこと、処理時間が短いことだと思われます。
植物細胞は水になじみやすいセルロース、ペクチンなどを主体とする多糖類からなる細胞壁で包まれていて細胞壁で接着して組織、器官をつくっています。そのため根、茎、葉のすべての細胞は細胞壁を介した通路でつながっています。(この経路をアポプラスト経路と言います)。一方、生活活動を担っている原形質は隣の細胞の原形質とは、細胞壁を貫通する原形質連絡と言う特殊構造でつながっています。その結果、植物体には原形質同士もすべてつながっている経路をつくっています(この経路をシンプラスト経路と言います)。道管要素細胞、篩管要素細胞内を流れる液体はシンプラスト経路を通りますが、道管要素細胞が死んでつながった道管は毛細管そのものです。
さて、茎の下部を縦に4分割すると各分割片の切り口では、茎の髄(柔細胞です)、繊維細胞組織、維管束系、皮層(柔細胞です)などが露出します。これを濃度の高い色素液に浸けると柔組織は細胞壁が薄いので簡単に色素が拡散で入り、また細胞膜も各種の低分子物質を吸収する装置がありますので柔細胞内も染色される結果となります。そのため、茎全体が染まったのでしょう。また上方に向けてもアポプラスト、シンプラスト経路を通って移動していきます。照射光度が弱い(窓越し)ので蒸散作用が弱く、処理時間も7時間程度と短いために導管内を上昇する速さが遅くなって花まで達しなかった。と言ったことが私の推定です。食紅赤の場合、導管流に乗っているようにも見えます。もう少し長く観察すれば花までいくかも知れません。

最後に再度、実験を行う場合に気をつける点を幾つか挙げて見ます。
1) 花のついた枝の茎下部を切り取るとき切断する部分を水中に浸けて鋭利な刃物で切り取る。いわゆる水切りをする。
2) 茎下部は水中に浸したまま、改めて安全カミソリの刃などで切り口を茎に直角に整えてから縦に2分割して色素液に浸ける。縦に分割する茎の部分は、異なった2種の色水に浸漬することが可能な限り短い方がよい。
3) 食用色素のみを用いるが、濃度は予備実験を繰り返して最適濃度を予め決めておく。理科教室には上皿天秤があるはずなので、色素の重量濃度で決めておく。
4) 色素液を入れる容器は現在の試験管では大きすぎるので、もっと細く短いガラス管かプラスチック管とし複数の管は粘着テープなどでまとめる。必要な色素液量はせいぜい2,3ml位で済むと思われる。
5) 花まで色素液が移動する最後の力は花弁や萼の蒸散作用によるので、花の下に浸ける葉は多い必要は無いでしょう。ただし葉の蒸散は大きいのでそこまでは早く液は上昇する。
6) 光照射は制御できる方がよいのでLED光を用いたほうがよい。つまり照射装置を自作することがよさそう。段ボールの箱を使えば必要なのはLEDランプだけとなる。
7) インク色素(当然水性インク色素)は実験に適さない。インク自体が長時間安定した色調を保つこと、円滑に細いペン先を通ることなどが要求されるため安定剤として高分子物質などを添加している筈です。その組成は分かりませんが道管のような細い管をスムーズに通過しにくい恐れがあり、色素水吸収の実験には適当ではありません。食用色素には多くの色があります。
1回で成功する生物学実験はあまりありません。何度も工夫する必要がありますので頑張って成功して下さい。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-11-09