質問者:
自営業
中村
登録番号5502
登録日:2022-11-01
多肉植物(特にエケベリア)の発芽についての質問です。みんなのひろば
赤色光によるフィトクロムの活性化と発芽について
種の発芽条件には、水、温度、光があると思います。
その中で、光の部分でのお聞きします
エケベリアの種子は好光性種子だと思っていますが、間違いは無いでしょうか
好光性種子の発芽において、赤色光によってフィトクロムが活性化され、
発芽を引き起こすと、文献で調べました。
そこで 赤色光の光量と放射時間 種まき前と種まき後に違い等
エケベリアの発芽に最適な方法を教えて下さい。
一般的に言われているのは、直射日光を避け、明るい日陰がいいと成っていますが
自然光は季節、置き場所によっても、相違があると思います
今回 人口照明が利用出来ないかと考えご質問させて頂きました。
よろしくお願いします。
中村様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。光発芽種子(ヒカリハツガシュシ:植物学用語、「種」と書くと分類単位、種子あるいは一般ではタネ)のことについてはすでに調べておられると思いますが、最初に簡単に説明しておきます。
植物における光の刺激(信号)の受容体の一つはフィトクロム(タンパク質と結合している)です。フィトクロムが関与する形態形成、生理現象は何種類もありますが、その一つが種子の光発芽です。フィトクロムは可逆的な二つの型で存在します。一つはPr型で赤色光(660nm付近)を吸収して、もう一つのPfr型に変わります。Pfr型は遠赤色光(730nm付近)を吸収してPr型に戻ります。フィトクロムが関与する現象ではPfr型が活性型となります。Pfr型に変わるとその信号が遺伝子発現の経路に伝達されてそれぞれに特定現象をもたらします。例えば、レタスやアラビドプシス(セイヨウシロイヌナズナ)などの光種子発芽の場合はPfr型は植物ホルモンのジベレリンの合成を促し、ジベレリンが発芽を開始させます。
しかし、自然界では赤色光だけとか遠赤色光だけとかいう条件はありませんので、フィトクロムはPr型、Pfr型が混合して存在しているのが一般的です。自然光には各種波長の光が混じっています。ただし、環境条件によって赤色光/遠赤色光の比(エネルギー)は一定ではありません。つまり、一般には植物体内に存在するフィトクロムは両者の型で混在しており、その平衡比が問題になりなる場合もあります。
フィトクロム反応は光合成のように光のエネルギーを捕獲する反応ではなく、光を信号として受容する反応ですから、強い光のエネルギー(強光とか、長時間照射)は必要ありません。実験で用いられるレタスの種子などは5W程度の弱い赤色光(赤いセロファンのようなもので覆っても良い。)を1分くらい当てるだけで十分です。ただし、種子は吸水させておくことが必要です。赤色光照射後すぐに暗黒条件におけば発芽します。もし、赤色光照射後すぐに遠赤色光を照射すると、赤色光効果は打ち消され発芽しません。これは繰り返しても同じです。
さて、ご質問のエケベリア(Echeveria属)のことですが、エケベリア属には3500を超す種(species)がありますので、どれを指しておられるのかわかりませんが、多肉植物でもそれぞれ生育している生態的環境は同一ではありませんので、発芽の条件にも違いがあるかもしれません。データのある限りサボテン科の植物は光発芽のようですが、ユッカの仲間は暗所を好み、リュウゼツランの仲間は明暗関係なしのようです。
エケベリア属の種子発芽について研究論文があるか調べてみましたが、残念ながら見つかりませんでした。ただ、栽培繁殖方法としての種子発芽に関する記載は内外のWEB上にも多く、御指摘のようにいずれも発芽は光があるほうが良いとされています。赤色光/遠赤色光照射実験はなされていないのでわかりませんが、おそらくフィトクロムが関与していると思われます。直射日光を避けるということは多分直射日光の中に遠赤色光が含まれていて、Pfr型の一部がPr型に戻ってしまうからかもしれません。
もし育てておられるエケベリアの種子発芽がフィトクロム依存であると言う前提で実験をされるならば、以下のようにされたらどうでしょうか。
1)採取したエケベリア種子を十分乾燥し、冷暗所に保管する。
2)シャーレかそれに代わる入れ物にキッチンタオルのようなものを敷き、そこに種子をばらまく。
3)上記に水を加え、箱の中などの暗黒条件において、種子に吸水させる。
4)種子が十分吸水したら、なるべく暗い部屋で、前記のような装置で赤色光を数分照射する。
5)照射後再び暗黒にお置く。
6)エケベリアの発芽のための適温は知りませんが、20〜25℃くらいではないかと思いますので、室温で良いと思います。
