一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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花粉が黄色い理由

質問者:   一般   なおたろす
登録番号5501   登録日:2022-10-31
こんにちは。いつも楽しく拝見しております。

【なぜ花粉には、黄色いものが多いのか?】

こちらを質問させて下さい。

春の杉山に吹き抜ける黄色い風、
秋の堤防を黄色く染めるセイタカアワダチソウ

種横断的に「花粉は黄色い」というイメージがありますが、
その理由をご教示いただきたくご質問させて頂きました。

直接的な理由として、フラボノイドなどの生合成があるのかとも思います。

しかし、花弁の色彩がこれだけ多様ななかで、どうして花粉は黄色くなることが多いのでしょうか。

進化遺伝学的にも意味があることなのか、
他の色の花粉の有無や、基本的には無色である胞子との違い、機能面での多様性が関与しているのか、
関連研究などがあるのかと疑問が数珠なりに沸いてきます。

子どもに質問されて、さらに私自身ウェブサイト等で調べても明確な理由が分かりませんでした。

どうぞよろしくお願い申し上げます。
なおたろす様

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「花粉が黄色い理由」にお答えします。

 花粉の色は黄色系が多いようです。しかし、ロウバイやオオイヌノフグリ、アサガオとその近縁種など白色(というか無色)の花粉も少なくなく、ヤマユリやコオニユリの花粉は濃い赤褐色ですし、ダンギクやシデシャジンの花粉のような青色のものやクサギなどの紫色の花粉もあるそうです。佐々木正巳著「蜂からみた花の世界」にはミツバチが様々な植物種から集めた花粉団子の様々な色がカラーで示されていて参考になります。
 これらの色彩から想定されるように、花粉の色をもたらす色素は主にカロテノイドとフラボノイドです。これらの色素は花弁の色をもたらす色素と共通ですが、花弁の色の多様さに対して花粉の色に赤色系や青色系が少ないのは、アントシアニンが花粉には少ないからであろうと思われます。あるいは、アントシアニンそのものの含量ではなく、その発色に必要な有機酸や金属イオン、pHなどの細胞内環境が花粉では十分に整っていないのかもしれません。
 花弁の目立つ色彩は送粉者としての昆虫を引きつけて受粉の確率を高めるのに役立っているとされているように、花粉の色も昆虫を引きつけるとする説があります。花弁と比べると圧倒的に小さい花粉が花弁のように昆虫を引きつける目立った存在になりうるのか、昆虫を引きつけるなら黄色だけではなくもっと多彩であっていいのではないかとも思えます。しかし、受粉に昆虫を必要としない風媒花の花粉はカラフルではないとのことで、これは花粉の色も昆虫を引きつけるとする説を支持すると思われます。風媒花と思われる裸子植物の多くの花粉は確かに白色(無色)か薄い黄色です。しかし、マオウの花粉は鮮やかな黄色です。その黄色は非常に目立つので昆虫を引きつけるかもしれませんが、雌花(雌性球花)の方に昆虫を引きつける要因があるかどうかは私は知りませんので、マオウの受粉に昆虫が関与するかどうかは分かりません。
 一般にこれらの色素は有害な紫外線を吸収する防御機構としての機能があるとされており、花粉でも同様な役割があると言われています。アントシアニンなどは液胞の中に存在するので単細胞の花粉の中で核DNAを紫外線の暴露から守れるかどうかわかりませんが、花粉ではこれらの色素は外壁中に蓄えられる、あるいは、花粉表面を覆う脂質成分に溶け込んでいるとのことなので、そうであるならば紫外線防御機構としての機能を考えることができます。
 花粉の色の研究は少ないことと、「何の役に立っているのか?」という問いに対する仮説の検証は難しいことから、花粉の色の機能についての確かなことはよく分かりません。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-11-07
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