質問者:
大学生
あーる
登録番号5507
登録日:2022-11-12
テレビで植物は共生している菌の菌糸から窒素、リンと別に炭素化合物を吸収できることを知りましたが、それはどういう仕組みで実現されているのかについて教えていただきたいです。
みんなのひろば
菌従属植物はどうやって炭素化合物を吸収しているんですか?
あーる様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生態系を物質循環の視点から全体的に眺めれば、植物(生産者)が光合成によって地球生態系に有機化合物を供給し、動物(消費者)が植物を食べ、植物の枯れ葉や動物の排泄物や遺骸を昆虫やカビ、細菌、菌類など(微小消費者、または分解者という)が食べて、最終産物はCO2として、また、無機化合物として環境中に排出されるというのが主流です。栄養素の地球化学的循環には、微小消費者の存在が不可欠です。
ところが、植物の中には、ギンリョウソウ、ツチアケビなどのように光合成をほとんど、あるいはまったくおこなわず、菌類から有機化合物を奪い取って生活している変わり者がおり、菌類従属栄養植物といいます。菌類従属栄養植物といっても、菌類から受け取る栄養の種類と量は、両者の組み合わせにより様々で、炭素栄養の相当部分を菌類から得ているが葉緑体も持っていて自分でもある程度の光合成をおこなうシュンランなどもありますが、中には植物の方は完全に光合成をやめてしまったもの(ギンリョウソウ)など、いろいろです。
菌類従属栄養の起源として考えられる現象として、菌根と植物による双利共栄があります。地球生態学的には、植物側は菌類に光合成産物である有機化合物を与え、菌類は有機化合物を分解したり、環境中に有機酸を分泌などして、土壌中に不足しがちなリン、窒素化合物、鉄などの栄養塩類を植物にとって利用しやすくします。さらに歩を進めて、相互の物質交換をより効率的にするために、菌類が植物細胞壁の内側に菌糸を伸ばす場合(内生菌根)もあれば、根の外側に菌が塊状にへばりついているもの(外生菌根)もあります。一般に、菌根が両者双方にとって有効な場合が多いことは、例えば、ヨーロッパ産のマツをオーストラリアに植えて生育が良くなかったが、これにヨーロッパの土をすきこんでやると生育が良くなったという報告もあります。これは、マツに必要な土壌中の栄養素を、菌類が利用しやすくしているためだと考えられます(生物多様性保全の観点からは、外来の生物を無原則的に持ち込むべきでないという批判もありましょうが)。ある研究者は、木本植物の約60-80%は内生菌根か外生菌根を持っていると推定しています。このように、多くの場合、菌根の形成は植物と菌類の双方にとって生命維持に有利に働くといえます(双利共生)。
菌類従属栄養植物の出現に関して、想像をたくましくすれば、植物と菌類が内生菌根を作り、両者が組織をからませつつ共利共生的物質の交換をしていたが季節的に植物の光合成に適さない時期があり、その期間は植物が菌類から有機物の供給を受けている例もあった。そのうちに、植物側が良い季節になっても光合成をおこなわず、1年中菌類から有機物の供給を受けるものが出現した。菌類にとっては、全く不公平な扱いですが、自然界にはこのようなことも起こるのでしょう。これは、まったくの想像に基づく記述です。
生きた植物が他の植物個体との間で栄養のやり取りをする例として、農業生産技術では接ぎ木があり、例えば、ブドウやリンゴの接ぎ木では、根のついた植物(台木)の茎を途中で斜めに切断し、これに別の品種の植物から切り出した地上部(穂木)を、斜めに切った切断面が合わさるように接合させておくと、しばらくして、穂木の傷口側の細胞と台木の細胞の一部が分化して両者の間につながった維管束が形成されて、物質の交換が起きます。この場合は、両者の傷口近傍の細胞組織が分化して、合体した植物体で、機能を持つ維管束が分化しているはずです。植物が他の個体との間で組織を分化させながら、栄養のやり取りをすること自体にはそれほどの驚きはありません。
さて、菌類従属栄養植物が、どのような仕組みで菌類から有機物を受け取っているかに関して、詳しい仕組みはよくわかっていないと思います。この現象の解明には、例えば、次のような方法が有効だと想像されます:菌類を純粋培養し、ここに、別に育てた菌類従属栄養植物を組み合わせて、植物が菌類から栄養をもらうにはどのような組織、細胞分化が双方にとって必要かを明らかにする。しかし、現実には、菌類従属栄養植物を単独で育て、また相棒となる菌類を独立に育て、その後、両者を組み合わせるという実験系は確立していないように思われます。