7)何日くらいで発芽するかわかりませんが、発芽したら適当な培地に移植したら良いでしょう。
以上です。試してみてください。
なお、フィトクロムと種子発芽の関係は本コーナーの登録番号1183, 2690を参考にして下さい。
また、「みんなのひろば」の解説・エッセイコーナー(https://jspp.org/hiroba/essay/)で「植物が光を感じる仕組み」を読んで下さい。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。光発芽種子(ヒカリハツガシュシ:植物学用語、「種」と書くと分類単位、種子あるいは一般ではタネ)のことについてはすでに調べておられると思いますが、最初に簡単に説明しておきます。
植物における光の刺激(信号)の受容体の一つはフィトクロム(タンパク質と結合している)です。フィトクロムが関与する形態形成、生理現象は何種類もありますが、その一つが種子の光発芽です。フィトクロムは可逆的な二つの型で存在します。一つはPr型で赤色光(660nm付近)を吸収して、もう一つのPfr型に変わります。Pfr型は遠赤色光(730nm付近)を吸収してPr型に戻ります。フィトクロムが関与する現象ではPfr型が活性型となります。Pfr型に変わるとその信号が遺伝子発現の経路に伝達されてそれぞれに特定現象をもたらします。例えば、レタスやアラビドプシス(セイヨウシロイヌナズナ)などの光種子発芽の場合はPfr型は植物ホルモンのジベレリンの合成を促し、ジベレリンが発芽を開始させます。
しかし、自然界では赤色光だけとか遠赤色光だけとかいう条件はありませんので、フィトクロムはPr型、Pfr型が混合して存在しているのが一般的です。自然光には各種波長の光が混じっています。ただし、環境条件によって赤色光/遠赤色光の比(エネルギー)は一定ではありません。つまり、一般には植物体内に存在するフィトクロムは両者の型で混在しており、その平衡比が問題になりなる場合もあります。
フィトクロム反応は光合成のように光のエネルギーを捕獲する反応ではなく、光を信号として受容する反応ですから、強い光のエネルギー(強光とか、長時間照射)は必要ありません。実験で用いられるレタスの種子などは5W程度の弱い赤色光(赤いセロファンのようなもので覆っても良い。)を1分くらい当てるだけで十分です。ただし、種子は吸水させておくことが必要です。赤色光照射後すぐに暗黒条件におけば発芽します。もし、赤色光照射後すぐに遠赤色光を照射すると、赤色光効果は打ち消され発芽しません。これは繰り返しても同じです。
さて、ご質問のエケベリア(Echeveria属)のことですが、エケベリア属には3500を超す種(species)がありますので、どれを指しておられるのかわかりませんが、多肉植物でもそれぞれ生育している生態的環境は同一ではありませんので、発芽の条件にも違いがあるかもしれません。データのある限りサボテン科の植物は光発芽のようですが、ユッカの仲間は暗所を好み、リュウゼツランの仲間は明暗関係なしのようです。
エケベリア属の種子発芽について研究論文があるか調べてみましたが、残念ながら見つかりませんでした。ただ、栽培繁殖方法としての種子発芽に関する記載は内外のWEB上にも多く、御指摘のようにいずれも発芽は光があるほうが良いとされています。赤色光/遠赤色光照射実験はなされていないのでわかりませんが、おそらくフィトクロムが関与していると思われます。直射日光を避けるということは多分直射日光の中に遠赤色光が含まれていて、Pfr型の一部がPr型に戻ってしまうからかもしれません。
もし育てておられるエケベリアの種子発芽がフィトクロム依存であると言う前提で実験をされるならば、以下のようにされたらどうでしょうか。
1)採取したエケベリア種子を十分乾燥し、冷暗所に保管する。
2)シャーレかそれに代わる入れ物にキッチンタオルのようなものを敷き、そこに種子をばらまく。
3)上記に水を加え、箱の中などの暗黒条件において、種子に吸水させる。
4)種子が十分吸水したら、なるべく暗い部屋で、前記のような装置で赤色光を数分照射する。
5)照射後再び暗黒にお置く。
6)エケベリアの発芽のための適温は知りませんが、20〜25℃くらいではないかと思いますので、室温で良いと思います。
7)何日くらいで発芽するかわかりませんが、発芽したら適当な培地に移植したら良いでしょう。
以上です。試してみてください。
なお、フィトクロムと種子発芽の関係は本コーナーの登録番号1183, 2690を参考にして下さい。
また、「みんなのひろば」の解説・エッセイコーナー(https://jspp.org/hiroba/essay/)で「植物が光を感じる仕組み」を読んで下さい。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-11-05