一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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陽葉と陰葉の形成に関する光の色

質問者:   教員   さるすべり
登録番号5503   登録日:2022-11-01
質問させて頂きます。課題研究で陽葉と陰葉の形成に光の色がどのように関係しているか研究しています。実験1ではLEDの白色光の強光と弱光の下でヤナギの枝を水に挿して、水耕栽培しました。結果、生じた葉の長さ、幅ともに弱光のものが大きくなり、陰葉を形成できました。実験2では、白色LEDを簡易分光器で見ると7色の光から成り立っており、どの色の光が葉の大きさに影響を与えるのか調べました。光量子束密度を揃えた赤色光と青色光の下でヤナギを水耕栽培したところ、赤色光で小さく、厚みがあり、緑色が濃い葉が形成されました。一方、青色光では自然状態でのヤナギの葉とよく似た葉が形成されました。また実験3で赤色光の割合を100%、75%、50%、25%にしてヤナギに与えた所、赤色光の割合が小さくなるにつれ、葉の大きさが大きくなりました。このことから、自然では日向は赤色光が多いために葉が小さくなり、日陰では上層の葉が赤色光を吸収するため、赤色光の割合が減少して、葉が大きくなったと考えました。そこで質問です。光の色が葉の大きさに影響を与えるという論文はありますか。また、赤色光受容体と葉の大きさの関係について示す研究はありますか。ご教示ください。
さるすべり 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
「水に挿したヤナギの切り枝」は実験材料としては不安定に思えますが、明快に結論が導かれるような結果が得られた模様ですね。
質問1で、光の色が葉の大きさに影響を与えるという論文はあるかと聞かれていますが、関連する論文はたくさんあります(回答)。葉は遺伝情報に基づいて作られますが、その形成過程は環境要因によって大きく左右されるので、一本の樹木を構成する葉においても一枚として同じ形や大きさのものはないのが実態かと思います。環境要因の中で光は最も重要な因子の一つで、光と言えばその色(光受容体)が問題となり、この点は以前から研究者の関心ごとになって来ました。その結果として、「フィトクロム」・「クリプトクロム」・「フォトトロピン」などの光受容体とその遺伝子が同定されて行きました。

例えば「Google Scholar」で、(light quality)と(leaf size)をキーワードにして検索されると、数多くの関連する論文が見つかります。葉の発達の調節と光量・光質・フィトクロムとの関係について包括的に記述した総説として、少し古いものですが、次のもの(文献1)が参考になるかと思います。ある特定の植物を中心にして解析が進んでいる葉の発達に関する比較的最近の文献例として(文献2)を挙げさせていただきます。
(文献1)J. E. Dale(1988)The control of leaf expansion. Ann. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. Volume 39, Pages 267-295.
(文献2)H. Tsukaya (2013)Leaf development. The Arabidopsis Book(https://doi.org/10.1199/tab.0163).

質問2で、赤色光受容体と葉の大きさの関係について示す研究はあるかと聞かれていますが、赤色光受容体の代表は「フィトクロム」で、例えば下記の論文で示される研究が一例になるかと思います。
(文献3)A. Romanowski et al.(2021)Phytochrome regulates cellular response plasticity and the basic molecular machinery of leaf development. Plant Physiol., Volume 186, Pages 1220-1239.

陽葉と陰葉の形成に関する光の色について解析しておられるとのこと、陽葉と陰葉については本質問コーナーでいろいろな角度から扱われていますのでご参照ください(例、登録番号4353)。関係して来るかもしれない青色光と植物の成長との関係については登録番号3015などをご参照ください。

考察で、「上層の葉が赤色光を吸収するため、日陰では赤色光の割合が減少する」旨のことが書かれていますが、この事実については、ご自分で観測されるか、信頼できる文献で確認されることをおすすめします。実験においては、照射する光の強度や照射光源の発光スペクトルが問題になると思いますのでご注意ください。

以上、質問への形式的な回答になっておりますので、内容に至る更なるご質問がございましたら再質問の形でこのコーナーをご利用ください。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-11-06