一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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揮発性物質

質問者:   高校生   高校では生物を専攻しよう
登録番号5556   登録日:2023-01-29
受験勉強で植物について勉強してると、教科書、資料集に載っていないことに対して気になることが出てきたので質問します。植物の環境に対する応答の食害について、揮発性物質が周囲の植物に食害を伝達する仕組みがありますが、そのほかに食害者の天敵を誘導し、食害を抑制するという方法があるらしいのですが、どうやって食害を受けてる植物に天敵を誘導するのですか。
高校では生物を専攻しよう様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。生物学が好きな方のようですね。将来は植物科学の研究者になって下さい。
さて、ご質問の問題はいわゆる植物におけるケミカル・コミュニケーションの事柄ですね。植物が体内から色々な物質を外部への信号として放出していることは既に学ばれていることと思います。特に葉が傷害や虫害や病害に侵された時は、揮発性の物質(VOCs: Volatile Organic Comounds,揮発性有機化合物)をすばやく生産します。これらの物質はほとんど揮発性テルペン化合物です。その利用の仕方は色々で、直接敵(昆虫やカビなど)をやっつける場合もあるし、自分の体の他の健全な部分や近くの仲間がそれを危険信号として捉え、撃退用の物質や抗生物質の生産という対抗手段を準備させることにも役立ちます。これらはいわば直接的な防御法です。これに対し、間接的な防御法ともいうべき利用の仕方があります。米国のTed C.J.Turlings 他5名の共著で発表された論文(*)の結果をその1例として紹介しておきます。彼らはトウモロコシとワタの幼植物に、ヤガ科 のSpodoptera exigua とS.frugiperda (ツマジロクサヨトウ)の幼虫(ケムシ)が食害を与えた時に放出されるVOCs を分析・測量し、同時にその一部の化合物がこのケムシの天敵の寄生バチであるCotesia marginiventrisという体長3mmほどの小さいハチを誘い寄せることを明らかにしました。このハチはトウモロコシやワタの葉を食んでいるケムシに産卵し、その結果ケムシは死んで、さらにハチは増えることで一石二鳥ということになります。
* How caterpillar-damaged plants p/protect themselves by attracting parasitic wasps. Ted C.J.Turlings et al . Proc. Natl.Acad.Sci. USA 92:4169 - 4174 (1995)
さらに詳しいことを知りたい時や分からないことがあったら、再度質問してください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-01-30