質問者:
教員
hammar
登録番号5555
登録日:2023-01-28
いつもお世話になっております。みんなのひろば
植物における染色体変異
植物の染色体にも、動物と同じように染色体の欠失・重複・逆位・転座などの変異が見られると思うのですが、以下の点についてお伺いしたいです。
①これらの染色体の変異は、植物においては一般にどの時期の細胞に起こるものなのでしょうか?動物(特にヒト)については、下記のURLのサイトのように、セントロメアと思われるくびれがある染色体を説明用の模式図に利用しているので、いわゆる分裂期の前~中期のように見えます。植物においても、精細胞や卵細胞を形成する減数分裂の第一分裂か第二分裂のどちらかの前期か中期で、このような変異が起こるのでしょうか?
あるいは特にそういうことはなく、間期の分散している時期や後期や終期にも染色体の変異は起こりうるのでしょうか?
記)https://www.hiro-clinic.or.jp/nipt/types-of-chromosomal-aberrations/
また、前~中期の染色体は、セントロメアを挟んでいわゆる“X字”の形状をしていると思うのですが、この短腕と長腕が2本ずつある状態の染色体に変異が起こるとすると、例えば『2本ある短腕のどちらかに重複変異が起きて、片方の短腕だけ長くなった』なのか『2本の短腕の同じ場所に同時に重複が起こるので、2本の短腕の長さは同じだけ長くなる』なのか、どちらなのでしょうか?上記のサイトの図でもそうですが、これらの染色体変異を説明する図では、染色体の模式図がX字ではなくI字になっているので、個人的には少し分かりにくいです。
②染色体変異の結果生じた植物の形質として、花弁の色や葉の形など、何か分かり易い例がありましたら教えていただきたいです。wikipediaには重複の例として白いカラスやオレンジのモグラなどが記載されていましたが、これもソースを見つけることができませんでした。
hammar 様
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には東京大学の松永幸大先生から下記の回答文を頂戴しました。参考になさってください。
【松永先生からの回答】
染色体の変異とDNAの変異を分けて考える必要があります。
DNAの変異、つまり、塩基配列の欠失・重複・逆位などは、体細胞分裂や減数分裂および細胞周期に関係なく起こります。DNAの変異の結果、染色体に変異が起こる場合と、起こらない場合があります。両者を分けているのは、DNAの変異箇所の染色体上での位置や、その変異の大きさであると考えられています。染色体の変異は、減数分裂の組換え期に起こることが多いですが、体細胞分裂でも起こります。今のところ、動物と植物間の差は報告されていません。
DNAの変異と染色体の変異を分ける基準は、定まっていません。例えば、1塩基置換(SNP)はDNAの変異という場合がありますが、染色体の変異とは言いません。それでは塩基配列のうち何塩基対以上が変化したら染色体変異というか?も定まっていません。従って、教科書でもDNAの変異と染色体の変異が混在して書かれており、欠失・重複・逆位という言葉が共通に使用されています。研究者の現場の考えでは、数万から100万塩基対で構成されるDNA領域の場所が変化した場合は、染色体変異と考えています。これも、研究している生物の染色体本数や大きさによって変化してきますので、定義することは難しいです。
また、最近、研究現場では、染色体という概念が、凝縮した状態だけでなく分散した間期の核の中でも、「染色体」という呼び方をするようになってきました。これは凝縮していなくても、同じ染色体を形成するDNA(染色体DNA)は間期の核の中で、一定の区画に位置することがわかってきたからです。このようなことからも、今後、染色体の変異という概念は、DNAの変異の概念の一部として吸収されていくと推測しています。
例えば『2本ある短腕のどちらかに重複変異が起きて、片方の短腕だけ長くなった』なのか『2本の短腕の同じ場所に同時に重複が起こるので、2本の短腕の長さは同じだけ長くなる』なのか、どちらなのでしょうか?
一般的に、相同染色体の同じ場所に同時に重複が起こることは稀ですので、『2本ある短腕のどちらかに重複変異が起きて、片方の短腕だけ長くなった』と考えられますが、染色体に脆弱部位があった場合は、相同染色体の同じ場所に同時に重複が起こることもあります。従って、後者も全く起こらないとは言えません。
植物の染色体変異の例は以下にあります。
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2001/20011004_1/20011004_1.pdf
https://www.qst.go.jp/site/press/1195.html
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=886
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/science/7769.html
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には東京大学の松永幸大先生から下記の回答文を頂戴しました。参考になさってください。
【松永先生からの回答】
染色体の変異とDNAの変異を分けて考える必要があります。
DNAの変異、つまり、塩基配列の欠失・重複・逆位などは、体細胞分裂や減数分裂および細胞周期に関係なく起こります。DNAの変異の結果、染色体に変異が起こる場合と、起こらない場合があります。両者を分けているのは、DNAの変異箇所の染色体上での位置や、その変異の大きさであると考えられています。染色体の変異は、減数分裂の組換え期に起こることが多いですが、体細胞分裂でも起こります。今のところ、動物と植物間の差は報告されていません。
DNAの変異と染色体の変異を分ける基準は、定まっていません。例えば、1塩基置換(SNP)はDNAの変異という場合がありますが、染色体の変異とは言いません。それでは塩基配列のうち何塩基対以上が変化したら染色体変異というか?も定まっていません。従って、教科書でもDNAの変異と染色体の変異が混在して書かれており、欠失・重複・逆位という言葉が共通に使用されています。研究者の現場の考えでは、数万から100万塩基対で構成されるDNA領域の場所が変化した場合は、染色体変異と考えています。これも、研究している生物の染色体本数や大きさによって変化してきますので、定義することは難しいです。
また、最近、研究現場では、染色体という概念が、凝縮した状態だけでなく分散した間期の核の中でも、「染色体」という呼び方をするようになってきました。これは凝縮していなくても、同じ染色体を形成するDNA(染色体DNA)は間期の核の中で、一定の区画に位置することがわかってきたからです。このようなことからも、今後、染色体の変異という概念は、DNAの変異の概念の一部として吸収されていくと推測しています。
例えば『2本ある短腕のどちらかに重複変異が起きて、片方の短腕だけ長くなった』なのか『2本の短腕の同じ場所に同時に重複が起こるので、2本の短腕の長さは同じだけ長くなる』なのか、どちらなのでしょうか?
一般的に、相同染色体の同じ場所に同時に重複が起こることは稀ですので、『2本ある短腕のどちらかに重複変異が起きて、片方の短腕だけ長くなった』と考えられますが、染色体に脆弱部位があった場合は、相同染色体の同じ場所に同時に重複が起こることもあります。従って、後者も全く起こらないとは言えません。
植物の染色体変異の例は以下にあります。
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2001/20011004_1/20011004_1.pdf
https://www.qst.go.jp/site/press/1195.html
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=886
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/science/7769.html
松永 幸大(東京大学・新領域創成科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2023-02-01
佐藤 公行
回答日:2023-02-01