一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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トマトのかん水について

質問者:   高校生   あこ
登録番号5552   登録日:2023-01-25
学校でトマトを畑で栽培しています。夏は水を1日500mlぐらいかん水していますが、どれぐらいトマトは吸収しているのか疑問に思うようになりました。なぜなら染み込んだ水は一旦、土に染み込みますが、夏であれば多くが蒸発したり、土に保持されてしまうからです。
もし露地や鉢植え栽培している場合、どのようにしたら植物の吸水量、土壌からの蒸発量、土に保持されている量を測定できるのでしょうか。測定してみたいので教えていただければうれしいです。
あこさん

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問は植物の水分生理の問題に関係しますね。もう十分理解されているかもしれませんが、まず、植物は体の中へどの様にして水を取り込み(吸水)、身体の中でどの様にそれを利用し、処理しているか(収支)を簡単に説明します。植物と言ってもいろいろありますが、ここでは土壌で栽培している「トマト」、つまり草本の被子植物を念頭において簡単に説明します。 
植物は生育している土壌(培地)中に広がって成長している根系(根毛細胞、根の表皮細胞)から土壌中にある水分を吸収します。そして水は根と茎の道管を通して地上部に吸い上げられ、体の隅々まで運ばれます。これらの水の役割は、大きく分けて、
1)物質の輸送媒体として:根からは土壌に含まれている栄養分(主として無機塩類)、葉からは光合成産物などの輸送に使われます。
2)加水分解反応など体内で行われる各種の生化学反応に関わる物質(基質)として使われます。また、光合成では光エネルギーを利用した水分子の分解が必須なので、そこでも使われます。
3)特に草本植物の体の機械的強度維持:草本植物が水不足になると萎れます。これは身体を構成している細胞が水を失い、張りがなくなるからです。細胞が水を吸うと水は液胞の中に蓄えられ、それが膨圧となって、細胞壁を押し広げます。その結果植物体はシャキッとした状態を保つ事が出来るのです。

さて次に、水はどのようにして地上部の上まで輸送され得るのかというと、水は毛細管のような道管(死んだ細胞です)を通って葉にある気孔まで運ばれます。そこで、気孔から「蒸散」作用によって大気中へ排出されます。もちろん体表からも直接蒸発で失われますが、ごく一部にすぎません。さらに、この蒸散作用が、葉の、根まで繋がって水に満たされているいる道管の内部に負の圧力(陰圧)を生じ、それが吸水の原動力となるのです(登録番号2288を読んでください)。蒸散が盛んであればそれだけ根からの吸水量も多くなります。吸水が多ければ土壌から無機養分がより多く取り込まれることになります。言ってみれば植物体は大きな生体濾過器の様なもので、吸収した水に含まれる固形分をろ過して体内に止め、余分の水を気孔から排出しているのです。

さて、そこでご質問の「植物の吸水量」のことですが、以上の様に吸水量は気孔からの蒸散量によって大まかに決まりますので、根からの吸水は気孔の開閉度がいちばん大きな要因です。気孔は特別な植物(サボテンなどのC4植物:Q&Aコーナーで「C4植物」検索してください。たくさんの項目があります。)を除いて、夜は閉じます。また、蒸散は大気の湿度、温度、空気の動き(風)によって影響されます。他方、土壌の性質や状態も根の水の吸いやすさに影響します。しかし、土壌がどうであれ、萎れていない植物が日中根から吸収する水の量は、同じく気孔から蒸散する水の量とほぼ同じと見做していいでしょう。したがって吸水量は蒸散量を測定すればいいことになります。しかし、露地で育てている個体の蒸散をそのままの状態で測定することは、まず無理だと思います。もし、あまり大きくない鉢植えで、そのまま重量が測定できる様な条件でしたら、次の様にして大まかな測定はできるでしょう。
二つの同じサイズの鉢を用意し、どちらにも等量の同じ性質の土壌を入れる。一つはトマトを育てる。トマトが萎れていない状態の時、両方の鉢に土壌が水飽和になる様潅水して、それぞれ重量を測る。同じ条件下に一定時間置いてから、再びそれぞれの重量を測定する。どちらの鉢も重量は減っているはずです。トマトが植わっていない方の鉢の減少は物理的な蒸発による水の減少を示し、トマトが植わっている方の減少は蒸発とトマトが吸収した事によって減少した水の量を示しています。これによってあこさんが知りたい三つの事がわかります。もちろん大まかではありますが。もっと良い方法が考えられるかもしれませんので、これを参考にして検討してみてください。因みに、植物体にどれだけ水が保持されているかは、植物体を取り出し、各器官に分けて、まず生重量を測り、後完全に乾燥させて、乾燥重量を測ればその差が植物体の水分量となります。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-01-27