一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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細胞分裂時の液胞について

質問者:   大学生   アジサイ
登録番号5557   登録日:2023-01-29
動物細胞と植物細胞の大きな違いとして液胞が発達しているかというものがあります。
ここで、液胞が十分に発達した植物細胞が細胞分裂をすることを考えると、液胞を大きく2つに分割しなければならないと思いますが、液胞の内容物を漏出させずに分割するということは可能なのですか。また、可能なのであればどのように行っているのですか。
アジサイ様

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
この質問に対する回答は、細胞生物学の研究が専門の富永基樹理学博士(早稲田大学教育総合科学学術員教授)にお願いしました。

【富永先生のご回答】
成長した植物細胞では、液胞が細胞容積の90%を占めるようになる場合もあり、これが植物細胞の一般的な状態だと受け取られる人も多いかと思います。しかし、液胞の大きさや細胞あたりの数は、植物細胞の生育段階によって大きく変動します。未分化な植物細胞には小さく未発達な液胞が複数存在しており、細胞が成熟するにつれて小さい液胞同志が融合するとともに液胞自体も吸水することで膨らんでいきます。成熟した細胞を念頭に、細胞分裂の時に液胞がどうなるか、疑問を持たれるのは自然なことです。
多細胞生物で、機能が特化した細胞を生み出す能力を保持している細胞を多能性幹細胞といい、動物では受精後の発生過程で間もなく消滅しますが、植物では幹細胞の中に多能性を失わないものがあります。植物では、これらの幹細胞は集団として体中に増え、植物の永続的かつ旺盛な器官成長を支えています。たとえば、地上部を切った根を湿った土に植えておくと新しい芽が出てくる、根を切った植物の地上部を湿った土壌に挿しておくと根が出てくる、枝を切った茎からしばらくすると枝や葉が伸びてくる、これらのことは、植物が体細胞から条件によっては多能性幹細胞を新生する能力も備えていることを示しています。
教科書に載っているような細胞壁によって囲まれている成熟した植物細胞がどうやって増殖するのかを想像することは困難ですが、細胞壁が完全ではなく細胞分裂が可能な植物組織の細胞ではこのことが可能です。この場合は、細胞壁が完成した細胞が2つに分割されるのではなく、細胞壁が未完成で増殖や分化が可能な植物幹細胞では、小さな液胞が葉緑体やミトコンドリアといった他の細胞小器官と共に、2つの区分に分配され、最後に細胞板によって仕切られることで細胞分裂が完了します。
なお、液胞が発達した細胞における分裂の報告もあります。例えば、タバコの培養細胞では、発達した植物組織の細胞と同様に、細胞あたり1つの大きな液胞がみられます。この培養細胞が分裂するとき、液胞は中央部分が複数の管状の構造へと姿を変えます。この構造変化にはアクチンとよばれる細胞骨格タンパク質が関わっていることが示唆されています。最終的に、この管構造が分断されることによって液胞が分かれ、2つの細胞に受けつがれます。管構造が分断される時に液胞の内容物が漏れ出すことはありません。液胞に限らず、細胞や細胞小器官は生体膜とよばれる脂質からなる薄い膜で包まれています(本学会、みんなのひろば、登録番号817参照)。生体膜は非常に柔軟で、お互いに近寄れば融合しすぐに閉じることができるので、分断の際に中身が漏れ出す心配はありません。
富永 基樹(早稲田大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2023-02-26
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