一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ケイトウの種子のでき方について

質問者:   一般   TK
登録番号5551   登録日:2023-01-23
初めて質問させていただきます、ケイトウの種子のでき方についてお教えください。
ケイトウの種を観察したところ、種は子房の下の方にある胎座から複数噴き出すように作られているように見えました(独立中央胎座というのでしょうか)種の上には空間があり花柱と直接つながっているようには見えませんでした。
よく見かける受精の説明図は、受粉して花粉管が柱頭から花柱を経て直接胚珠の珠孔に入るように書かれていますが、ケイトウのように種の周りに空間があるものは花粉管はどのように伸びて珠孔に入るのでしょうか。
また、複数の胚珠の中で未熟なものは花粉管が伸びてこなかったか、栄養が行きとどかなったために成熟しなかったということでしょうか。
つたない質問で申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。
TK様、

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ケイトウの種子のでき方について」にお答えします。
ケイトウでは種の上に空間があり花柱と直接つながっているようには見えないことから、花粉管は空間を伸びて珠孔に入ったのだろうと判断され、花粉管が空気中を伸びることなどあるのだろうかと疑問に思われたものと推察します。私も花粉管は柱頭の組織の中を伸びるものであって空気中を伸びることはないと考えていました。ご質問ではケイトウの「種を観察」されたとありますので、胚珠が種(種子)にまで発生が進んだものを観察され、その段階では子房壁の生長も進んでいて種子との間に間隙が生じていたために「種の上には空間がある」と観察されたのではないかとも思いました。そうであるならば、花粉管の伸長と受精はすでに済んでいるので、もっと早い時期に観察される必要があったと思います。しかし、専門家の考えを伺う必要があると思いましたので、植物の受精についてご専門の東京大学の東山哲也教授に回答をお願いしました。東山先生のご回答は以下の通りです。

【東山先生のご回答】
ケイトウの胚珠は湾生型(登録番号4663参照)で、珠孔は胎座側を向くようです。花粉管はふつう胎座と珠柄の表面を伝って珠孔に進入します。稀に珠柄内部を通る場合もあります(合点受精などにおいて見られます;登録番号3230参照)。いずれにしても、胎座がどのように子房のなかで配置され、周囲の組織と接続しているかが、花粉管の胚珠への経路に関わります。ケイトウでどのようになっているかは、すぐには文献も見つかりませんでしたので、様々な時期の雌蕊を簡単な顕微鏡を使って注意深く観察されるとよいと思います。
ご質問の内容から、仮に胎座が花柱基部に接続していないとして、もう少し掘り下げます。この場合、花粉管は子房の内壁を伝って胎座にまで到達したあと胚珠に向かうと想像します。花粉管は基本的には雌蕊の組織表面や組織内部を、細胞(正確には細胞外基質)や粘液に接触しながら伸長します。しかし教科書等で描かれるとき、なるべくシンプルな絵で要点を伝えるという意図もあるのか、中には花粉管が花柱の基部から子房内の空中を伸長して珠孔に入るように見える模式図も目にします。このような描写が絶対に間違いかと言われると、そうとも言い切れません。二次元では組織同士がどう接触しているか表現するのは難しいことに加え、シロイヌナズナの突然変異体の子房内部では、花粉管が空中を伸長するように観察されることもあります。花粉管がどのような経路を通って伸長するかは、対象の植物で多くの実例を観察して判断することが重要と思います。
複数の胚珠(種子)の中に未熟な胚珠がある場合は、例えば受粉した花粉の数が少なかったなどの原因から、花粉管が到達しなかったという理由が最も有り得ると思います。しかし、胚珠や花粉の発生、受粉、受精、受精後の初期発生といった、一連の過程のいずれのステップにおける異常も理由になり得るので、詳しい解析が必要です。
東山 哲也(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
竹能 清俊
回答日:2023-02-18