生物界にはいろいろなやり方がありうるものだと、驚くばかりです。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生態系を物質循環の視点から全体的に眺めれば、植物(生産者)が光合成によって地球生態系に有機化合物を供給し、動物(消費者)が植物を食べ、植物の枯れ葉や動物の排泄物や遺骸を昆虫やカビ、細菌、菌類など(微小消費者、または分解者という)が食べて、最終産物はCO2として、また、無機化合物として環境中に排出されるというのが主流です。栄養素の地球化学的循環には、微小消費者の存在が不可欠です。
ところが、植物の中には、ギンリョウソウ、ツチアケビなどのように光合成をほとんど、あるいはまったくおこなわず、菌類から有機化合物を奪い取って生活している変わり者がおり、菌類従属栄養植物といいます。菌類従属栄養植物といっても、菌類から受け取る栄養の種類と量は、両者の組み合わせにより様々で、炭素栄養の相当部分を菌類から得ているが葉緑体も持っていて自分でもある程度の光合成をおこなうシュンランなどもありますが、中には植物の方は完全に光合成をやめてしまったもの(ギンリョウソウ)など、いろいろです。
菌類従属栄養の起源として考えられる現象として、菌根と植物による双利共栄があります。地球生態学的には、植物側は菌類に光合成産物である有機化合物を与え、菌類は有機化合物を分解したり、環境中に有機酸を分泌などして、土壌中に不足しがちなリン、窒素化合物、鉄などの栄養塩類を植物にとって利用しやすくします。さらに歩を進めて、相互の物質交換をより効率的にするために、菌類が植物細胞壁の内側に菌糸を伸ばす場合(内生菌根)もあれば、根の外側に菌が塊状にへばりついているもの(外生菌根)もあります。一般に、菌根が両者双方にとって有効な場合が多いことは、例えば、ヨーロッパ産のマツをオーストラリアに植えて生育が良くなかったが、これにヨーロッパの土をすきこんでやると生育が良くなったという報告もあります。これは、マツに必要な土壌中の栄養素を、菌類が利用しやすくしているためだと考えられます(生物多様性保全の観点からは、外来の生物を無原則的に持ち込むべきでないという批判もありましょうが)。ある研究者は、木本植物の約60-80%は内生菌根か外生菌根を持っていると推定しています。このように、多くの場合、菌根の形成は植物と菌類の双方にとって生命維持に有利に働くといえます(双利共生)。
菌類従属栄養植物の出現に関して、想像をたくましくすれば、植物と菌類が内生菌根を作り、両者が組織をからませつつ共利共生的物質の交換をしていたが季節的に植物の光合成に適さない時期があり、その期間は植物が菌類から有機物の供給を受けている例もあった。そのうちに、植物側が良い季節になっても光合成をおこなわず、1年中菌類から有機物の供給を受けるものが出現した。菌類にとっては、全く不公平な扱いですが、自然界にはこのようなことも起こるのでしょう。これは、まったくの想像に基づく記述です。
生きた植物が他の植物個体との間で栄養のやり取りをする例として、農業生産技術では接ぎ木があり、例えば、ブドウやリンゴの接ぎ木では、根のついた植物(台木)の茎を途中で斜めに切断し、これに別の品種の植物から切り出した地上部(穂木)を、斜めに切った切断面が合わさるように接合させておくと、しばらくして、穂木の傷口側の細胞と台木の細胞の一部が分化して両者の間につながった維管束が形成されて、物質の交換が起きます。この場合は、両者の傷口近傍の細胞組織が分化して、合体した植物体で、機能を持つ維管束が分化しているはずです。植物が他の個体との間で組織を分化させながら、栄養のやり取りをすること自体にはそれほどの驚きはありません。
さて、菌類従属栄養植物が、どのような仕組みで菌類から有機物を受け取っているかに関して、詳しい仕組みはよくわかっていないと思います。この現象の解明には、例えば、次のような方法が有効だと想像されます:菌類を純粋培養し、ここに、別に育てた菌類従属栄養植物を組み合わせて、植物が菌類から栄養をもらうにはどのような組織、細胞分化が双方にとって必要かを明らかにする。しかし、現実には、菌類従属栄養植物を単独で育て、また相棒となる菌類を独立に育て、その後、両者を組み合わせるという実験系は確立していないように思われます。
生物界にはいろいろなやり方がありうるものだと、驚くばかりです。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-12-03